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第二十四話 二刀ミソジ

 今まで晴天だった空が少しずつ曇ってきた。それが現実の天気なのか、ゲーム化現象による演出なのか、ハルイチには知るすべはなかった。


 小柄は自らに【ルナオ】を何度も唱え、傷を全快させた。

「聞いてた話と違うよネ。まだまだ駆け出しだからレベルは5程度だって聞いてたけド」


 どうやら、敵側からは詳細なステータスを見ることが出来ない仕様のようだ。


「一方的に勝てるのが、楽しいのニ!」


 小柄はそう叫ぶと、オモチャを買ってもらえない子供のように地団駄を踏み出した。

「まさか、今のお前たち相手に本気を出すとハ」


 ひとしきり地団駄を踏んだ後、大きな鎌を片手で持ち、まるで居合のように構えた。


「喰らえ!【駆斬カケザン】!」


 それまでも、目で追うのがやっとだった小柄のスピードが更に加速されてタロウに斬りかかった。


 何かを切り裂く音がしたと思えば、棒立ちのタロウのかなり後方に姿を現した小柄。

 神速の一撃が、確実にタロウを捕らえていた。


 しかし、タロウは何事もなかったかのようにゆっくりと小柄の方へ振り返った。


 ???は【駆斬カケザン】を放った!!

 →ミス!タロウはダメージを受けない!


