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いつかの春に  作者: 村井なお
第三章 旅立ちの日に
18/21

18. 料金プラン

 俺がここにいるのは何のためなのか。彼女たちはそれを教えてくれた。


 早く。早く。


 そんな逸る気持ちを嘲笑うように、道に溢れた車たちは無言でテールランプを光らせている。


「……これは、動きそうにないね」


 運転手がそう呟いた。車は東郊通の交差点に差し掛かっている。ここを右折すれば鶴舞の駅はもうすぐそこだ。それなのに。


 腕時計を見ていた吉奈が顔を上げた。


「伊東」


「そうだな。……すみません、ここで降ろしてください」


 鞄から財布を取り出すと、河津が俺の手を押し止めた。


「いやいや、おかしいでしょ。わたしたちが払うから」


「だが乗せてもらったのは俺だ」


 擦った揉んだしていると、いきなり自動ドアが開かれた。


「いいから早く行きなさいな」


「運転手さん、しかし、」


「今なら学割とラヴ定額でゼロ円だよ」


「ちょっと待った、後者は、」


「おばちゃんありがとう! ほら、いいからさっさと降りる!」


 既に降りていた吉奈に袖を引っ張られ、俺は転がるように車外へ出た。


「ありがとうございました! ほら、行こう」


 後から降りてきた河津が俺の背中を押す。左車線の車を擦り抜け、歩道へ向かう。


 その途中、急ぎながらも俺はタクシーを振り返った。運転手はサムズアップで俺たちを見送っていた。


 可能な限り深く頭を下げる。彼女に見えているといい。そう思いながら。


 そして俺たちは駆けだした。



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