第1話 Ⅹ=1
石造りの家々、本格的な教会。そんな、物語で多く用いられる風景。
そこに、一人。暖かい日の光を浴びて、黄昏...ている、男が居た。
「おかしいだろー!!!」
そして、心からの叫び声をあげていた。
僕なら、こういう奴には関わりたくない。
ああ。そういえば。この男、神楽祐は、僕そのものだった。
自我を取り戻したところで、これからの事を考える。
まずは、衣食住。
その為には職に就かなくてはいけない。
ということで...何をすればいいんだ?
僕のこの状況は、正直言って詰みなんじゃないか?
普通に考えて、この間まで中学生だった人間を『はい、さよなら』で異世界に送り出しても何が出来る訳でもないだろ!
「兄ちゃん、そこに居られると邪魔なんだが」
どうやら僕の異世界最初の会話は、この、いかついおじさんになりそうだ。
というか、日本語でいいんだな。
「あ、すいません」
「何だい兄ちゃん?その年で迷子か?」
違うわ!
「あの、先ほどこの街に来まして、職を探しているんです」
「おお~。そうかい、そうかい。若いもんは良いねー!」
見た目によらず、いい人で安心した。
「そうだ、兄ちゃん!冒険者なんてどうだ?少々危険だが、興味ないか?」
冒険者?そんな職があるのか。
「まあ、詳しくは、あそこの冒険者ギルドで聞いてくれ」
えっと。あの、でっかい建物のことか?
「はい、ありがとうございます」
「いやいや、まあ。強気生きろよ若人!」
いやー。どんな世界にも親切な人はいるようだ。
人を見た目で判断しちゃだめだと、再度実感したよ。
冒険者か...いいかもしれない。響き的に楽しそうだし。
何より、厨二心をくすぐる。
僕はそんなことを思いながら、重い扉を開ける。
「おお?見ねえ顔だな!」
いや、ここは世紀末か!!
「はい。ぼ、冒険者になろうと思いまして」
「ハハハ!お前みたいな坊ちゃんが、つける職じゃねえよ!!」
「何言ってんのギルダ!ごめんね、この人お酒は入っちゃてて。冒険者になりたいのなら、受付に聞いたらいいわよ」
「あ、ありがとうございます」
どこの世界でも優しいお姉さんタイプは素晴らしい!!
「あ、あの、冒険者になりたいんですけど」
受付のお姉さんが美人だったからか、声が少し上ずってしまったが、そんなことはどうでもいい。
「はい、新規の登録ですね?でしたら、まず。ステータスを確認しましょう」
話が進むのが速いな。
「この水晶に手をかざしてみてください」
「あ、はい」
完全にお姉さんの勢いに押され、言われるがまま、水晶に手を添える。
瞬間。水晶が回りだし紙に文字を映し出す。
「フッ。では確認してみてください」
ん?今。お姉さんから、バカにされたような視線を感じたが...気のせいか。
僕は、お姉さんが渡した紙に目を通す。
「あの、この数値はいいんでしょうか?」
「いえ、悪いです」
ストレート!!
「筋力とか耐久も体力だって底辺ですね」
ストレート!!!
「ずっと家に引きこもってたんですか?」
ストレート!!!!
お姉さんの言葉に、僕の心はもうボロボロです。
「...ニートだったんですか?」
お姉さんは僕の心にとどめを刺すようだ。
「このステータスで冒険者に(笑)」
その笑みは僕にとって、オーバーキルだった。
「あ、すみません!つい」
何が『つい』だよ!!
「しかし、このステータスなら冒険者には、本当に向きませんし、ランクも最低レベルのDですが。それでもご登録なさいますか?」
たしかに、冒険者は危険って言ってったしな。
ランク?なるものがあるらしいが、それも最低レベルかよ!
でも、ゲームみたいで楽しそうだしさ!
他にやりたいこともないし。
「はい、お願いします!」
この日。僕は、冒険者(笑)という職に就いた。
「そうですか!ま、まあ、ランクはクエストをこなせば上がりますし、大丈夫ですよ!」
お姉さんは必死にフォローしてくれているが、それが一番傷つくぞ!!
