第三十四話 合戦ミソジ⑨
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・武器【かみなりの杖】……持つものの魔力を増幅する雷の魔石がはめられた杖。戦闘中に道具として使うと敵単体を攻撃する電撃を発生させる。
・防具【風纏いのローブ】……風の精霊の加護を受けたローブ。守備力は低いが、回避率が上昇する。
・防具【霊石の腕輪】……守備力を上昇させ、魔力も少し上げる。
・武器【戦士の斧】……長い柄の着いた両手持ちの戦斧。
・防具【鉄の鎧】……鉄で出来たシンプルな鎧。
財布の中身を見つめながら切ない表情のタロウ。
現金ではなく後から引き落とされるのだが、誰にとは言わずにお金ないアピールをしているようだ。
「これで、鎧とか買えたんですか? 全然実感ないんですけど」
ハヤカは、自分の私服を触りながら何の変化もない事を確認した。
「大丈夫、【現実ゲーム化現象】に入れば勝手に装着されるから。あ、そうだメニューから装備しとくのを忘れずに」
「はい、さっき操真さんに教えてもらいました」
そう言うと、ささっと装備選択画面から鎧を装備した。
「え?なんでアイドルちゃんも寄り目にならないの?」
「いや、逆になんで山田さんは寄り目になるんですか」
久しぶりにハルイチは突っ込んだ。
「でも、いいんですか?鎧の値段みたら結構高そうに見えたんですけど…、私達の装備を全部山田さんに買ってもらっちゃって…」
「いいんです、パーティーのお金は共有というのが、RPGの定説ですから」
高嶺がこちらも久しぶりにキメ台詞を吐いた。
いや、共有ならなんで俺の口座なんだ。専用の口座を用意してお金を出しあったらいいじゃない。喉元まで出そうになったが、パーティーで成人してるのが自分だけなので、それはあまりにも大人げない気がして我慢することにした。
「ってか、山田さんは新しい装備揃えなくていいんですか?」
ハヤカは心配そうに聞いた。
「あー、大丈夫っぽい、どうせ何着ても強さ変わんないから…」
タロウは遠い目をしている。
「この人、このままひのきの棒と皮の鎧で魔王を撲殺するつもりだ…」
ハルイチは冗談かわからない冗談を言った。
「ところでアイドルちゃん、明日大丈夫なの? すごい忙しそうだけど」
確かに、本職のタロウと学校はあるが決まった活動時間の取れるハルイチと違いアイドルは時間の自由がないように思われる。
ハヤカも、そこには気づいていたようで急に不安げな表情になった。
<お、おいおい、まさか仕事の事とか考えずに勢いだけでここに来たのかこの娘は……>
タロウは腕組みして、目を閉じて眉間にシワを寄せる。
「それについては、心配いりません、当分の間、彼女の仕事量をセーブしましたから」
今の一瞬でどこかに電話をしていた高嶺が眼鏡を上げながら続ける。
「上同士で話を通しましたので…」
<いったいいつの間に…手際が良すぎる>
上というのがどのレベルかはわからないが、知らない方が良いこともあると自分を納得させるタロウであった。
「そ、それじゃあ、明日の夕方スカイツリー集合で!」
タロウの号令と共に解散となった。
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俺はいったい何をしているのだろうか。
ハルイチは、握りしめた綱を力強く引きながらそんなことを考えていた。
前にはタロウが、後ろには残りの綱を腰に巻き付けたハヤカが、同じように全力で綱を引いている。
相手側には巨大な人型の石像が一体。
石像と、タロウ達三人で綱引きを行っている。
「や、山田さん! 何で力の試練が綱引きなんですか?」
「そんなの俺にも分からないよー、ゲームの中でもそうだったんだから」
力は膠着しているようで、どちらもその場から動かない。
「ただ、ゲームでは二人で協力して、それぞれコントローラーのボタンを連打してたんだけどね! それはそれでめんどくさかったんだけど、実際に綱を引くとなるとそれ以上にめんどくさいんだねー」
疲れはしないのだが、力を抜くことが出来ないので顔を真っ赤にしたままタロウは答えた。
「綱引きなんて小学校以来ですよ」
最後方のハヤカは、同じく力を込めたまま話す。
「小学校…か」
タロウはそう呟くと、不意に力を抜いてしまった。
「ちょ、なにやってんすか!?」
均衡が破れ、タロウ達は石像に引き寄せられる。
「おおおおお、ゴメン! ちょっと何か思い出しそうになった」
タロウはまた綱を握り直して身体を一気に後方に倒す。
「よかったら、これが終わってから思い出してもらっていいですかぁぁぁぁ」
ハルイチもタロウに息を合わせて後ろに少しずつ下がる。
「いきますよぉぉぉ、せぇぇぇのぉぉぉ」
ハヤカは二人の呼吸に合わせるかのように全力を出した。
石の削れる振動と音が試練の間に響き渡り、石像は前に倒れこんでしまった。
ついでに、タロウとハルイチの身体も宙を舞い後方に飛ばされてしまった。
その瞬間、目の前の石像も手に持っていたはずの太い綱も消えてしまい、上へと続く石造りの階段が現れた。
「もしかして、もしかしてなんですけど、アイドルちゃん、今まで本気出してなかった?」
倒れこんだままタロウはおそるおそる彼女に聞いた。
「え? そ、ソンナコトナイデスヨ」
明らかに動揺して目を逸らしたハヤカ。
二人に息を合わせる事でうまく誤魔化せたと思っているようだ。
「ちょっと山田さん、若い女の子が力が強いなんて知られるのは、すごい恥ずかしいんじゃないですか?」
ハルイチはそっとタロウに耳打ちする。
「そ、そんなもんなのかねぇ」
そう言いながら、力が強いとかいうレベルじゃなかっただろう。
そう強く思うも口には出さないタロウであった。




