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なにかと便利なこのスキル!  作者: 宮本けん
第一章 最低ランクの僕が贅沢な暮らしをするのはそんなに簡単じゃない!
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第3話 強制イベントッ!!



「さあ、踊れ、無数の火球とともに!ファイアボール!!」

 この厨二発言をしているのは、音無おとなしかなで、絶対的な絶壁を誇る16歳の少女だ。


「あの、こっちが恥ずかしくなるからやめてもらえませんかね?」

 そして、詠唱無しで、貧弱な魔法を放つ男、神楽かぐらゆう

「しょうがなくないですか!?私だって好きでこんなこと言ってるわけじゃ!」

 というのも、奏のスキル【呪文変換】は自分の意志に関係なく、呪文を変換してしまう、恥ずかしいスキルなのだ。まあ、その分威力がすごいのだが。


 あ。あと、僕らは別に、何もない所に魔法を放ってっるわけじゃない。クエストで、ゴブリンを討伐しに来てるんだ。

 そんな説明をしてる間にまた一つゴブリンの断末魔が聞こえたが、そんなのは無視して話を進めよう。


 2日分の食費を手に入れた僕達だったが、もっと大きなお金を簡単に得ようと、そのほとんどを、著作【基本呪文】の購入にあて、このクエストに来たというわけだ。


「なあ、もう魔力が少ないから、そろそろ帰らないか?」

 と、奏の方を見る。

「雨、降れ。シャープレイン」

 ...それはカッコいいのか?

「分かりました!」

「おーし!じゃあ、報酬で、ご飯にでも行こう!」

「どこにします?」

「普通に酒場でよくないか?」

「...そうですか」

 なぜか不機嫌な奏の姿があった。

「祐さんって女の子と付き合った事とか無いですよね」

「な、なぜ分かった!?」

「もういいですよ、酒場で食べましょう」

「あの、酒場が嫌だった?」

「嫌ってわけじゃ」

 どうせ僕には、女心なんて分かんないから、言及しても無駄かな。



「おお!クエストの報酬だ!」

 僕が掲げているもの、ギルド職員、アンナさん受け取った報酬だ。

「何を騒いでるんですか?」

「いやいや、異世界ライフ初めてのクエスト報酬だぞ!」

「そうですかそうですか」

「祐さん!ランクが上がりましたよ!Cです!」

 アンナさんにC宣告を受けた。

 まあ、地道に上げていこう。

「なあ、奏」

「なんですか?」

「奏のランクってどのくらいなんだ?」

「...せっかく言わないであげたのに」

 いらないよ!そんな気遣い!!

「Aランクですよ」

「そ、そうですか」

 何それひどい!

「もういいよ...」

「だから、言わないで上げたのに」


「祐さん、寝床をどうにかしましょう」

「ああ、確かに。今は暑いからいいが、冬の野宿は命があやうい」

 まあ、この世界に季節なんてあるのかは不明だが。

「普通に宿でよくないか?今のところは」

「私もそう思って宿を探しに行ったのですが、家賃がバカにならない額でして、ちなみに祐さんはバカですね」

「なに、ちなみでバカにしてんだよ!」

「それで、どうします?バカな額と言っても一日2000コロナです」

 バカな額とはいったい。

 2000コロナという額はゴブリン討伐で大体500コロナなので、まあ、僕達には大きな出費となるだろう。

 しかも一日って!

「自分達で造るっていう手もあるが」

「無理でしょ。祐さんじゃ、力仕事出来ませんよ」

「引きこもりなめんなよ!!」

 と、まあ。当分は野宿だろう。



「おはよう、奏」

「おはようございます...あの、どなた様で?」

「はいはい、いいからクエスト行くぞ」

「なんですか、付き合ってくださいよ。コントに」

 コントって言った?ねえ、今コントって言った!?


「今日はお金になるクエストに行きましょう!」

「簡単なのがあればな」

 そう言えば、武器とか防具も買わないと。

 考えてみれば、丸腰でクエストに行くって頭おかしいもんな。

 そんなたわえない会話をしながらギルドへ歩いていく僕達。


「なあ、このクエストとかどうだ?」

「えっと。ゾンビ討伐?ですか、いいですよ」

 ゾンビとはアンデットに属するモンスターで、夜に出現する。

 しかし、この時期の日光だと、森の中は影が多くなり、昼間からゾンビが働くらしい。

 ニートの諸君ゾンビを見習え!


 そして、その森では昼間っからゾンビがいるので、ろくに外出もできなくなっているという。

 そこで、このクエストでは、ゾンビを討伐するのと一緒に、光源を定位置に置いて欲しいということだ。


「善は急げだ、出発しよう!」

「待ってください、私のパフェが!!」

「...僕が朝ご飯を抜くという苦行で、お金の節約をしているというのに、なにわが身可愛さに生クリームを頬張ってんだ!!」

「いいじゃないですか、私の力が無ければゴブリンも狩れないんですから」

「う、たしかにそうだが」


「なんなら、少しあげましょうか?」

 そう言い、奏が自分の使っていたスプーンで僕の前に生クリームを置く。

「はい、あーん」

 こ、これは!!【一度は体験してみたいイベントランキング第5位:はい、あーん】ではないか!!

