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第二十八話 合戦ミソジ③

 勇者と魔法使いは、魔王を倒すことのできる唯一の武器とされる【聖剣】の眠る、天高くそびえる塔へと足を踏み入れる。その塔は神々が作ったとされ、中は広大な迷宮と化しており、【聖剣】の使い手として相応しい者かどうか三つの試練にて試される。

 一つ目の試練である、力の試練を目前にして、勇者達は同じく【聖剣】を求めて塔へとやってきた一人の戦士と出会う。彼は、その力で魔物に支配されてしまった故郷を解放するためにやってきたという。

 最初は、勇者に懐疑的な戦士であったが、力の試練を協力して挑むうちに徐々に打ち解けていく。

 時を同じくして、勇者が【聖剣】の力を得ることを阻止するために、魔王は四天王の一柱に天高くそびえる塔に向かうように命令を出す。


 さも当然のように、架空の物語は現実の彼らの物語になぞられていく……。




 タロウは、宝箱を開けた。


 中には、薬草が入っていた。


「ちぇ、また薬草かよ」


 まるで、盗掘を行っている盗賊のようだ。

 同じフロアでかれこれ一時間ほど、こうしているだろうか。


「山田さん、さっきから宝箱ばっかり探しまわってますけど、攻略法に関係あるんです?」


 少しあきれ顔のハルイチは、タロウの後ろを黙って付いてきたが、さすがに声をかけた。


「ん?いや、全然」


 あっけらかんとタロウは答える。


「だってぇ、ダンジョンの醍醐味といえば、た・か・ら・ば・こ・でしょ?」


 可愛くないオッサンが腰をひねりながら話すので、ハルイチに少し殺意が沸いた。


「いい加減先に進みませんか?明日から俺学校なんですよ」


 ゲームの中では特に時間制限はない。というより時間が経過する描写がない。なので、攻略に行き詰まったら、ダンジョンを出て近くの町に戻り、強い武器防具を新調し、道具を揃えて宿屋に泊まりセーブを行い、また攻略に向かう。時にはサブクエストで盛大に寄り道をする。現実で考えたら世界滅亡の危機になんて悠長なシステムなのだろうか。


「わかってるよー、だから時短に聖水を撒いて進んでるんじゃない」


 ・アイテム【聖水】……一定時間、敵が出現しなくなる聖なる水。自分より強い敵には効果がない。

「操真君の、レベルがこないだガッツリ上がったから効果絶大だよねー」


 確かに、ここに踏み入ってから一度もエンカウントしていない。ハルイチのレベルが15になっているからだろうか。


「それに、裏技があるから、行こうと思えばすぐ力の試練のすぐ近くまで行けるよー」


 タロウはそう言うと、さっさと歩きだした。


「よし、じゃあ、そろそろ行ってみよーかー」


 タロウは、そのまま行き止まりの壁に向かって進んでいった。


「ちょ、山田さん! そっち壁ですよ! 前向いて前!」


 ハルイチが止めるのも聞かず、後方にいるハルイチに顔を向けたままタロウは壁に激突した、はずだった。


 タロウは、壁の中にするりと入っていってしまったのだ。

 水面に波が立つように、壁がうねりタロウを飲み込んでいった。


「へ?」


 ハルイチがあっけにとられていると、壁の中から声が聞こえた。


「操真君、こっちこっち、ついてきて」


 ハルイチは、おそるおそるタロウを飲み込んだ壁に手を差し出してみた。

 すると、何の感触もなく壁に手がめり込んでいった。


「うおおおお?」


 ゆっくりと、全身を前に進めていくハルイチ。顔が通り抜ける時に恐怖で目を閉じてしまったが、体が全部壁の中に入った後にゆっくりと開けてみた。


 真っ暗な空間だったが、なぜか前にいるタロウの姿がはっきりと見えた。


「ほれほれ、着いてきて、そこの壁からショートカットで近道できるんだよー」


 二人が走り出してすぐに、目の前にまばゆい光が差し込んできた。

 目が慣れてくると、今までいたダンジョンの光景が飛び込んできた。先ほどと違うのは、モンスターが三体、今まさに女の子に襲い掛かろうとしている場面であること。


 二人は、その間に割って入るとタロウが先に動く。


 タロウのこうげ…。


「【ルモエテスベ】!!!!!」

 タロウの攻撃よりも早く、ハルイチは魔法を唱えた。


 ハルイチは、【ルモエテスベ】を唱えた!

 炎の渦が、ガーゴイル達に襲い掛かる!


 →ガーゴイルたちに平均386のダメージ!

 ハルイチはガーゴイル達をたおした!


 ハルイチの杖から、激しく回転する炎の渦が生まれるとガーゴイル達を薙ぎ払った。

 ガーゴイルは三体とも、消し炭になって消えてしまった。


 タロウは、攻撃を邪魔されて見事に転び顔面を強打してうずくまって泣いていた。


「ひどいよ、操真君……」

「すいません、なんかすごく体が軽かったというか……調子がいいというか」


 あの、大柄の奴が言っていた。ハルイチのステータスの伸び方が異常だと。確かに、誰よりも早く先制攻撃を行い、魔法の威力も以前のそれとは比べものにならないほど強力だった。

 ゲーム内の魔法使いはそこまで強くなかった記憶はある。

<操真君のステータスの伸びの良さは、俺のステータスのバグと何か関係があるのかな>


 大柄のセリフをふと思い出しては、そんなことを考えてしまうタロウであった。鼻から血を流しながら。


「あ、あの……」


 ハヤカは突然目の前に現れては、モンスターを消し去ってしまった男二人に向かって恐る恐る声をかけた。


 地獄にコスプレイヤー? しかも、何もないところからすごい炎を出してみせた。あれはなに?

 スーツ姿の男と、そこいらの私服姿の若者が、そのままその上から鎧とマントみたいなものを着ていて、手には木の棒と杖。どう見ても、素人のコスプレイヤーに見える。

 だが、もしこの珍妙な二人が悪人だったとしたら、女一人の自分がどんな目に遭わされるか。

 情報量が多すぎて混乱極まれり、である。

 ようやく声を絞り出してその二人に聞いた。


「もしかして、助けに来てくれたんですか?」


「はい、そうで…」

 ハルイチがそう答えようとしたところをタロウが満面の笑みで遮ってこう言った。


「いや、それは違うなぁ」


 ハルイチとハヤカは驚いてタロウを見た。


()()()()()()()()()()()()()()()!」



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