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 最初、それは些細な変化から始まった。

 赤鶯あかうぐいすが深夜に騒がしく鳴きだすこともあったし、百目梟ひゃくめふくろうが真昼に群れをなして海へ向かって飛ぶ姿が目撃されるというような小さなものだった。だが、その些細な変化はさまざまな妖かしに連動して起こり、明らかに何かの異変の前兆のように思われた。

 それは次第に広がりを見せ、やがて大きな変化へと繋がっていった。

 その中でも最も驚くべき現象はある一匹の妖かしの出現だった。鷲のような嘴、獅子のような鬣、炎を吐きそこから巻き起こる風は刃物となって周囲を断ち切る力を持っていた。そして、何よりもその大型トラックの10倍ほどの巨体にも関わらず、旋風のごとく素早い動きを持っていた。その獅子の鬣を持った妖かしの背の部分に人の顔のようなものが見えることから、『フタクビ』と呼ばれるようになった。

 二宮瑠樺は、一条家に仕える斑目秀峰が率いる『常世鴉』と共に、その異変に対応する日々を送っていた。斑目秀峰は既に80歳を越えた老人ではあるが、その老人の姿は仮の姿ではないかと思うほど快活で、その活動の幅は広い。『常世鴉』に所属する術者たちは、瑠樺のような『妖かしの一族』の直系血族とは少し違い、その影響を受け妖力を受け継いだ『枝族』と呼ばれる者たちだ。斑目に見出され、その力を人々のために使うために一条家のもとで働いている。その多くが十代から二十代の若者で、その中には瑠樺と同じ学生も混じっている。斑目本人も、その『枝族』の一人だった。

 今年になってから、瑠樺の進言のもとで『常世鴉』と『九頭龍』と呼ばれる陰陽師たちは協力しあって行動することが多くなった。妖かしの力を持つ『常世鴉』と、その妖かしを封じる力を持つ陰陽師たち『九頭龍』が手を取り合うことは、理にかなうものだと考えられた。一条家の当主、一条春影もそれに賛同し、その試みはうまくいくのではないかと思われた。

 しかし、それは決して簡単なことではなかった。

 もともと式神を使役する陰陽師たちにとって、『妖かしの一族』は式神と同様の存在だとしか見ていなかったのだ。中でも『九頭龍』を率いる栢野出石かやのいずしの娘、栢野綾女かやのあやめはそのやり方に強く反発した。

 春に東京の大学を卒業した彼女は、『九頭竜』だけで全ての任に当たり、『常世鴉』を解散させようと考えていたのだ。その結果、『常世鴉』の一人であり瑠樺の学校の先輩の蓮華芽衣子は、栢野出石の娘で陰陽師である栢野綾女と衝突することになった。

 4月中旬、全身が傷だらけで左腕と右足首を失いながら、栢野綾女を背負って現れた蓮華の姿を見た時の衝撃は忘れられない。蓮華は『フタクビ』に襲われたと報告したが、その多くの傷は陰陽師の術によるものだった。

 二人が戦ったことは明らかだった。おそらくは蓮華は綾女から勝負を挑まれ、それを受けたのだろう。そして、その最中に『フタクビ』と遭遇したために、不意をつかれてあれほどの傷を負うことになったのだ。

 それを蓮華は公にはしなかった。彼女がそういう女性であることを瑠樺はこれまでの付き合いのなかでよくわかっていた。

『妖かしの一族』はケガをしても治りが早い。能力は個人によって違うが、骨折程度なら1日2日あれば大抵は治すことが出来る。それにも関わらず芽衣子のケガはまだ治ってはいない。それほどに綾女の陰陽師としての力が強いということが言えるのだろう。

 それでも、あれから3週間が過ぎ、蓮華のケガもかなり回復してきている。


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