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いつかの春に  作者: 村井なお
第三章 旅立ちの日に
13/21

13. 妨害

 一体全体何がどうなっているのか、私にはまるで理解できませんでした。


 目の前に並ぶ自動改札がどちらも塞がっています。


 塞いでいるのは同じ学校、同じ学年の男子生徒二人です。隣のクラスに属する小室さんと宇佐美さん。直接会話を交わしたことはありませんが、お顔はよく存じあげています。しばしば伊東さんと行動を共にされている方々です。


 ……訂正します。元同じ学校、元同じ学年でした。先週を以て、私の城東高校での生活は終わりを告げました。いえ、終わらせたのです。


 週末のうちに大凡の荷物は叔母の許へ送り、今日は小さめのキャリーバッグ一つで家を出ました。八事やごと駅から地下鉄に乗り、御器所駅を素通りしました。先週まではそこで下車しておりました。今はJRへ乗り換えるため鶴舞駅におります。


 乗り換えようと、しているのですが。


 入場用の自動改札機は二台。小室さんと宇佐美さんはカードを持った手を繰り返し改札機に叩きつけています。その度に改札機は甲高い警告音をがなりたてます。お二人はちらりちらりと私の方を顧みております。


 何事かと検めるため改札に近づいてみます。


「おかしいなー、通れないぞー」


 小室さん、残高が足りていないそうですよ。


「こっちもだー、俺自転車通学だからよく分かんないなー」


 宇佐美さん、青と黄色を基調としたそのカードは、ポイントが貯まるあのカードではないでしょうか。


 お二人は仄かに頬を赤く染めております。小室さんは私と目が合うと気恥ずかしそうに視線を逸らせました。宇佐美さんは「何か楽しくなってきた」と脇目も振らずにカードを叩きつけています。


 と、そうこうしているうちに他のお客様が近づいてまいりました。老齢のご婦人です。改札が塞がっているのを見てまごついていらっしゃいます。


「あの、迷惑になっていますよ」


 そう呼びかけると、小室さんと宇佐美さんは「やべ」と慌てて改札から離れ、「どうぞ」と畏まって道を譲りました。


「はあ。どうも」


 と、老婦人は恐縮しながら改札を通り抜けて行きました。


 私も「どうも」とさり気なく後に続きます。


「おおっと残高がー」


「俺のポイントがー」


 駄目でした。改札口に滑り込むお二人の身のこなしは尋常ならざるものでした。人としての尊厳をかなぐり捨てたかのようです。


 そして再び警告音が鳴り響きます。繰り返し絶え間なく輻輳します。


 その音が人を呼び寄せたとしても無理からぬことといえましょう。


 彼方より制服姿の駅員さんが小走りにやってまいります。


「ちょっといいですかね、他のお客さまのご迷惑になりますんでね、こっち出てもらってね、はい、はい」


 初老の駅員さんは、改札から出るよう、有無を言わせぬ熟れた口調で促します。お二人が顔を見合わせていると、駅員さんは「あー、ちょっとね、こっち来てもらえますかね、はい、話は向こうで聞かせてもらいますんでね、はい」と腕を掴んで改札から引き剥がしました。


 小室さんが縋るように私の顔を見ます。宇佐美さんは「天城さん助けてヘルプ!」と私に腕を伸ばします。


 私にどう説明しろというのでしょう。思わずため息を零してしまいました。



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