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第三十二話 合戦ミソジ⑦

 白い立方体が宙に浮かぶ他には何もない空間を、黒いフードを目深にかぶったGMゲームマスターが左右に軽く揺れながら歩いている。


 ふと、足を止めたGMは目の前にいる二人の存在に気が付いた。


「やぁ、だから言ったじゃない~、手を出さないでって」

 右手を小さく振りながら声をかける。


 小柄は顔を伏せたまま立ち尽くしている。


「あれは、いや、あいつらはいったい何者なんだ?聞いていた話と大分違うじゃねぇか、お前何か知ってやがるな?」


 隣に立つ大柄は、小柄を気遣う素振りを見せながら言った。


「あ、足はオジサンに治してもらったんですね~よかったぁ~」

 本心は心配なんてしていないのが丸わかりの白々しい声だ。

「そっちの、プロトタイプは重症みたいだけどねぇ~」

 小柄を指さして、今度は心配そうな声を出す。


「おい、質問に答えろ! なんであの男はお前と同じような能力を持ってるんだ! ()()()()()()()()()? 本当に計画は順調なんだろうなぁ!」


「能力? あぁ~、これのこと?」

 そう言って、何かを小さく呟くと、一瞬で大柄の後ろに周りこんだ。

 そして、GMは大柄に向けて背後からすごい勢いで正拳突きを放った。


 素早く振り返ると、それを軽く手で払い飛ばした大柄。


「ごめん、ごめん、これ自動的だからさぁ、途中で止められないの」

 両手を顔の前で合わせて大柄に謝るGM。

 その手を少し下げて、続けて言った。


「それは、俺にもわからないなぁ~、おじさんだったら知ってるかもですけどね~」

 ゆっくりと、さっきまで立っていた場所に歩いて戻る。


「仲がいいんだから、直接聞いてみたらいいんじゃないですか? タチバナさん」


 タチバナと呼ばれた大柄の黒いローブの人物は、鼻で笑うように言った。

「仲がいいだって? 違うなぁ、あの人とはただの同僚だっただけだぜ。今、ここにいるのは利害が一致しているだけだ」


 タチバナは空を見上げて叫んだ。


「なぁ、聞いてんだろ? ホンゴウさんよぉ!」


 しばらくの静寂の後、空高くから声が響いてくる。


「あぁ、そんな大声を出さないでも聞こえてるよ。あの男の件なら大した問題じゃない、ただのプログラムミスさ。修正する必要もない、むしろ私たちの計画にプラスになるだろう」


「なら、いいんだが。しかし、こいつは…、ジローは治してやってくれねぇかな、大事な相棒なんでなぁ」

 ジローと呼んだ小柄の肩を軽く叩いた。


「…………初期化した。これで問題ないはずだ」


 うなだれていた小柄の顔が正面を向くと、辺りをきょろきょろと見回してこう言った。


「ここはどこダ?僕はだれダ?」


「おい! こりゃどういうことだ! 全然問題だらけじゃねぇか!」


「まぁ、落ち着けタチバナ。 内部の傷が相当深刻なものだったからな、一旦初期化しないと治せないんだ。 今からバックアップしてあった記憶を入れる、それで元通りだ。 少し時間はかかるがな」

 その声がしたと同時に、ジローはその場に倒れてしまった。


「次に、目が覚めたら完了だ」

 タチバナは、ジローを抱きかかえると安心した様子を見せた。


「直近の記憶はバックアップ出来ていないからな、出来るだけ彼らとの接触は避けてくれよ、同じ事にならないようにな」


「わかったよ、あんたの指示通り、裏からあいつらが魔王とやらを倒すところまで邪魔が入らないようにサポートしてやるよ」


 そう言って、二人は闇の中に消えていった。


「おじさん、なんであの人あそこまでプロトタイプに肩入れするの?」


「あぁ、二十年ほど前に大規模なテロがあってな。その時に息子を亡くしてるんだよ、ちょうどあれくらいの年頃だったからどこか思うところがあるんだろう」


「それって、おじさんと同じってことだよね?」


「あぁ、そうだな」


「なるほど、そういう事か、皆の願いは一緒ってことか」


「あぁ、そうだな」


「おふざけの時間も終わりだねぇ~、じゃぁそろそろ俺も行くよ、なんか嗅ぎまわってる連中がいるみたいだし」


 GMはそう言うと、ゆるんだ黒いローブの襟をしっかりと留め直すと、黒い影に飛び込んで姿を消した。


 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 タロウは大きなくしゃみをした。

「ぶえっくしょん! とぉ、誰か噂でもしてるなぁ」


「へ?それってなんですか?」

 ハヤカはタロウに聞いた。


「え?今時の子は、誰かに噂されたらくしゃみが出るっていう定番の伝説をご存知ないのですかな?」


「はぁ、何となく聞いたことあるような……、でも使ってる人見たことないです」


「なんということでしょう……これがジェネレーションギャップとかいうやつか」


 ちょっと違う気がするが、ハヤカは何も言わずに苦笑いをした。


 タロウとハヤカは一緒に、とあるショッピングモールに来ていた。

 一旦戻ったその翌日、ハヤカからの連絡でここに呼び出されたのだ。


「それで、アイドルちゃん、なんで俺はここにいるんだろうか?」

 タロウは困り顔でハヤカに聞いた。


「あ、はい、昨日の事がまだ整理がつかなくて……、もう少し話を聞きたいって思ったんです、それに…」


「それに?」


「助けてもらったお礼もしたかったので……」

 ハヤカは気のせいか、顔が赤い。


「あぁ~、別に大したことしてないし……、それにここでお礼してもらっちゃったら聖剣の塔の攻略に来てくれなくなっちゃうんじゃ……」

 タロウは、絶望に打ちひしがれているハルイチの姿を思い浮かべていた。


「あ、いえ、それはまだ考え中ですけど、とりあえず、それはそれ! これはこれ! です」

 ハヤカは、くたびれたオッサンには眩しすぎるほどの笑顔を見せた。


 ショッピングモールは平日にも関わらず、買い物客は多かった。

 ハヤカはサングラスに帽子を被ってはいるが、隠しきれない芸能人オーラだろうか、通りすがる人がチラチラとこちらを見ていた。


<妄想でアイドルとデートとかあるけど、実際こんな状況だと嬉しいとか楽しいとかじゃなくって変な緊張感しかないなぁ……>


 とりあえず、どこかのカフェに入って話をすることになったが、隣を歩くハヤカを見ながらタロウは背中に冷たい汗をかき続けている。

<なんか、気のせいか妙に距離が近い……>


 こんなところを万が一ハルイチに見られでもしたら、殺されるのではないか。

 または、マスコミに撮られて、全国のハヤカファンを敵に回してひどい目に遭うのではないか。 


 動機と息切れで早くおうちに帰りたいと思うタロウであった。



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