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第三十五話 合戦ミソジ⑩

現れた階段を登ると、また同じような石壁の迷宮が待ち受けていた。


「今度は何をさせられるんですか? 組体操? 騎馬戦?」

ハルイチが皮肉っぽく尋ねる。


「次は、知識の試練ってやつだよー」


「あの時は出てきた問題がすごい難しく感じたけど、操真君がいれば楽勝だと思う」


「問題って…、また学校みたいな…」

ハルイチは苦笑いを浮かべる。


タロウは、先頭を切ってどんどん歩いている。

当然、聖水を振り撒きまくっていて、モンスターが現れないからだ。


「サクッと終わらせて最後の試練に行くよー」


適度に迷いながらも、数階フロアを登っていくと、大きな扉のみが存在する広間に出た。


先程まであった魔物の気配は一切なく、ただ耳が痛くなるような静寂だけであった。


その大きな扉の横に、小さな石碑が建っていた。

タロウがそこを指差すと、何やら文字が刻まれている。


『五十を割ること十一の時、その余りを答えよ』


「へ?」

ハルイチは拍子抜けした声を出した。


「これって、ただの割り算ってことですよね?」

ハヤカは石碑の周りを一周して他に何も書かれていないことを確認した。


「知識の試練ってすごい名前ですけど、中身は()()()()で習う算数じゃないですか…」


「いやー、あの当時はなかなか苦戦したよー」

頭をポリポリ掻きながらタロウは苦笑いした。


「で、答えなんだっけ?」


タロウが真顔でそう言うと、ハルイチとハヤカは同時に膝から崩れ落ちた。


「本気で言ってます? 余りは六ですよ」

ハルイチはため息混じりに答えた。


すると、大きな扉が轟音を上げて開いていく。


その先からは、冷たい空気と生暖かいそれが交互に吹き付けてきた。


「外が近いのかな」

ハヤカは緊張した面持ちで扉をくぐる。

ハルイチも後に続く。


「ふ、ふん六ね、わかってたよ、ちょっと君たちを試しただけじゃないか!」

残されたタロウはそう強がった。そして、誰もいない事に気付いてあわてて後を追っていった。


登り階段が、また現れていた。

その先からどうやら風が吹いてきているようだ。

気のせいか、風に微かに血の匂いが混じっている。


三人ともその事に気づいたようだが、何も言わずにそれぞれの武器を強く握りしめた。


階段を登りきった。


「な、なんだこれ!?」

タロウは思わず大声をあげてしまった。


何故なら、そのフロアを敷き詰めてしまうほどのおびただしい数の死体が転がっていたから。


その下には血の海が広がっていて、顔を背けたくなる。


だが、その血の色は人間の赤い色ではなかったので、そこに転がっているのはモンスターの死体であることがわかった。


「誰がこんなことを…」

ハヤカはタロウの後ろに隠れながら小刻みに震えている。


「俺達以外に誰かいるんですか?」

ハルイチも、さすがに顔色が悪い。


「そだねー、こんな十八禁な演出はゲームではなかったけど、多分次の試練で出てくる奴が原因だと思うよー」


途中、吐き気を催したハヤカの背中をタロウが擦りながら、何とか足の踏み場を見つけて先に進んでいった。


「これはひどいですね…、なんで倒されたモンスターが消えずに残ってるんでしょうか?」

ハルイチは最初に感じていた疑問を少しずつ吐き出した。


「そだねー、普通は倒されたらお金と宝箱を落として消えちゃうよねー、()()()()()()()()


「あ、なるほど。ゲーム内では勇者とその仲間がモンスターを倒すと消えますよね。ということは、このモンスター達は、山田さんや俺たちの仲間に倒されたんじゃない。本来、モンスターを攻撃できない者が倒したことによって通常の処理がされずにイレギュラーにこの状況になったということですね」

相変わらずの説明口調だ。


「そーいうことかな。きっとモンスターからすると味方にやられたんだろうねー、理由はわからないけど」


「確かにここのボスキャラが部下のモンスターを倒すことなんてないですもんね」


「どうやら、俺の知ってるゲームとまた何かが違ってきてるぽいねー」

タロウは少し真剣な表情を見せる。


「ここのボスって四天王の一人でしたっけ?」

ハヤカは死体に触れないように小刻みに飛び上がりながら聞いた。


「そだねー、なかなかの強敵で何回か全滅したよ」


「あー、なんかゲームバランスがおかしいって言ってましたもんね」

ハルイチはあきらめたのか、死体を踏んづけながら進んでいる。


「そそ、次に関しては裏技とか攻略法とかなくってガチの殴り合いになる」

タロウは器用に死体の隙間を歩き、めざとく宝箱を見つけては回収していった。


「奴はすごい攻撃魔法をひたすら使ってくるけど、下手に避けないで喰らいながらでも攻撃してね」

そう言うと、四次元なんたらのような道具袋から薬草を取り出した。

「回復は各々これを使って、【上級薬草】。まだ店売りされてなくってここの宝箱にしか入ってないやつ。普通のやつじゃ回復が間に合わないから」


・道具【上級薬草】…通常の薬草よりも高い回復力を持つ。


「山田さん、もしかしてここでひたすら宝箱をあさってたのってこの時のために?」


「まーねー、ほんとはこんな強引な作戦はゲームの中だけにしときたいんだけどねー」

タロウは気のせいか悔しそうな顔をしていた。


ハルイチとハヤカはその台詞と表情から、タロウの真意を感じとり、再び強く武器を握りしめるのであった。


最後の試練の、大きな扉の前にたどり着いた。

正義の試練、と傍に建っていた石碑に記されている。


「正義って…今度は道徳の授業ですか?」

ハルイチは近くに仕掛けがないか様子を探っている。


「まぁ、そんなとこかなー」


辺りを見回していたハルイチが、何かの存在に気づいた。

「みんな、あれ!」


部屋の隅に、何かが蠢いている。

暗くてよく見えないが小柄の老人のようだ。


「山田さん、あれが」


「そそ、あれがここのボスの四天王」


老人はタロウ達に気づくと、宙に身体を浮かせて近づいてきた。


「さぁ、いくよ!」

タロウはひのきの棒を構えると、パーティーは戦闘モードに入った。


【魔道博士】ジジーストがあらわれた!!



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