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第二話 就活ミソジ①

 「ゆう…しゃ…?」

 パソコンの前で、太郎は首をかしげている。

 求人を出している会社は、株式会社サークルユニコーン。

 国内最大手のゲーム会社だ。 特に、ロールプレイングゲームにおいては国民的ゲームという異名を持つタイトルを有している。


<なるほど、大手だけに洒落の効いた求人だな。 きっと、新しいゲームのマスコットみたいな仕事のことだろうなぁ……>


 太郎の頭の中では、着ぐるみを着て、全国をPR活動しながら回っている絵が浮かんでいる。

「どうせ、落とされるだろうけど、超大手に就職できるかもしれないなら、記念受験してみようかなぁ」


 太郎は席を立つと、求人票を印刷し、応募してみることにした。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~




 一週間後、太郎は都心の高層ビルが立ち並ぶオフィス街の、とりわけ高くて立派なビルの前にいた。

 面接と実技試験の案内が送られてきたのは、応募してからわりとすぐの事だった。

 <実技試験って、なんだろうか…着ぐるみとかに入って踊ったり、体力テストみたいなもの? 歌ったりもある? でも、服装については特に何も書いてなかったしなぁ>

 案内の紙には、試験日時、場所、簡単なタイムスケジュールしか書かれていなかった。

 とりあえず、仕事で使っていたくたびれたスーツを着て来た太郎はビルの中に入っていった。


 受付で、履歴書や職務経歴書を提出した後、かなり広い部屋に通された。

 机や椅子も何もない、だだっ広い真っ白な部屋だ。 広さも学校の体育館くらいはありそうだ。

 受験者は他に、高校生くらいだろうか? 若い男の子が二人、同じく高校生くらいの女の子が一人。

 おっさんの太郎が一人、明らかに浮いている。

 しかも、太郎以外はジャージやスウェットなど動きやすい服装であったため、なおさらに浮いていた。

 もう、この時点で太郎の心は折れかけている、家に帰りたい、もう、おうちにかえりたい……と。


 他の受験者と一言も話をすることなく、二十分ほどだろうか、地獄のような沈黙の時間が過ぎて、面接官と思われる女性と男性が部屋に入ってきた。


「この度は、弊社の求人にご応募くださり、まことにありがとうございます」

「私は、担当させていただく秘書課の高嶺と申します」


 深くお辞儀をしながら事務的な挨拶をする女性、高嶺タカネ 龍子リュウコ、二十四歳、長い髪を頭の上でお団子にまとめ、眼鏡をかけたいかにも秘書という感じの女性である。綺麗な顔立ちではあるが、どことなく怖い印象を受ける。


「今回は、弊社代表取締役社長、河瀬も担当いたしますので、よろしくお願いいたします」

 と、もう一人の男性の方へと手を向ける。

 無言で、受験者を見渡す男性、河瀬カワセ ミカド、三十九歳、若くしてこの会社を立ち上げ日本有数のゲーム会社に育て上げた男である。 見た目は、年齢より若く見えるが、オールバックの髪型と鋭い目つきからやはり怖い印象を受ける。


 <どっちもめっちゃ怖そうだなぁ、やっぱり早く帰りたい>

 心が折れている太郎は、さっきからそればかりを考えていた。


「では、さっそくですが、試験を始めさせていただきます」

 高嶺は受験者のデータが出ているのであろう電子端末を見ながら、話をしていたが、あるところで動きを止める。 そして、河瀬社長に向かって困惑した表情で、


「社長、なぜか受験者の中におっさんが一人混ざってしまってます。 勇者というのは、十代の少年少女であるというのが定説セオリーと決まっています。 すぐに、お引き取りを願いましょうか?」

 と、端末で口元を隠しながら、小声で話す。


「いや、構わないよ。ここに来られたのなら例の求人を見たということだ。 ということは、その資格があるのかもしれない」

 河瀬社長は、小声ながらも威圧感のある低い声でそう言った。


「し、しかし……」

 高嶺は何かを続けて言おうとしたが、河瀬社長の物言わぬプレッシャーを察して、

「わかりました、このまま選考を始めます」

 眼鏡の位置を直しながら、受験者の方へ向き直った。


「では、この求人を出した理由として、現状世界がおかれている状況をお話したいと思います。 今からお話しすることはメディアやマスコミからも一切発信されておりません。 従って、この試験終了後、採用者以外はこの件に関する記憶を消去させていただきますので、ご了承ください」


 さらっと、恐ろしいことを言われた気がしたが、緊張している若者三人と、とにかく早く帰りたいおっさん一人には重要な情報として耳に入ってこなかったようだ。


「ここ数年、世界で、特に日本において、【現実ゲーム化現象】という現象が起こっております。 【現実ゲーム化現象】というのは、その名の通り、現実ではありえないゲームの中でしか起こりえないような事象がリアルで起こっているということです」


 綺麗な女性が急に厨二病のようなことを、真顔で話し出したので、太郎は帰りたい気持ちより、何を言っているんだろうかこの人は? という気持ちが勝ってしまっていた。


「多く発生している具体的な事例では、町を歩いていると、音楽とともにモンスターと遭遇エンカウントしたり、人々の中に突然、超能力のような力を持つものが現れたり、あとは……建物の中が迷宮ダンジョンのように変わってしまう、そういった事例が報告されています」


 太郎が、他の受験者をちらっと横目で見てみると、皆一様に真剣に聞いているようだった。


 太郎は思った。


 <なるほど、そういう()()なのね>






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