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一条家の術者たちは妖かしの異変を探ると同時に、『詩季の一族』の行方を捜している。
だが、なかなか『詩季の一族』の行方はわからなかった。
当然かもしれない。『詩季の一族』のことを誰も知らないのだ。妖かしの気を持つ者というだけでは、とてもたどり着くのは難しいだろう。
怜羅が現れたことを、瑠樺は誰にも話していない。彼女が自分のことを『詩季の一族』の使いとは言っていたが、まだその正体がハッキリしたわけではない。
彼女が何者なのかはわからない。ただ、彼女に危険性は感じない。きっとその時がくれば彼女はまた姿を現すだろう。
その時を静かに待ちたいと思った。
今夜もまた、いつものように放課後、街を巡回した後で一条家に報告をして解散をする。
屋敷を出ようとした時、背後から呼び止められた。
乃上野愛だった。
彼女は『常世鴉』の一人で、瑠樺の通う陸奥中里高校の一年生だ。中学の頃からその力に目覚め、蓮華芽衣子と共に働いてきた。詳しいことは瑠樺も聞いていないが、野愛はもともと妖かしの血筋ではなく、かつて蓮華芽衣子との関係の中でその力を持つことになったらしい。
そういう意味では瑠樺よりもずっと先輩に当たるのだが、蓮華がかつて二宮家に仕えていたこともあり、そのチームの一人である野愛も瑠樺には特別な思いを持ってくれている。
実は蓮華のチームである野愛には、他のメンバーと共に草薙響のことを見張ってもらっていた。
「二宮先輩」
野愛は周囲に気をつけながら小声で声をかけてきた。
「どうしました?」
「実は、矢塚さんの様子がおかしい気がします」
「矢塚さん? 何かあったんですか?」
瑠樺はそっと野愛と共に門の陰に移動する。
「先週からあの山に結界がはられていたことは知ってましたか?」
「それは知っていました。最近の異変があの地に影響を与えることがないように結界をはることにしたと矢塚さんが話してくれました。それは春影さまも知っていると思いますよ」
「そうでしたか。しかし、もうひとつ問題が」
「なんです?」
「草薙響さんがその中にいる可能性があります」
それは瑠樺にとって思いがけない話しだった。ここ数日、草薙が学校を休んでいることは知っていた。だが、一方で自宅にいるという情報を得ていたからだ。
「そんな……ありえない」
野愛は瑠樺の言いたいことをすぐに理解した。
「実は、矢塚さんが結界をはる直前、草薙さんがあの地に入っていくのを目撃されています」
「本当ですか?」
「はい、ただ、その後、草薙さんの様子に変化がなかったため報告していませんでした」
「それならどうして?」
「実は彼のアパートに呪符が残されていました」
「呪符?」
「はい、草薙さんがそこにいるものと外部に思わせるためのものです。私たちの監視を見越して準備されていたものじゃないかと思います。つまり私たちは騙されていたことになります」
「いったい誰がそんなことを?」
「……草薙さんでは?」
「彼にそんなことは出来ないと思います。そんな知識、彼にはないんだから」
「それが嘘だったとしたら?」
「嘘?」
「何か、彼も特別な力を持っているという話でしたよね? 彼の出身は京都でしたよね? 『西ノ宮』とつながりがあったとしたら?」
野愛には草薙の力について、詳しいことは話していない。野愛がそう思うのも仕方ないことだ。だが、草薙にそんなことが出来るだろうか。
「草薙さんはそんな人じゃないと思います」
信じたいと思った。「それに、どうして矢塚さんのところに?」
「わかりません」
「中の様子は? 確認出来ないですよね?」
その問いかけに野愛は小さく頷いた。
「あの地では矢塚さんに敵う者はいません。誰もその結界を破ることはで出来ません。おそらくそれはあの音無雅緋さんであっても無理かと思います」
「そうでしょうね」
「矢塚さんが結界を開くまで、中の様子を知ることは出来ません」
矢塚と草薙の間に接点はないはずだ。だが、野愛が言っていることが間違っているとも思えない。今、草薙響の行方がわからないのも事実だ。
いったい草薙と矢塚の間に何があったのだろう。矢塚が草薙の存在を知っているとすれば、やはり、その力についても知っていると考えるべきだろう。
「このことを知ってるのは?」
「私のチームの者だけです。もともとこれは二宮先輩から受けた指示なので、斑目さんにも報告はしていません」
「申し訳ありませんが、この件は少し秘密にしておいてもらえませんか? 野愛さんに迷惑はかけませんから」
「心配しないでください。私たちは二宮先輩がこの地の妖かしを束ねる者と信じています」




