第二十話 調査ミソジ
タロウとハルイチは、この一週間、都内の高層物を片っ端から訪ねて回っている。
「次は、渋谷区のショッピングモールですよ、山田さん」
タロウは息を切らしながら、
「ちょ、ちょっと待ってよ操真君、とにかく高い建物をあたって回るのはいいんだけど、いちいちテッペンまで登る必要ある?」
高層物の中にはエレベーターで簡単に登れるものから、途中階段を使わないといけない古い建築物まで、都内には実に数多くの建物が存在していた。
「何がゲーム化のトリガーになっているかわからない内は、隅々まで確認しておかないと」
ハルイチは、タロウを引きずるように日の暮れたセンター街を進んでいく。
平日にも関わらず、仕事帰りのサラリーマンやOL、学生など人が多く、その人波をかき分けながら二人は目的のショッピングモールまでたどり着いた。
途中、街中であっても、モンスターとの遭遇は発生した。
多くのロールプレイングゲームの中では、町中は通常敵が出てこない。
「僕らの思っている町と、現実ゲーム化現象のルール上での町の定義が違うみたいですね」
「そうなんだよー、油断してて何度痛い目に合ったか……」
タロウは現実では疲労困憊、ヘトヘトの状態だったが、戦闘に入ると疲れ知らずの状態になったので、そこだけは唯一の救いだった。
一通りショッピングモールの中を探索してみたが、これといった手がかりは得られなかった。
オフィスビルとホテルが併設されており、そこもくまなく上まで登ってみたが、やはり何も起こらなかった。
「今日はこの辺で終わりましょうか?」
ハルイチは、もう学校が始まっていたので、翌日も朝から学校に行かなければならない。
二人で動ける時間は、放課後から数時間という短い時間と土曜日、日曜日などの休みの日に限られる。
それもあって、毎日タロウの体力の回復が追いつかないハイペースでハルイチに引きずり回されていた。
その様子を、離れた雑居ビルの屋上から見ている人影が二つ。
「早く先に進みたいみたいネ」
GMのように、体中をすっぽりと覆う漆黒のコートを着ている人物が小柄な背中を丸めて言った。
「そりゃ、ゲームって楽しいもんだろ? 特にロープレとかはさ、止め時を見失うくらいに。 親に叱られても延々遊んでるんだから」
同じく、漆黒のコートを着た、もう一人よりかなり大柄な人物が諭すように言った。
「そだネ、これから先、レベルが上がって魔法を覚えたり、新しい強い装備を手に入れるようになっていったら、もっともっともーっと楽しくなるヨ、操真君。 それこそ、止められないくらいにネ……」
小柄な黒コートが楽しそうに親指を口でかじっている。
「それに引き換え、あの男には、もうちょっとやる気を出してもらわないと」
大柄黒コートは柵に手をかけて言った。
「だネー、僕たちでちょっとレベラーゲ手伝ってあげよぉカ?」
「それもいいかもな!俺達もずっと暇だったんだ、ちょっと遊んでも罰は当たらないだろ。それに次は四天王が出てくるからな、今のレベルだときついだろ!」
二人は柵を乗り越えようとした。
その時。
「邪魔はしないでもらえるかなぁ」
声と共に、黒い剣閃が二人に襲い掛かった。
高い金属音と共に細切れになる鉄製の柵。
小柄と大柄はそれぞれ別方向に飛び上がり攻撃を避けていた。
「めんどくせぇ奴がきたなぁ」
小柄は給水塔を器用に駆け上がり、右の手に身長より長い黒い刃を持つ鎌を握っていた。
大柄は、両手に黒い手甲をはめて、攻撃してきた者に向かい構えた。
二人の視線の先には、GMが立っていた。
両手に黒い剣を持ち、二刀流の構えを見せる。
「余計なことをしなくても、彼は強くなるよー、全部思い出した時には、君たちよりも、俺よりも、誰よりも強くなる」
そう言いながら、GMは大柄に向かって距離を詰める。
小走り程度のゆっくりとしたスピードで斬りかかると、大柄は手甲でいとも簡単に防いでみせる。
力勝負に簡単に打ち負けたGMは、よろけながら後方へ飛ばされている。
が、次の瞬間、GMは大柄の後ろに回り込んでいた。
大柄が気付いた時には、右手の剣が首めがけて横薙ぎに振り抜かれていた。
耳が痛くなるような、金属音が響いた。
「こいつの動きには、気を付けないとネ」
いつの間にか、小柄が大柄の背中に張り付いていた。
斬り飛ばされたかと思われた大柄の首を、黒い鎌が刃を弾くように守っていた。
距離を取ったGMのコートの右肩が少し切れていた。
「ここまでにしとこぉかぁ、これ以上はオジサンの意思に完全に反するから二人も帰った方がいいよぉ」
オジサンという単語が出た瞬間に、大柄と小柄の顔色が明らかに変わる。
「そ、そうだネ、しばらくは様子見といこうカ」
そう言うと、小柄、大柄の順にスっと姿を消した。
一人残されたGMは、手すりがあった場所まで歩くと、右手をかざした。
「オジサン、これ直せる?」
そう呟くと、バラバラに斬り離された金属片がまるで磁力でくっつくかのように、時間の巻き戻しのようにみるみる元の姿に復元されていく。
「この能力はほんとに、やっかいだな。 手加減も本気も出せないんだから」
斬られた右肩にそっと手を当ててそう言うと、コートを脱ぎ近くに隠していたバッグに詰め込むと、非常階段からビルを降りて行った。
そうして、繁華街の雑踏に紛れてスーツ姿の男は消えていった。
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翌日は土曜日だった。
早朝から渋谷駅で待ち合わせるタロウとハルイチ。
先に着いていたのは、ハルイチだった。
待てど暮らせど、タロウは来ない。
しびれを切らしたハルイチは、携帯でタロウに電話をかける。
「はい、もしもしー、あ、操真君―?」
明らかに寝起きの声だ。
「山田さん、何してるんですか? もうとっくに待ち合わせの時間は過ぎてますよ!」
「ごめん、ごめん、今向かってるとこだから!あと数分で着くよー」
絶対嘘だ。 ハルイチは、全力で思った。
結局、タロウが現地に着いたのは、昼前のことだった。




