15. 寒風吹き荒ぶプラットフォーム
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ときに男性は視野狭窄に陥ります。うちの父にもままあることです。
そうしたときにはどうするか。私にできるのは黙して笑みを湛えることのみです。
発端となったのは駅員さんの一言でした。
「……それは、愛なのかい?」
「はい?」
何を口走っているのかと呆気にとられておりますと、宇佐美さん小室さんが身を乗り出しました。
「そうです!」
お二人の声は完璧にユニゾンしておりました。ユニゾンとは同じ音高の声を同時に発することです。異なる音高ならばハーモニーになります。純正律はもちろん等分律であっても三度ずらして重ねる声音は、いえ止めておきましょう。
「僕にもね、そんな時代があったんですよ。若かったんだなあ」
そして駅員さんは若き日の冒険について語りました。かつて北の町で炭鉱夫として働いていたこと。そこでうら若き乙女と恋に落ちたこと。二人示し合わせて町を出ようと約した日、寒風吹き荒ぶプラットフォームで彼女を待ったこと。
「その駅の駅長さんがコーヒーをくれましてね。温かかったなあ。彼女が着いたのはもうギリギリでね、改札をすっ飛ばして夜行に押し込んでくれたんですわ」
「何それかっけー! マジ人情っすね!」
一頻り昔話に花を咲かせた後、駅員さんは私たちを駅員室の脇に連れていきました。そこならば改札がよく見えるし、人通りの邪魔にもならないということで、私たちはそこで待たせてもらうことになったのです。
小室さんと宇佐美さんは段差に座り込み、溜め込んでいたのであろう息を大きく吐き出しました。ふと私を見上げた宇佐美さんが、腰をずらして小室さんとの間を広く開けました。
私はお二人の間にハンカチを敷き、「失礼します」と腰を下ろしました。今日ばかりはお行儀の神様もお目零しくださいますことでしょう。
「天城さん。時間平気? 足止めしといてなんだけど」
宇佐美さんが申し訳なさそうに尋ねてきました。
「ええ。まだ大丈夫ですよ」
早目に家を出て正解でした。
「あの、伊東さんがここにいらっしゃるというのは……」
宇佐美さんと小室さんは顔を見合わせて悪戯っぽい笑顔を交換しました。
「うん。吉奈と河津さんが連れてくるよ」
「えっ」
あのお二人が……。
「吉奈が言ってたよ。何かしてあげたいけど今はちょっと気まずいって」
小室さんがそう言って肩を竦めると、宇佐美さんは応えるように繰り返し頷きました。
「あー分かる。分かりみしかないわそれ」
「分かりみますか」
「そりゃもう。俺たちだってそうだもん。な!」
宇佐美さんが同意を求めると、小室さんは「うるさいよ」と渋面を浮かべました。
「俺らも最近伊東ちゃんとはちょっとあってさ。顔合わせにくいわけよ。だったら俺らが天城さんを、河ちーらが伊東ちゃんを何とかすべ、ってわけですよ」
なるほど、と私は手を打ちました。
「ミステリでいう交換殺人ですね」
「例えが悪過ぎるよ」
「……そうですね。今のは我ながらどうかと思います」
一つ咳払いをして仕切り直します。
「伊東さんとは喧嘩でもされたのですか?」
私が尋ねると、宇佐美さんが「あー」と唸りました。
「伊東ちゃんが学校辞めるっていうのは、知ってるんだよね?」
「はい」
「あいつさ、ずっと黙ってたんだよね。学校辞めるって聞いたの先週だもん。それで小室っちが拗ねちゃって」
「拗ねてない」
「だから喧嘩っていうか……何だろね? 怒ればいいのか寂しがればいいのか分かんなくなっちゃった感じ」
宇佐美さんは小室さんの抗議を無視してそう語り、困ったように笑いました。
「……なるほど」
そういうことでしたか。
「伊東さんのお気持ちも分かる気がします」