「馬鹿ナ……、僕の攻撃力とスピードを乗せた先制必中の攻撃スキルを受けて無傷だト?」


 ・スキル【駆斬カケザン】……二回行動を一回行動に制限する代わりに、必ず先制攻撃を行う事が出来る。威力は攻撃力と素早さに依存し、攻撃は必中する。


 タロウは、無表情のまま小柄に向かって駆けだした。

 子供が走るようなゆっくりとしたスピードで。


 小柄は、迎え撃つために鎌を両手で持ち直す。

 すると、突然タロウのスピードが跳ね上がった。と思えば、また亀のように遅くなった。

 そして、小柄の鎌の射程距離に入ったところで、また急激にスピードを上げる。


 あまりの緩急の差に、小柄のカウンター攻撃は空を斬る。

 後ろに回り込んだ所で、またタロウのスピードが落ちた。


 その機を逃すまいと二回目の行動で、タロウに攻撃を繰り出す。

 振り向きながら漆黒の鎌の先端をタロウの首筋めがけて振り回した。


「山田さん!」


 ハルイチから見ても、今の一撃は確実にタロウの首を飛ばしていた、はずだった。


 小柄を睨み付けるタロウの首から上は存在していて、しかも鎌の刃先はほんのわずか、まさに薄皮一枚に刺さって止まっている程度だった。


「くソ!またカ!」


 小柄は慌てて鎌を引くと、ものすごいスピードでタロウから距離をとった。

 ゆらりと、体を前に倒すと、タロウはそれを追いかける。


 小柄を超える速度であったり、歩いているような速度であったり、左右に大きく蛇行しながら、その時々で変幻自在に速度を変えながら小柄に向かっていく。


「この動キ……、そうダ、まるで()()()の」


「山田さん、何て危ない戦い方をするんだ」


 ハルイチは一見、攻勢にみえるタロウの戦いにひどく不安を感じていた。

 恐ろしいほどの勢いでタロウの各ステータスが増減を繰り返しているようだ。

 それを利用して、移動、攻撃、防御を行っているのだろうが、その判断はおそらく勘や運の類だと思われる。一歩間違えば、終わり(ゲームオーバー)だ。

 とは言え、タロウの様子から自棄になっているとも思えない。

 いや、そもそも今のあの人は本当にヤマダ タロウなのか。


 そんな事を考えているうちに、小柄の目の前に飛び込んだタロウは、ゆっくりとひのきの棒を振り下ろした。


「ちっ」


 小柄は、余裕を持ってその軌道から避ける。

 何かを感じたのか、カウンター攻撃も諦めたと思われる程の距離を取っていた。


 ひのきの棒の先が地面に触れると、轟音と共に地面に巨大なへこみが出来た。

 衝撃にハルイチは思わずよろめく。

 すると、公園の景色が二重にずれ、電機カミソリで髭を剃るようなジジジジという音が鳴りだした。

 よく見ると、空間に白いヒビのようなものが浮いている。


「嘘だロ……、僕の作ったステージが壊れかけただっテ?」


 ここは、やはりこいつの作り出した【現象ゲーム】の中だ。

 ハルイチは、鉄棒の支柱につかまりながら空間が壊れてしまえば逃げられるかもしれないと考えた。


 さっきの攻撃をまともに喰らっていたら、どうなっていたか。

 小柄の頭にふと、そんな考えがよぎると今まで感じたことのない感情に襲われ始めた。

 軽はずみに、タロウに攻撃を仕掛けることもためらってしまう。


 小柄に過去の記憶はない。


 気付けば存在しており、あの人の指示に従う事が決められていた。

 自分が人間かどうかもわからないし、そんなことはどうでもよかった。

 ただ、指示通りに動いていると楽しかった。


 楽しいから指示に従い、指示に従えば楽しい。

 強い力も与えられた。

 今、与えられている指示は、彼らにゲームを続けさせること。


 今までの指示の中で、一番楽しくなかった。

 壊れかけのモンスターを倒したり、邪魔な人間を始末したり。そっちの方がとても楽しかった。


 あの人が何を考えているのかわからないし、歯向かうつもりもないが、楽しいことから離れることがひどく不安だった。


 戦うことは楽しい。それを身をもって教えてあげれば、ゲームから逃げることなんてないだろう。

 それに気が付いた時には、もう小柄の体は動きだしていた。


「楽しい以外のキモチはいらなイ!」


 小柄は、不安定になって脈打ちだした地面を飛び移りながら、その身に黒いオーラを集め始めた。


 タロウは、動じることなく小柄に向かっていく。


「これが、僕に与えられた最強の技ダ!!!」


 集めた黒いオーラを鎌の刃に纏わせると、そのオーラが幾重の筋となり上空に伸びていく。それらは一塊に集まると、公園を覆うほどの巨大な闇の鎌を造り出した。

 そして、小柄は空高く飛び上がった。


「喰らえ!【闇斬アンザン】!!!!!」


 巨大な鎌は、空気を切り裂きながらタロウ目掛けて振り下ろされた。


「や…山田さん!」


 ハルイチが叫ぶと同時に、轟音を上げて鎌の刃先が地面に激突した。


 先ほどのタロウの一撃に勝るとも劣らない強い衝撃波が、壊れかけた偽物の公園を容赦なく吹き飛ばす。


 膨大な砂煙に視界を奪われたハルイチが、再び視力を取り戻した時に見た光景は、タロウが右手で持ったひのきの棒で巨大な鎌の刃先を殴りつけ、弾き飛ばしているところだった。


 先ほどの、轟音と衝撃波は、その時に生じたものだった。


 ハルイチは、ホッと胸をなでおろすと同時に、鎌が振り下ろされた先の上空を見上げた。

 そこに、小柄の姿はなかった。


「そう来ると思ったヨ」


 落ち着いた声は、タロウのすぐ下から聞こえた。

 すぐに、タロウの足元の影から小柄が飛び出した。


「【闇斬】は、大きな鎌を召喚して攻撃すると同時に、自らを影に潜らせ相手の影から攻撃する二連撃の奥義なんだヨ!!!」


 ・スキル【闇斬アンザン】……巨大な闇属性の鎌を召喚し、対象に闇属性の超ダメージを与え、自分の体を影に変え任意の影まで瞬間移動させ、追撃で物理属性の攻撃を行う二回攻撃。反動で五ターンの間、各ステータスが減少し二回行動が出来なくなる。


 小柄は、黒い鎌でタロウの心臓を目がけて横薙ぎした。


 右手のひのきの棒は、召喚された巨大な鎌を打ち付けるのに使っているので、防ぐ術はない。


「力のステータスが激増しているから、きっと他のステータスは落ち込んでいるはずだ。あれを食らうのはまずい」


 ハルイチは一連の流れから、タロウのステータスは、全部が同時に上昇することはなく、どれか一つ、ないし二つが高まると、その他は落ち込む。しかし、全ステータスが落ち込んでしまうこともないと推理していた。


 金属音が、響いた。


 小柄は顔は見えなくとも、喜びの表情をしていることは想像できたが、金属音一つでそれが一気に崩れ去った。


 タロウは、左手に黒い片刃の剣を持ち、小柄の攻撃を防いでいた。

 黒い刃同士が強くぶつかり、金属音とともに、見慣れない色の火花が散っている。


「ば……馬鹿ナ!二刀流だト?そんな武器いつの間ニ?」


 タロウは、小柄の持つ鎌を力任せに弾き飛ばすと、大技の反動で成す術のない小柄を黒い剣で横一閃斬りつけた。


 タロウの攻撃!

 →???に&$(‘&のダメージ!


 タロウは???を倒した!

「呪いの魔神剣……、こんな時に役に立つなんてなぁ……」

 ようやくタロウは、言葉を放つ。

 そして、またヘラヘラ笑いながら言った。

「よくよく考えたら装備したところで、呪われてステータスが落ちようがバグってる俺には関係なかったわぁ~」


 ・状態異常【呪い】……呪われている状態。各ステータスが大幅に減少する。その他、呪いの種類により効果は異なる。


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