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第四十一話 金策ミソジ

 工業地帯の近く、整備されていない竹林がある。

 鬱蒼と繁る雑草の群れ。都内とは思えない野性味あふれる空気感がそこにはあった。

 当然、一般人がそこに足を踏み入れる理由もなく、人気などあるはずもなかった。例の三人を除いては……。


「ホントにここにいたんですか?」

 ハルイチが訝しげにタロウを見る。


「そそ、ここでエンカウントしたのよ! ゴールデンオークと!」


 ゴールデンオークとは、簡単に言うとオークという猪の頭と人の体の姿をしたモンスターのレアバージョン、であるらしい。


「そいつがめっちゃ持ってるのよ! お金を!」

 タロウの目がドルマークになっている。


「その時、タロウさん倒したんですよね? どれくらい稼げたんですか?」

 ハヤカは虫が苦手のようで、足元の雑草を木の枝で払いながらおどおどしている。


「それがねぇ…、俺が倒したら経験値もお金も数値がバグる時があるから……」

 タロウは思い出したかのように悔しがった。


「あぁ、そういえばそうでしたね…、だから俺達を連れてきたんですね」


「そそ、二人に頑張ってもらって今月の家賃を……ゲホゲホ」


「ちょっと後半聞き捨てならない気がしたんですけど、なんでそんなにお金ないんですか?」


「やっぱり、私達の装備にお金かかっちゃったんですよね? ごめんなさい」

 ハヤカは涙目になっていた。


「い、いやいや、そんなことはないよ、あれだよあれ、塔を攻略するのに大量に聖水を買ったから…」


 ハヤカの目を見てしまうと、まさか人生二度目の競馬でまたもや有り金全部をすってしまったとは言い出せない。


「まぁ、そのために経験値稼ぎと金策の期間を作ったんですから、みんなで頑張りましょう!」

 ハヤカが泣きそうになっていたので、ハルイチも慌てて同調する。


 市川部長とは、あれから本社で会うことが出来た。

 しかし、【現実ゲーム化現象】に巻き込まれ四天王にされていたことや、タロウに解雇の話をしたことなど重要な部分について、きれいサッパリ忘れてしまっていた。高嶺が言うには、塔から連れ帰った後、事情を聞こうとした時にはこのような状態だったそうだ。あらゆる手段で記憶の復旧を試みたが、効果はなかった。


 ハルイチは何か思うところがある様子で、この説明には納得していなかった。


 だから、高嶺や会社から納得のいく話があるまで攻略を一旦中断しようとタロウとハヤカに提案したのだ。


 その間、それぞれレベルアップに励むことになった。

 ハルイチとハヤカは経験値を得て文字通りのレベルアップを、レベルの関係ないタロウはお金を貯めてより強い装備や道具を購入できるように。


 そしてタロウは、ゲームとは全く関係のない方法で全財産を失い今に至る。


「タロウさんはどうしてこんなとこに来たんですか?」

 なるほどもっともな疑問をハヤカはストレートにぶつけた。


 言えるはずもない。この近くに競馬場があってそこに行っていたなんて。楽してお金を増やし、後はサボろうと思っていたなんて。その結果、帰りの電車賃すら失くして歩いて帰っている途中、たまたまショートカットするために入った場所がここだったなんて。


「ええ、えっとねぇ…、あ、そうだ、裏技、金策の裏技を思い出してねぇ…、それでここにキタノ…」

 最後の方はカタコトの日本語になりながら必死に思い付く限りの言い訳を口から放った。


「あ、そうだのセリフが、明らかに今思い付いた感が満載なんですけど」

 さすがパーティー一番の切れ者、ハルイチには通じなかったようだ。


「まぁ、そーいうことにしときますよ、パーティーの資金が山田さんの財布と直結してて大変だなぁって思ってたので」

 ハルイチが一番大人のようだ。


「あ、ありがとー、ハルイチ君…」


 ハルイチを抱き締めようとタロウが駆け寄った瞬間、モンスターと遭遇エンカウントした。


 オークの群れが現れた!!


 タロウ達を囲むように、六体のオークが出現した。


「ゴールデンなやつはいないか」

 タロウは、ひのきの棒を構える。


 オークは、それぞれ槍を握りしめており、その切っ先をタロウ達に向けて臨戦態勢をとっている。


「ハルイチ君! ハヤカちゃん! 懲らしめて差し上げなさい!」

 タロウはどこかのご老公のように二人に指示を出した。


 ハルイチが、一番速く行動を開始する。

 少し前に出ているオークの足目掛けて【ルモエ】を放った。

 小さな火球だったが、命中した途端に大爆発を起こす。

 あまりのダメージに倒れ込んだオークに向かって、間髪入れずにハヤカが戦斧を叩きつける。

 なす術なくオークAは、光と共に消滅した。


 一瞬のうちに、二人の連携でオークを倒した。


「すげぇ、二人ともめっちゃ強くなってる……」

 タロウとハルイチは、オークを倒したことで出来たすき間を転がり出て包囲網から脱出する。

 強くなったというよりは、戦い慣れてきた、という方が正確かもしれない。


 オークの取り囲む円の中心に残ったハヤカは、砲丸投げの要領で戦斧を振り回した。


 ハヤカは【竜巻斬り】を放った!!


 オークの群れに、平均367のダメージ!!


 ハヤカはオークの群れを倒した!


 ・スキル【竜巻斬り】…持っている武器を自らを中心に円を描くように振り回すことで、複数の敵にダメージを与える。


「ひょ~、ハヤカちゃんは新技も覚えたんだねぇ~」

 タロウは、そう言いながらもいくらお金が落ちたのか確認を怠らない。


「山田さん、まだいます! あれ!」

 ハルイチが指差した方、竹林のすき間から金色に輝く毛の様なものが覗いている。


「あ、あ、あれわぁぁぁぁ~」

 タロウは、急いでハルイチとハヤカの手を掴むと、それに向かって全力で走り出した。


「ちょ、山田さん、痛いですって…」

 ハルイチは、すぐに手を振りほどくと、それでもあれが何かすぐにわかったようでスピードを落とさず向かっていった。

「タロウさん、いきなりそんな積極的な…」

 手をつないだままのハヤカは何故か、頬を赤らめている。


 死角になっている竹の横から三人が飛び出すと、ハルイチとハヤカは先ほどの連携攻撃を行おうとする。


 戦闘開始のまさにそのタイミングで、金色に輝くオークは、光と共に消えてしまった。


「へ? なんで?」


 何が起こったかわからず、呆然と立ち尽くす三人だった。

 光が消え去って、その先に一人の男が立っていた。

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