第2話 黒髪ロングの男の娘!?
「いらっしゃいませ♪」
僕は今、一般的に接客と呼ばれる行為をしている。
その行為に対し『なぜ?』と疑問を持つことは、いたって普通のことであり、恥ずべきことではない。
「ご注文の方を繰り返します♪」
そして、飲食店のアルバイトである僕が、ご注文を繰り返すのも恥ずべきことではない。
ただし、普通の恰好であれば。と付け足す必要がある。
「似合ってますよ(笑)」
「う、うるさい!!」
もしも、もしもだ。仮に僕が、黒髪ロングのかつらを被り、薄化粧をして、更にはスカートまで履いている、そんな状況下。
さあ、皆さんは、どのような反応をするだろうか?
もう一度言おう、この話は逸話、仮にその状況になったとして、この質問に答えてほしい。
そして、間違っても『似合ってますよ(笑)』なんて事は言わないと、約束してほしい。
そんな、思考は置いといて。仮に、僕が女装をしてアルバイトをする羽目になった経緯を話そう。
爽やかな日光が差す涼しい朝。僕達は飢えていた。
そう、飢えだ。
いくら、詠唱無しで魔法を使えど、また、呪文を変換できようと、空腹にはかなわないのだ。
そんな事を思いながら、僕と奏はギルドのテーブルに座っていた。
「クエストに行きましょう!」
何を血迷ったか、そんなバカげたことを言っている。
「弱いモンスターや採取、探し物のクエストは狩りつくされてるし、強いモンスターと戦うなら魔法は必須。というか、僕のランクじゃ、強いモンスターのクエストを受けられない」
「私は受けれますが」
というのも、ステータス確認時にランクが最低だと言われたのを覚えているだろうか?
その、ランクというものは、冒険者の腕の信頼度みたいなもので、自分のランク以上のクエストは受けることができないのだ。
ちなみに、パーティーでの挑戦では、最高ランクの人を基準に出来るため、実質、低ランクでも高難度クエストには参加できる。
まあ、魔法の使えない僕達が、高難度クエストをクリアできるはずもない。
魔法が使えないと言ったが、あれは、僕達が、呪文を知らないということ。
【下級魔法詠唱不要】があるが、呪文を知らないと使えないのは、検証済みだ。
奏のスキルも同様に、呪文を知らないと使用できないらしい。
その呪文の取得方法だが、どうやら書店に売っているとのこと。
しかし、僕達にそれを買う、お金は無い。
つまり、飢えだ。
Q.A.D.証明完了
「僕の中で証明が完了したんだが、これからどうする?」
「何を言ってるかわかりませんが、クエストに行けないんだったら、バイトでもししてお金を稼ぎますか?」
「ああ~。働きたくないでござる」
「末期ですね、もう駄目ですね」
「そこまで言うか!?」
「それでは、空腹で力尽きる前にバイトでも探しますか。いい所を知っているので」
そうは言っても、当日いきなりで雇ってくれるか?
まあ、行動しないと始まらないしな。
「接客とかできますか?」
「バカにしてるのか?」
「この前、自分で人見知りって」
「そうだった!!僕は人見知りだったんだ!!」
「そうですか、残念です」
なにが?
「ここなら、今すぐにでも就けるんですが」
と。奏はカフェの前に立っていた。
「ここで?僕が、接客?」
「はい、大丈夫ですか?」
まあ、異世界なんだし、こういうのに、挑戦するのも一興かもしれない。
「ああ。分かった、やってみるよ!」
早速、店内に入り、店長に挨拶をする。
「じゃあ、早速着替えて」
「はい?」
僕はてっきりウエイトレスの恰好かと思っていた。
「あの、これは?」
「ああ、うちの制服ね」
「あの、僕、男なんですが」
「大丈夫、大丈夫」
何が大丈夫なんだ!?
「あの、だかッ」
「ここ、萌えカフェなんですよ」
僕の声を遮り奏が訳の分からないことを言う。
萌えカフェと言うのは可愛い女の子に癒されるカフェのことだろう?
そこに、男の僕が?...おかしくね?
「だから、僕男だって」
「たしかに祐さんは男の子ですが、もう諦めて男の娘になってしまえばいいと思うんですよ」
「何怖いこと言ってんだ!」
「でも、仕事しないと死にますよ?」
うっ、たしかにそうだ。
「ご注文の方繰り返します」
とまあ、時間は経ち、僕は女装をして接客をしていた。
よし、最後のお客さんがお帰りになられた。
ところで、奏はどこ行った?
「祐ちゃん♪」
【一度は体験してみたいイベントランキング第13位:後ろから目を覆われる】を成就したのだが。
出来る事なら、女装していないときが良かった。
「なあ、頼むから、これ以上僕の精神を蝕むのはやめてくれ!」
「そうですか、女装している祐さんならギリギリ、生理的に無理の範囲外なんですが」
「じゃあなんだ?いつもの僕は生理的に、以下略。なのか!?」
・・・・・・
「なんで無言なんだよーー!!」
「まあ、そんなことより、以下略。」
「略しちゃ駄目だよね!?わかんないよ!」
「なんで?なんで!私の気持ちを分かってくれないの!」
「何その甘酸っぱい感じ」
「お気に召しませんでしたか?」
そういう問題じゃ。
「私の気持ちを、分かってくれない祐君なんて、いらないよね?」
「何そのヤンデレ!」
何がしたいんだよこいつは!
「べ、別に!祐のために『以下略。』した訳じゃ無いんだからね!」
「何そのツンデレ!そして最高!!」
僕もなぜかテンションが上がってしまった。
「何言ってるんですか?早く給料、貰いに行きましょうよ」
なんなんだ?その、何事もなかったように諭すスタイル!
そんな不満はあったが、一々突っ込んでたら時間が足りないので店長のところに行った。
「おつかれさまー。いい仕事ぶりだったね」
「あ、ありがとうございます」
「なんなら、正式にここでバイトする?」
「ハハハ、丁重にお断りします」
「なんだー、制服なら無料で貸すんだけど」
「それが嫌なんですけどねー」
「そうかそうか、じゃあ、これ給料ね」
そこには、人生で初めて貰う給料というものがあった。
「店長さん、いきなりのお願いを、聞いてくれてありがとうございます!」
「いいよ、いいよ。奏ちゃんの頼みなんだし」
奏とこの人ってどんな関係なんだ?
まあ、いいか。給料も貰ったことだし、夜ご飯でも食べに行こう!
「それじゃあ、失礼します」
たしか、ギルドに酒場があったし、そこで食べるか。
「あの」
「なんだ?奏」
「女の子を置いて一人で食べに行くつもりですか?」
「でも。奏も僕と一緒じゃ嫌だろ?」
「たしかに、生理的に無理って言いましたが...だからって女の子置いていきます?」
「もちろん」
「あの、これはあくまでも予想ですが。祐さん、学生時代友達とかいませんでしたよね?」
「な、何を申すか!僕にも友達の1人や2人...いたよ。」
なぜだろう、奏がかわいそうなものを見る目で僕を見ている。
「あまりにも可哀想なので、一緒に食べますか?」
「終いにゃ泣くぞ!」
と、僕達はそんな風に2日余りの食費を手に入れ、死を免れた。