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第二十三話 反撃ミソジ

 ・スキル【二回行動】……一ターンに二回行動することができる。行動順は素早さに依存。

 ・状態異常【絶望】……全ステータスが大きく減少し、行動不能に陥る。


「どうすル? あきらめて全滅すル? またやり直せるヨ? 所持金半分になるけド」


 タロウの様子を見た小柄は、少し残念そうに言った。


「もしかして、死ぬのが怖いのかナ?」


 そう言うと、ハルイチの脇腹を右手で殴りつけた。

 声も出せずに、吹っ飛ぶハルイチ。


 鉄棒の柱に、しこたま体を打ち付けて、痛みにのたうち回っている。


「別に怖くないでショ、……()()()()()()()()()()()()


 小柄は、ハルイチと同じように素手でタロウを殴りつけた。

 にぶい音と共に、かなり離れた砂場まで吹き飛ばされたタロウ。


 砂埃が舞い上がるが、その身を起こす気配はない。


「あーあ、君と戦うのを楽しみにしてたのに、つまんないナ」


 ハルイチの方へ向き直った小柄は、何かを思いついた顔をする。


「だったラ、こっちの彼を気が済むまで痛めつけようかナ、死なないようにしテ」


 ハルイチは、何とか起き上がり距離を取りながら【ルモエ】を連続で放つ。

 しかし、小柄は器用に火球の間をすり抜けながら、鎌の柄でハルイチを殴りつけた。


「君、戦うのが楽しくて仕方ないんでショ? ずっと見てたからわかるよ、こっち側に近い人間だよネ」


 ハルイチは、守りを固めて致命傷を避けている、そして、何とかこの状況を打開できる方法を考え続けていた。


 確かに、この現実離れした状況を楽しんでいるのかもしれない。

 正直なところ、怖くて仕方ないし、痛くて泣きそうだし、すぐ逃げ出してしまいたい気持ちが大半を占めている。

 でも、ここを乗り越えられたら何か大きなものが得られそうな妙な高揚感も同時に感じている。

 自分はおかしくなってしまったのだろうか?


 彼が瀕死になる度に、小柄は【ルナオ】を唱えてハルイチを回復させた。


 それが何回か繰り返されたある瞬間、突然ハルイチは小柄の前に勢いよく飛び出した。


 完全に不意を突かれた小柄。


 そして、至近距離から、【ルモエ】を放った。

 小柄の腹部辺りが大きく燃え上がる。

 初めて、魔法が命中した瞬間だった。


 黒いコートの一部から黒煙が上がり、小柄は後ろに飛びのいた。


「やるじゃないカ」


 ずっとハルイチは、攻撃を耐えながら自分のステータスを確認していた。

 HPの表示色が赤くなる度に、あいつは自分を殺さないように回復してくる。


 そして、回復魔法を唱える時は決まって二回行動の二回目だった。


 となれば、そのタイミングで攻撃をすれば回避のための行動が取れない隙を突けるのではないか。

 ハルイチの思惑通り、小柄の油断と隙を突くことができた。


 タロウはその光景をぼんやりと見つめていた。

 自分より年下の高校生が、得体の知れないモノと傷を負いながら命がけで戦っている。


 ゲームの中ではよくあるシチュエーションだが、現実で見ると、とても違和感のある不快な光景だった。


 そして、小柄が放った言葉を思い出す。

<一度死んでいる? どういうことだ?>


【現実ゲーム化現象】に巻き込まれてから、ここまで一度も死んだ覚えはない。

 ということは、もっと以前の話だろうか。


 いや、今までの人生で死にかけた様な経験はない。覚えている限りは。


<そして、あいつは死んでもやり直せるとも言った>


 小柄の言った事を信じるならば、全滅してもやり直せることは確定だ。

 そう思うと、少し気が楽になった。




「そのレベルで僕にダメージを1でも与えたご褒美ダ、楽にしてあげるヨ」


 小柄に胸倉を掴まれたハルイチは、タロウの前に放り投げられた。


「さサ、棺桶の中で休んでなさイ」


 そう言うと、黒い大きな鎌の刃を大きく振りかぶった。


 目の前でハルイチが殺されそうになっている光景を見た瞬間、走馬燈のように何かの映像がタロウの頭の中に再生された。


 それは、覇有高校でハルイチと出会ってからの短い記憶だ。


 ハルイチの存在はタロウにとって、歳の離れた友人のように感じていた。


 出会ってまだ間もないが、行動を共にし、くだらないことも言い合える存在。


<メノマエデトモダチガシヌ?>


<ソレハトテモカナシイコトダトカレハイッタ>


<ソンナコトハサセナイ>


<モウニドト>


『ドンドンいこうぜ』


 タロウは誰にも聞こえない声でつぶやいた。


 小柄の振り下ろした鎌に何かが当たった。

 勢いで軌道が逸れてハルイチの体のすぐ近くの砂場に突き立った。


 また、続けて何かが今度は小柄に向かって飛んできた。

 小柄の肩付近に当たると、その体が勢いで後ずさりをした。

 目に見えない速度で飛んできたそれは、小柄の肩にめり込んでいた。


「な、なんダ」


 小柄が、肩にめり込んだモノを取り出す。


「小石?」


 ただの小さな石が手のひらにのっていた。


 また、小石が飛んできたが、今度は目に見える速度で放物線を描いている。


「ちっ」


 小柄は今度は、簡単に手で払い飛ばした。


「山田さん?」


 ハルイチが、その小石が飛んできた方を見やると、タロウがその辺りに落ちている小石を拾い、親指で弾き飛ばそうとしていた。

 しかし何か、いつもと雰囲気が違う。

 本当に自分が知っているタロウなのか。

 自然と、タロウの名を呼んだ時に疑問形になっていた。


 タロウと思われる人物は、また指から小石を弾き飛ばした。

 今度は、更に遅い速度で飛んでいく。


 と、タロウの姿が突然消えた。


 二人が小石に気を取られている刹那に、小柄の右側にタロウが現れた。


「えっ?」

 小柄がそれに気づき、慌てて地面に刺さっている鎌を引き抜き、構えなおして横薙ぎに斬りつけようとしたが、その前にタロウはひのきの棒で、すさまじいスピードで殴りつけていた。


 タロウの攻撃!

 →ミス!ダメージを与えられない!


 ひのきの棒が当たると軽い音がした。


「脅かしてくれるネ!でも、そんな攻撃じゃ僕は倒せないヨ」


 聞く耳を持たず、タロウは続けて殴り続ける。


 二発、三発と軽い音をさせて小柄にヒットするひのきの棒。


「逃げてください、山田さん!奴の攻撃が来ます!」


 ハルイチが叫んだその瞬間。


 辺りに、恐ろしいほど鈍い音が鳴り響いた。


 ひのきの棒が、小柄の顔面を捕らえると首が伸びきらんとする勢いで、小柄の身体が吹き飛んで行った。


 受け身も取れずに、地面に倒れ込む小柄。


 すぐさま、立ち上がり鎌を構える。フードはしっかりと顔を隠したままだが、その顔が隠された闇の部分から赤い血がポタポタと滴り落ち、かなりのダメージを受けたことが窺えた。


「何なんだよ、お前ハ!」


 力んだ様子もなく、構えることもなく、無表情で立っているタロウに向かって小柄は叫んだ。


 小柄は、ここから初めて恐怖という感情を覚えることとなる。


肝心の戦士がまだ出てきません……、しばしお待ちを……

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