「私はギルド職員のアンナです、よろしくお願いします。それでは、お名前と性別、年齢などのご記入お願いします。」
「はい」
住所って日本でいいのか?
「出来ました」
「神楽祐さん、男性、16歳ですね」
アンナさんはその後も、僕の個人情報を大声で復唱していった。
「ニホン?あまり聞かない地名ですね」
「あ、はい」
『聞かない』というか無いのだから。
「そう言えば、昨日も同じ地名の人が来ましたよ」
「えっ!ほんとですか!?」
ここで噓をつく必要もないのだが、テンプレとして、こう返しをしてみた。
まて、まて。今はそんなこと、どうでもいい。
日本人、つまり僕と同じ境遇の人物がいるのだろう、ぜひ会いたい!
その日本人が大きい胸の、美人なお姉さんでありますように。
そこには、一人の男子高校生。その、切な願いがあった。
「あの!その人がどこに居るか分かりますか?」
「はい、あのテーブルに座ってますよ」
案外、近くに居たのか。
「えっと、いろいろとありがとうございました!」
僕は、登録を一通り終わらせ、お姉さんにお礼を言い、その人のもとに向かった。
さて、願いと言うのは簡単に打ち破られるもので、そこに居たのはロリであった。
いや、ロリではない。ただ、一点、この一点だけを見た時、それは、何というか平たかった。
そこに曲線は一切無く、完全にX=1のグラフである。
つまり、貧乳だ、そして希少価値、否。稀少価値と言うべきだろう。
ちなみに、胸部を除けば16歳くらいの可愛い女の子だ。
「あの、人の胸をまじまじと見て、何を思ったっか知りませんが、やめてもらえますか?」
「み、見てないよ!!」
そうだ、僕が見たのは胸ではない、あんな平面なものを胸?笑わせるな!!
「そうですか」
「でさ、日本人だよね?」
「はい!?...はい」
推測だが、最初の『はい!?』はビックッリした、というリアクションの『はい』、次の『はい』は日本人です。という意味の『はい』だろう。
と、二連続の『はい』について語ったところで。
「僕も日本から来たんだ」
「神様に飛ばされて、ですか?」
「うん。...そ、そうだ!ガチャ引いた?」
ガチャとは、神様から授かったスキルのこと。
ちなみに、僕は【下級魔法詠唱不要】とかいう意味不明なスキルを授かった。
「はい、よくわかりませんが【呪文変換】?だったっと思います」
何それカッコいい!
「あなたはどうでしたか?」
「ぼ、僕は【詠唱不要】だったよ」
下級魔法と付けてないが噓もついてない!
まあ、そんなことは置いておいて。
「それより、僕達、日本人じゃん」
「そうですね」
「僕、人見知りじゃん」
「そう、なんですか?」
「異世界で分からないことも多いじゃん」
「そうですね」
「30オームの抵抗に30ボルトの電圧を加えたとき、流れる電流の大きさは1アンペアじゃん!!」
「はい!?」
「仲間がいたら心強いじゃん」
「そうですね」
「僕ってハーレムエンド狙いじゃん」
「...そう、なんですか」
「それでさ、提案なんだけど。もし良かったら、パ、パーティー組まない?」
なぜか、女の子に告白してるような、気恥ずかしい気持ちになってしまった。
...しかし、僕はこれまで『女の子に告白する』という機会が無かったのだ。
つまり、そんな気持ち、知ったことじゃない!
しかし、作者は知っている!!
そんな僕の思考をさえぎり。
「所々、意味がわかりませんが、良いですよ!」
僕が、脳内で『作者』とか『作者』とか、メタい事を言っている間に結論を出したらしい。
「それでは、私は、奏。音無奏です。よろしくお願いします!」
「僕は、神楽祐!こちらこそ、よろしく」
こうして、僕は異世界最初、及び。僕の人生で数少ない、仲間というものを作ることができた。
そして、これだけは覚えておいてほしい。
その仲間の胸部には、曲線が一切、無い!!