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第三十七話 合戦ミソジ⑫

 ・魔法【ルコオイスゴ】……氷属性の上級攻撃魔法、対象一体に氷の竜を放ち、特大ダメージを与える。


 氷の竜の鋭い爪がタロウを襲う。


 ジジーストは、勝利を確信し口元の深い皺を三日月に歪めた。


 ハルイチとハヤカは、どうすることも出来ずに目を背けてしまった。


 ゆっくりとした時間をタロウは感じている。

<こんな感じ前にもあったなぁ…、そうだ入社試験の時に月野妹をかばった時だ…、あの時も死んだと思ったけど今回はもっとヤバい、確実に死んだ…>


 凄まじい冷気に乗って白い半透明の爪が目前まで迫ってきた。


<主人公が死んだら全滅扱いで教会に戻されるから、これはこれでいいかー、あの子たちに余計な痛い思いさせないで済むからなぁー、仕切り直してやり直しだ>


 諦めの境地にいるタロウ。


 気のせいか目の前に、いつか見たような光の壁が現れた。


「もう二度と死なせない」


 タロウの耳に小さな、でも確かな声が聞こえると、突然、黒い斬撃が氷の竜を微塵に切り裂いた。


「な、何事じゃ?」


 ジジーストは、目の前で自慢の魔法がいとも簡単に切り裂かれた光景が信じられなかった。


 氷の魔法が破られた影響で辺りに水蒸気が満ちて霧と化し、視界が奪われる。


 ハルイチもハヤカも何が起こったのかまったく見当がつかない。

 霧の中にタロウともう一人の人影がかろうじて確認出来た。


 少しずつ霧が晴れていき、黒いフードの付いたローブを着た人物がタロウの前に姿を現した。


 その両手には、片刃の黒い刀身の剣をそれぞれ握り、切っ先をジジーストに向けて構えている。


「あいつは黒いローブの仲間か? あの時の大柄なやつでも、小柄なやつでもないみたいだが」


 ハルイチは、黒いローブの背中を見つめることしか出来ない。


「もしかして、高嶺さんが言っていた【ゲームマスター】って人じゃないですか?」

 ハヤカが、ハルイチに尋ねる。


 確かに、自分たちが確認できている黒いローブの人物は三人、聞いていた容姿の情報からGMゲームマスターである可能性は高い。ただ、当然新しい組織の人間という可能性も捨てきれない。

 どちらにしても今は敵として現れたわけではない様子だ。


 ハルイチ達が困惑していると、その黒いローブの人物は少しタロウの方へ顔を向けると、

「ほんとはもっと後で会うつもりだったんだけどねー、()()()()使()()()()()()()ここで苦戦すると思ったから手伝いに来ちゃった」

 それは重苦しい黒いローブ姿に似合わない、とても緊張感のない軽い口調でタロウに語りかけた。


「へ?誰?」

 タロウからは、フードで顔もわからなかったが、何故か懐かしい感じがした。


「自己紹介をしとこう、ハヤカちゃんの言う通りGMゲームマスターと名乗っている者だよー」


 そう言うと、二本の剣を器用にクルクルと回して何もない空間に納めた。


「貴様はいったいなにモ%{${]|&/-6」


 ジジーストの動きが、早送りになったり巻き戻ってコマ送りになったり異常な動きを見せる。

 辺りの景色も所々でノイズのような歪みが起こり、ひび割れが起きたり消えたりしている。


「やっぱり、部外者が邪魔をするとエラーを吐くか…、これ以上の干渉は危険だなー」


 フードの上から頭をポリポリ掻きながらGMはこちらを振り返る。


「あなたは敵なんですか?」

 ハルイチが聞いた。


「ゲームクリアに関して言えば、俺たちは味方だよー」

「あ、一部そうじゃない黒い鎌を持った人もいたけどねー」

 我慢をしていたのだろう、片膝をついて息を切らしているタロウの肩をGMが優しく叩くと、

「あの二人なら大丈夫だよー、全部背負うことはない、もっと信じてあげなよ」

 と、()()()()()()()()()()()()優しい語り口で話した。


「あ、あなたは誰なんだ?」

 タロウはフードの中を覗こうとしたが、モヤがかかったように顔の判別ができない。


「そうだねー、古い友人だよー」

 そしてGMは動けないハルイチとハヤカの前までゆっくり歩いてきた。


「【バッチリがんばって】!!」

 そう強めの声を出すと、二人の体の自由が嘘のように解けてしまった。


「そ、その作戦は…!?」

 タロウはまさかの表情でGMを見る。


「これで、君たちは自分の思うように動けるはずだよー」

 くるりとタロウの方に振り返るGM。


「ハヤカちゃんは、敵のHPの表示が黄色くなるまでひたすら攻撃をして、黄色くなったら今度はハルイチ君が魔法で表示が赤くなるまで攻撃するんだ、決して倒しちゃあいけないよ」

 そう言うと、GMは黒い煙に包まれて消えてしまった。


「ゴメンネ、これ以上俺が干渉するとゲームが壊れちゃうから」

 空高くから最後の声が聞こえた。


「ちょ、待って、もし失敗したら二人にとんでもない罪を背負わせちゃうじゃないか!!」

 黒い煙が消え行く先に手を伸ばしながらタロウは叫ぶ。


 その横を二つの影が走り抜けた。


 ハヤカは、戦斧を右横からジジーストに向かって全力でなぎ払う。


 まだ動きのぎこちないジジーストの横っ腹にクリーンヒットすると一気にHPの表示色が黄色に変わる。


「ぐほぉぉ」

 ジジーストは吹き飛ばされて、近くの壁に激突する。勢いは死ぬことなく跳ね返る要領で、ハルイチの前まで転がってきた。


 ハルイチは、至近距離から待ってましたとばかりに【ルモエクヨ】を唱えた。


 巨大な火球がジジーストを飲み込む。

 しかし、魔法防御力が高いためこちらは思ったよりダメージが通らなかった。


 まったく迷いのない二人を見ていたタロウは決心したような表情で二人に向かって叫んだ。

「ボスキャラはHPの数値は見えないけど半分以上減らしたら黄色に、残り十パーセントで赤色に変わる。ジジーストとの戦いは倒してしまったらゲームオーバーになるから後はハルイチ君が魔法で削っていって!!あいつは魔法が効きにくいから小さいダメージで調整していくの!!赤色になったら二人とも攻撃を止めて!!絶対倒しちゃったら駄目だよー!!」


「なるほど、それでわざわざ俺に魔法で攻撃を」

 納得したように、ハルイチは【ルモエ】に魔法を切り替えて一発一発確認するかのように火球を当てていった。


 そして、ついにジジーストのHPが赤色に変わった。




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