 だが、これは間接キスと言うものじゃないのか?いいのか?大丈夫なのか?

 しかし、この好機を逃すわけにも!


 そ、そうだ、何を迷っている!奏と僕はパーティーメンバーという間柄じゃないか、一緒に野宿をしている仲間と間接キスぐらいで動揺する必要なんてないだろ!

 と。僕は口を近づけた。

 瞬間、スプーンが遠退いていくのが見え、それは奏の口に運ばれる。

「ハハハッ!期待しましたか?」


 その時。僕は、間接キスについて思考しこうしていた脳を、如何いかにしてこの女を森の奥に置いていくか?という復習に回した。

「じゃ、行きましょ」

「ああ、逝ってくれ」



 さあ、ここは奏の墓場、街から出てすぐの森だ。

 クエストではギルドから支給された照明を、地図通りに配置すればいい。 


 早速現れたか。ゾンビ、わりと気持ち悪いな。

「眠れ、迷える魂たちよ。フリーズ」

 ...奏の寒いセリフでゾンビたちが凍ってゆく...

「なあ、それ。ほんとに言わないとダメなのか?」

「祐さんは私が素でこんなセリフを言っていると思っているんですか?」

「ああ!」

「『ああ!』じゃありませんよ!」

「まあまあ。奏が厨二病ということが分かったところで、ここが最初のポイントだ」

「祐さん、あなたとは決着をつける必要がありそうですね」

「フッ。」

 鼻で笑うと同時に、心の中で『ウィンド』と唱えた。

 瞬間。

「きゃ!」

 奏の女の子らしい声が響いた。


「今日は風がざわついているな」

「違いますよね、魔法ですよね!?祐さんってやばいですね」

「おっと、言いがかりは、よしてもらえるかな。誰も見てないよ、花柄なんて」

「おまわりさん!!」


 何を心外な。別に僕は魔法で、女の子のスカートをまくり上げるような変態ではないのに。

「分かったっから、早く行くぞ」

「悪徳の使者よ、今、この時をもって正義の名のもとに裁かれよ!!」

「まてー!!殺す気かー!!!」

「ダメ、ですか?」

「ダメだよ!!」

「ダメ...ですか?」

「上目遣いをやめろ!ダメに決まってんだろ!」

「そうですか、残念です」

 こいつ、本当に殺そうとしてたのか?



「休憩、しよ、うよ?」

「何言ってるんですか、まだ10分程しか歩いてませんよ」

「引きこもりを、なめるなよ」


 花柄を見たあと、照明を2つほど置き、今を迎えるのだが。疲労がすさまじい。

「じゃあ、少しだけ休憩しますか」

「ああ、そうしてくれ」

 僕達は切株の上に座る。 


 ...そう言えば、この世界には異種族がいるんだよな?

「なあ、奏。エルフとかって見たことある?」

「いえ、ありませんが」

「そうか、ここら辺に住んでたりしないかな?」

「まあ、エルフ領から外には滅多にいないでしょうね」

「エルフ領?」

「はい、高地森林地帯(こうちしんりんちたい)でしたっけ、そこが、エルフ領です」

 奏の話では、ドワーフは低地ていち森林地帯、リザードマンは高山地帯を生息地にしているらしい。

 ちなみに、僕達、人類種は基本どこにでもいるという。


「なんで、そんなに詳しいんだ?」

「萌えカフェ店長、が教えてくれたんです」

 萌えカフェ店長?ああ、あのおじさんか。

「前から気になってったんだけど、奏とあの人ってどんな関係なんだ?」

「まあ、異世界生活初日にいろいろありまして」

「へえー」

「ちなみに、店長も日本人ですよ」

「...ま、まじか!?」

 いや。でも、なるほど、だから萌えカフェを。


 そう考えると、日本文化【萌え】をこの世界に伝承しようとしているという点では、神が望んだとおり、人類種の繁栄に貢献しているということか。

「なあ。俺も、日本の重要文化【ヒキニート】をこの世界に伝承しようという思考に至ったのだが」

「なぜそんな思考に!?」

「そしてもちろん、僕が見本のヒキニートになるんだ!!」

「見本のヒキニートって、ヒキニートを見本にし始めたらおわりですよ!」

 僕のニートライフを否定されたところで、そろそろ出発しようということで一致した。


「うわあああ!!」

 ...声が聞こえた。奏ではない、女の子の声だ。


「いやー、随分ずいぶん可愛い声のゾンビもいるんだな」

「いやいや、絶対、悲鳴ですよ」

「まあ、俺達は俺達で仕事を急ごう」

「何言ってるんですか?助けに行きますよ」


 何その正義感?あなた主人公ですか?ちなみに僕は主人公です。

「僕が死んだら話が終わるから、身を危険にさらしたくないんだが」

「いいから、声が聞こえた方に行きますよ」

 僕に拒否権は無いのか?これが俗にいう強制イベントだったりするの?

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