第十八話 下校ミソジ②
最初のダンジョン攻略から一夜明け、タロウとハルイチは二人でサークルユニコーン本社に出社していた。
平日だったが、あの騒ぎで、覇有高校は数日臨時休校になっていた。
専用のエレベーターで着いた先は、かなり広いフロアだった。
十三階にある勇者ご一行専用フロアには、宿泊設備、武器屋、道具屋、そしてフィットネスクラブやバーが併設されており旅の支度ができるようになっていた。
「全部、金とるんだぜ」
タロウがげんなりした表情でハルイチに言った。
そんなことを言いつつ、タロウは武器屋に立ち寄りハルイチに装備を用意していった。
「武器はこないだ手に入れた呪術師の杖でしばらく戦えるから、問題は防具だな……」
武器屋は、会社の購買部のような殺風景なカウンターがあるだけで、不愛想なおばちゃんが向かいに座っている。
あれやこれやと、そのおばちゃんと交渉し、布のローブと、樹の腕輪を購入した。
購入といっても、タブレット端末を操作して、何度かタップしただけでファンタジー感はゼロだ。
「給料からの天引きになります」
おばちゃんはにこりともせず、これまたファンタジー感ゼロのセリフをぶっきらぼうに言い放った。
「操真くん、ステータス開ける?そこから装備したら、今度あっちに行った時に自動的に装備してるから」
ハルイチは、前日魔法を使ったときを思い出して、同じ要領で視界にステータスを表示させる、装備を選ぶと装備品の横にEの文字がついた。
「なんかEの文字が付いたんですけど、これでいいんですか?」
「そそ、もうメニュー画面使いこなしてるんだねぇ、すごい、俺なんか慣れるまで何故か、より目になって目が痛くてしかたなかったよ」
「今も、より目になってますよ」
高嶺が、いつの間にか後ろに立っていた。
「あなたが、【魔法使い】の操真君ですね、はじめまして、勇者課の課長の高嶺龍子といいます」
「ゆ、勇者課?龍子さん社長秘書じゃなかったですか?」
タロウは、生ビールを一口飲みながら言った。
「山田さんが、最初のイベントを攻略し、無事に一人目の仲間を連れ帰ることができたため魔王討伐の目途がついたということで、社長が新しい部署を新設したのです」
「ほぉ、それで課長が龍子さんですかぁ……、年下の美人上司とか夢のようですねぇ~」
「び……美人、山田さん、イッタイナニヲイッテイルノデスカ」
明らかに動揺し、ロボットのような口調になっている高嶺。
盛大に持っている書類をばら撒いてしまった。
「ってか、山田さん」
ハッと我に返る高嶺。
「仕事中に何飲んでるんですか!」
「だってぇ、ここにバーがあるんですよぉぉぉ」
タロウは高嶺に、二時間説教をくらった。
そして、その光景を遠い目で見ているハルイチであった。
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社長室で、とあるレポートに目を通している社長の河瀬。
タロウからの聞き取りで作成した、彼の思い出せる範囲での【このゲーム】のストーリーが書かれている。
「彼が記憶している次の仲間は、【戦士】か」
主人公は、魔法使いを仲間にした後、魔王を倒せる【聖剣】が眠るとされる塔を目指す。
その剣は塔の最上階の台座に刺さっており、勇者にしか引き抜くことができないという。
近隣の町で準備を整え、いざ塔の攻略を目指す主人公たち。
塔の中には、勇者の試練という力を試す仕掛けが各階に施されており、それらをクリアすることで上階へと進むことが出来るのだ。
途中、同じく魔王討伐を目的とする【戦士】と出会う。
初めは反発しあっていたが、試練を越えるために協力することになる。
「またしても、ありがちすぎる展開だな」
レポートから目を離すと、深く椅子に腰かけて目を閉じた。
「ゲーム造りは素人……か」
河瀬は、自分だったら現実世界とリンクさせてどんなゲームにしただろうか、そんなことを考えていた。
「確かに、あの人のシナリオもひどいっすけど、特にネーミングセンスがひどいっすよねぇ、だってぇルモエですよぉ、燃えるを一文字ずらしただけ」
不可思議な生身とも機械とも言えない、それでいて笑ったような声が社長室に響いた。
気付けば、あの黒いフード付きのローブを纏ったGMと名乗る人物が、社長室の隅に立っていた。
「ノックくらいしても罰はあたらないと思うが」
動揺する様子もなく河瀬はGMをにらんだ。
「すいません、何回かしたんですよぉ、かなり真剣に何かを読んでらしたみたいで」
少し馬鹿にしたような口調でGMは答える。
「あの人……と言ったな、お前は【このゲーム】を作った人物を知っているのか?」
「ええ、よく知ってますよぉ、でも、今はまだ言えません、そのうち必ずわかりますから」
「ゲームをクリアできたら、か?」
「そうですね、主役の彼には知識しかないので、存分にサポートしてあげてください、彼はとても弱い」
そう言い切る前に、声だけを残し黒い影が包み込んでGMは姿を消してしまった。
河瀬は、隠し持っていた小型カメラをデスクのパソコンに繋いだ。
「やはり」
捉えていたはずの映像は真っ黒な画面になりむなしくディスプレイに表示され続けていた。
「正攻法しか受けつけないということか」
河瀬は席を立つと、十三階へ向かうためにエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターの扉が開いた先に映し出された光景は、正座で若い娘に説教を受けている半泣きのオッサンの姿であった。
第二章終わり( *゜A゜)