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 風がぬるい。

 二宮瑠樺にのみやるかは校門を出た後、一度立ち止まって曇天の空を見上げた。

 微かに妖かしの気配がする。

妖かしの血をひく『妖かしの一族』の直系血族である瑠樺にとって、それを感じるのはそう難しいことではない。最近はとくに妖かしの動きに異変が起きており、それは常に気となって流れてくる。

 この地でその妖かしの異変に対処しているのが一条家だ。

 一条家は平安時代、坂上田村麻呂によっての蝦夷討伐のおり、この地に住む妖かしを支配・管理するため大和朝廷から送られてきた陰陽師の一族だ。一条家と『陸奥の神守り』と呼ばれていた『妖かしの一族』は、一時、『八神家』と呼ばれていた時期もあるが、今ではその直系血族の多くはこの地を離れてしまっていて、『八神家』のなかで残っているのは一条家と矢塚家の二家だけになっている。それでも、この地には『妖かしの一族』の妖力の影響から力を得た『枝族』と呼ばれる者たちが存在していて、その多くは今でも一条家で働いている。

 一条家は、瑠樺たちが『西ノ宮』と呼ぶ陰陽師たちの一族の一つだ。『西ノ宮』とは、昨年、いくつかの事件を経て関係が拗れていて、いつ本格的な戦いになるかと恐れていたこともあるが、今の所、幸いにも大きな争いにはなっていない。瑠樺にとって『西ノ宮』は、よく正体のわからない、未知なる存在だった。

 瑠樺は周囲を気にしながら、校門を出ると素早く右に曲がった。それは自宅へ帰るのとは逆の道で、一学年上の蓮華芽衣子れんげめいこの家へ向かう方向だった。蓮華芽衣子もまた瑠樺と同じく『妖かしの一族』で『枝族』の一人なのだが、彼女は3週間前、一条家に関わることで大ケガをして学校を休んでいる。それ以来、瑠樺は時々、学校帰りに彼女の家を見舞っていた。

 一度、チラリと振り返る。

 瑠樺が気にしているのは、クラスメイトの音無雅緋の視線だ。

 雅緋と知り合ったのは昨年のことだ。クラスメイトの一人として付き合いからはじまったが、彼女とはそれ以上の関わりがある。雅緋の中には、1400年前に『魔化』と呼ばれる妖かしと戦うために霊体となった『妖かしの一族』の呉明沙羅が存在している。封印されていた沙羅を雅緋に宿すように手助けをしたのが、瑠樺の父である二宮辰巳だった。幼い頃に通り魔事件で警察官であった父を亡くし、伯母のもとに引き取られてからも絶望した毎日を過ごしていた雅緋のことを思ってのことだろうが、本当のところは、辰巳が亡くなってしまった今ではわからない。だが、雅緋本人はそのことにとても感謝しているらしく、その恩を瑠樺に返したいと強く思っているところがある。

彼女には、蓮華芽衣子がケガをしたことについて話していない。雅緋の中に沙羅という存在がいたとしても、雅緋自身は『妖かしの一族』でも無ければ一条家と直接的な関係もない。そんな雅緋に、蓮華のケガの原因について話すことは出来ないからだ。

 蓮華芽衣子のケガの大きな原因は『妖かし』の異変だった。


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