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第三十話 合戦ミソジ⑤

「戦士?【戦士】って男じゃなかったんですか?」


 ハルイチは、驚いた表情でタロウに尋ねる。


「うんー、ゲームの中では男だったんだけど、なんか色々違ってるみたいだね~」

 そう言うと、ハヤカの足元を指さす。


 そこには、彼女の身の丈ほどある戦斧が落ちていた。


「あの娘が、戦斧あれを振り回したんだろうね~、ガーゴイルの一匹にダメージが残ってたから」

「え?嘘でしょ?あんな華奢な女の子がこんな重そうな斧を振り回せるわけないでしょ…」

 そう言うと、ハルイチは戦斧を持ち上げようとした。


「お、重っ……これ男でも持ち上げるのキツイっすよ」


 腰の高さまで持ち上げるのが限界のようだった。

 そして、手がすべってハルイチの足に重い戦斧が落ちそうになった。


 それを軽々と片手で受け止めたのは、ハヤカであった。


「へ?」


 ハヤカは思わず手を出してしまった様で、慌てて軽々と戦斧を投げ捨てる。

 壁に綺麗に突き刺さる戦斧。


「ね?戦士でしょ?」


 タロウは、あっけにとられているハルイチに呟いた。


「それにしても、お嬢さん、スカイツリーで何してたの?」

 とても不思議そうにタロウはハヤカに声をかける。


「え?いや、仕事ですけど……」

 まだ、若干混乱しているハヤカは震える声で答える。


「そんな()()で?」


「あっ」


 ようやくハヤカは自分の姿に気が付いた。

 派手な原色系のフリルだらけのミニスカートのワンピースを着てスカイツリーでやる仕事なんて、そうそうない。


「そんな恰好で仕事とか、まるでアイドルみたいだよねぇー」

 そう言うとタロウは、笑い出した。


「そんな、アニメや漫画じゃないんだから、アイドルが戦士になって一緒に戦うとかないでしょ」

 ハルイチも一緒になって笑い出したが、ハヤカの顔をまじまじと見ながら笑い声がどんどん渇いていった。


「あの、山田さん」


「ん?どうしたのかね操真君」


「もしかしてなんですけど、もしかしてなんですけども、この女の子って本物のアイドルかもしれないです」


「まさかぁ、ちょっと変わったファッションセンスの女の子じゃないの?原宿とかでこんな娘いっぱい見たよ」

 そう言ってタロウもまじまじとハヤカの顔を見る。


 二人に見られて、ハヤカは思わず顔を伏せてしまった。


「いや、確かにアイドル級に可愛いけどさー」

 タロウはいまだにピンときていない様子だ。


 アイドルとして慣れてはいるつもりだったが、面と向かって異性にストレートに可愛いと言われると率直に照れてしまう。

 ハヤカは、伏せたままで真っ赤になっている顔を両手で覆って隠した。


「あのー、もしかしてなんですけど、もしかしてなんですけども、バイナリ組.comのハヤカちゃん……ですか?」

 ハルイチは、恐る恐る聞いてみた。


「操真君、なんでグループ名と名前がすぐ出てくるの?オジサンちょっと引くんだけど」


「なんでって、こないだアイドルの話した時に出てきたグループじゃないっすか!でかい看板見たじゃないっすか!なんすか、自分の好きなアイドルも忘れちゃってたくせに!」

 少し慌ててしどろもどろで必死で弁解するハルイチ。


「なんだ、やっぱりアイドル好きなんじゃん……いつもクールそうに見えて、この、この!」

 悪い顔でハルイチの脇を肘でつつく。


「ぷっ」


 緊張感のない二人のやりとりに、ハヤカは噴き出してしまった。

 と同時に、悪い人たちではないのかもしれないとハヤカは思った。

 両手を外して、顔を上げると、真っ赤になった顔のまま言った。


「はい、私はハヤカ、一文字 隼歌です」


「あ、ひゃ、ほ、本物」

 聞いたことのない上ずった声を出したハルイチは、白目を向いて、そのまま後ろに倒れこんでしまった。


「……どんだけ、好きだったんだよ」

 タロウは小さな声で呟いた。


「本気で失神してるよ、この人」

 タロウはハルイチの頬を軽く叩いてみたが、反応はない。


「あの、なんか、ごめんなさい」

 ハヤカは、泣きそうになりながら頭を下げる。

「いや、この子、勉強ばっかでそういうのに免疫がないから刺激が強すぎたんだなぁ~」


 目を覚まさせるのをあきらめたタロウは、その場にドカッと腰を下ろした。


 その時、音楽と共に黒い煙が巻き起こる。


「うそん、こんな時にぃぃぃ」


 ゴーレムがあらわれた!


 そこには、前回こてんぱんにやられて逃げ出した立方体で出来たニクいやつが立っていた。


「よりによってお前かよぉぉぉぉ!」

 タロウは立ち上がり、寝ているハルイチをかばうようにゴーレムに向き合った。


「うちのエースが役に立たないから、ハヤカちゃん、ちょっと手伝って! 一人じゃキツイかも~」


「え?手伝うって? 何をしたらいいんです?」

 ハヤカは突然のことに呆然と立ち尽くしている。


「一緒に戦って!」


「え?戦うって、でも、私……」

「とりあえず、そこに見事に突き刺さってる斧を拾って!そいつであいつの足を叩き斬ってくれたらいいから!」


 ちょっとそこの自販機でコーヒー買ってきてばりに簡単に言ってくれる。ハヤカは咄嗟にそんな事を思いながらも、なぜか自分には出来るような気持ちがタロウの言葉から生まれていた。


「う、なんで私がこんなことを……」

 恨めしい顔でそう言うと、投げ捨てて壁に突き刺さっている戦斧を拾いに走り出した。


 タロウはそれを見届けると、ひのきの棒を握りしめる。


 タロウのこうげき!


 →ミス!ゴーレムにダメージをあたえられない。


「おろ、やっぱり駄目かぁぁぁぁ」

 勢いよく走り出し、ひのきの棒を叩きつけたが前回同様、見事に弾き返されてしまった。

 後方に勢いよく転がるタロウの横を、戦斧を両手でしっかり握りしめたハヤカが駆け抜ける。


「やけくそだぁぁぁぁぁぁ!」


 構えなんてあったものじゃない、でたらめな動きで軽々と戦斧を振り回す。


 偶然か必然か、振り回した遠心力で十分に威力の乗った戦斧の刃先がゴーレムの左の脛あたりを見事に捉えた。


 ものすごい轟音が響き、ゴーレムの左足がチーズを斬るように簡単に斬り離された。

 バランスを失い、後方に転倒するゴーレム。


 ハヤカのこうげき!

 →ゴーレムに98のダメージ!!!

 →ゴーレムはバランスを崩し転倒した!!!

 →ゴーレムはしばらく動けない!!!


「よし、これであいつはハルイチ状態になったぞ」

 頭を下にしてひっくり返ったタロウは、曲芸師のように軽やかに立ち上がった。


<これで時間が稼げたし、一回試してみるか>


 タロウは、真剣な顔つきになると、誰にも聞こえないくらいの呟きを発する。


「どんどんいこうぜ」


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