第十四話 逢魔ミソジ④
ちょっと短いですけど、キリがいいので…(;´д`)
「なんか、コスプレしたおっさんが来たんだけど、うける」
月野は、タロウを見てゲラゲラ笑っている。
ハルイチとタロウは、大北達が避難していた広い部屋へと戻ってきた。
「どもー、山田と申しますー」
タロウはそう言うと、今の状況を簡単に説明した。 ゲームの中の裏切者のくだりは省いて。
五人は、まるで作り話を聞いているかのような表情で信じられないと口々につぶやいている。
ハルイチは、あの場であらかじめすべて聞いており、何か考え込んでいる様子だ。
「漫画かアニメみたいな話だけど、実際体験しちゃってるからね、おっさんの言うこと信じるよ、ん?どうしたの?」
月野は、タロウに向かって言った。
タロウは、月野を見ながら半泣きになって感動している。
「ううううう、かわいいじょじごうぜいだぁぁぁ」
月野は、さっとハルイチの後ろに隠れる。
「ちょっと、きもいんだけど……」
まじまじと月野の顔を見てタロウは言った。
「あれ?どっかで会ったことない?」
「え?なにその口説き文句?さらにきもいんですけど、この人ホントに勇者?」
「いや、俺は勇者じゃなくってただのサラリーマンだよー」
「初対面の人にあんまりきもいきもい言うのもひどいと思うよ、月野さん」
ハルイチは、かわいそうになったのか、諭すように言った。
「ん?月野?」
タロウは、あの名前に月かぶりの女子を思い出した。
「もしかして、名前がちょっと変わってる妹さんとかいる?」
おそるおそる月野に聞いた。
「ん?確かに妹はいるけど名前普通だよー」
「そっかー、普通の名前かー、ちなみに、君の名前は?」
「そういや、俺も知らないや」
ハルイチも月野の方を振り向いた。
「月女神、月野 月女神よ」
<絶対、あの娘の姉さんだ>
色んなツッコミの言葉が溢れ出てくるのを、必死でこらえながら、タロウは確信した。
大北が会話に割って入る。
「いずれにせよこの部屋も安全とは限らない、早く出口を目指すべきだ」
タロウは、部屋の隅にある宙に浮く水晶玉のようなものを指さして言った。
「あそこにセーブポイントがありまして、だいたいセーブポイントがある部屋は敵も出ない安全地帯なのが定説と決まっております」
「ケガをしているそこの君、試しにあれに触ってみなさい」
ストレッチをしながらタロウは永井にそう促した。
おそるおそる玉に触れる永井、すると、永井の体の周りがキラキラと光り、肩の傷がなくなってしまった。
「セーブポイントに触れるHPとMPと状態異常が全回復するんだよねこのゲーム、セーブは現実でもできるのかわかんないんだけど」
考え事をしていたハルイチは、大北に向かってこう言った。
「先生、俺もここが安全だと思います、でも、ここでじっとしていても元の世界には戻れないみたいですし、俺と山田さんでボスモンスターってやつを倒しにいこうと思います」
「ほかのみんなはここで終わるまで、待っててねー」
タロウは右手であいさつするように左右に振ると、部屋から出ようとする。
「待ちなさい!」
大北は、強い口調で言った。
「私も行こう」
「操真君が魔法使いだと言われても、心配なのは変わらない」
三人は部屋を出ると、タロウを先頭にハルイチ、大北と隊列を組んだ。
「ここは、まだ序盤のダンジョンだからややこしいギミックとかもないし、ひたすら出口の方を目指すよー」
「出口?ボスのいる部屋みたいなところを目指すんじゃないんですか?」
「んー、この二人じゃ戦力的に厳しくて、ボスに勝てないからいったん外に出て応援を呼びたいの」
タロウとハルイチは、そんな会話をしながらどんどん進んでいく、あらかたハルイチが倒してしまったのだろうか、モンスターとのエンカウントはほとんどなかった。
セーブポイントの部屋からかなり離れて、声も届かなくなった時、後方から突然何かが飛んできた。
先が鋭く尖った、氷のつららが二本、確実にタロウとハルイチの心臓をめがけて飛んでいる。
不意打ちのように背後から襲い掛かるつららに二人は気が付いていない。
心臓までその距離三メートル、二メートル、一メートル。
今まさに心臓が貫かれようとした瞬間、ハルイチは振り返り魔法を唱えた。
「ルモエ!」
・魔法【ルモエ】……手のひらから小さい火の玉を発生させ敵にぶつける。敵一体に火属性のダメージを与える。
ハルイチの手のひらに小ぶりの火の玉が発生し、つららを一瞬で蒸発させた。
タロウは、ハルイチの魔法にタイミングを合わせて地面にへばりつくようにかがみこんで、つららをかわした。
「やはり、ここのボスキャラはあなただったんですね」
ハルイチは、まるで名探偵のように指をさしながら言った。
「大北先生!」