情報の末期
『☆彡仰ぐ伝道師 @fisherman 1時間前
Re:里暮立動物園からライオンが逃げ出
だしたみたいです!近隣住民は外に出な
いようにしてやり過ごしましょう!
#拡散希望 #緊急 #避難指示
Re by @oredayo50
*コメ ⇔9,485 ☆8,227』
くだらないTwinterコメがインターネット上を跋扈している。
何故このようなコメにReと☆が一万件近くも付いているのか、本当に理解に苦しむ。
このコメには、わかる人には簡単に判断がついてしまうようなワードが隠されているけど、それを置いておいたとしても。まず、このコメの信憑性を確かめてからReや☆をするべきなんだ。
その信憑性を確かめる方法にしても至極簡単で、他の複数のメディアを参照するだけでいい。…余談だけど、メディアといえば最近は、センテンスサマーさんが頑張り過ぎていて怖いぐらいの勢いがある。一昔前ならサタデーがゴシップ雑誌としては有名だったけど、まぁ今はそんなのどうでもいいか。
閑話休題…情報の出所以前に、里暮立動物園という聞きなれない動物園をネットで検索すれば真偽など語るまでもなくなる。なのに何故こうも踊らされる人が多いのだろうか。勿論、中には悪乗りして拡散している者もいるのだろうけれども……。その悪乗りしてる一人は、お前だよ!oredayo50!!
このデマには画像がないけれど、中には画像を加工してまでもデマをネットに流している質の悪い輩も存在している。本当に何も考えていない奴ばかりだ。
ネットにはこの様に真偽不明の情報が数限りなく存在している。その一つ一つに一人一人の思惑が付随しており、何かしらの意図が内包されているとすれば。最早一人の人間だけでは太刀打ちできない規模にまで膨れ上がってしまった。だからこそ、信憑性を確かめる事も、より困難になって行くのだろう。
情報と人が密接、且つ多様な関係性を構築した現在。なる程、情報の真偽を確かめるには其々の情報を他の情報と比較させながら、相対的に判断することが求められる。延いては人と人との関係においても自分と他者とを比較する事が当たり前となった。果たしてそれは幸せな事なのだろうか。いつも他人との違いを認識せざる負えない情況に自分を追い込んではいまいか。そんな僕にしても、いつも何かと比べてしまっている。
他方、人の持つ記憶もまた情報の一種である事は明白だ。
もしかしたらネットにある情報もまた、人の持つ記憶と同義なのではないだろうか。
一人の人間の個性を形作る要素は正に記憶と呼ばれる情報であって、その人が生きてきた軌跡が膨大な量の記憶という情報となり、その情報を介して他者の中で朧げに一人の人間として像を結ぶ。
翻って、ネットの情報とはどういったものになるのだろうか。果たして、今のネットには個性というものが存在しているのだろうか。様々なAI…検索エンジンやインターフェース補助ツール。これらが誕生した事によって、飛躍的にネットの存在感は増し、人間にとって身近な隣人となった。
隣人といってもネットという一個の隣人を世界中にいる人間が隣人として共有している。勿論、ネットとの付き合い方は人それぞれによって多様化していることだろう。しかし、ネットという客体は同じなのだから、どれ程付き合い方が複雑になろうとも同一の隣人を共有している事実には変わりがない。
そうだとすればネットは、扱う人間達の集合記憶としての個性を勝ち得たというべきなのかもしれない。しかしながら、仮にネットが個性を勝ち得たとしても、決して生命足りえない。何故なら、生命の根源である“生から死”に向かうプロセスが存在しないからだ。
いや、個性云々はこの際どうでもいい。ビッグデータとしての情報…全世界のネットユーザーの記憶と呼ぶべき情報は、今後一体どのような歴史を紡ぐのか。
人とは違いネットの情報は外部からの干渉がなければ消えない。しかし広大なネットの海においては、たとえ一個の情報を消去したとしても複製・類似した情報が溢れかえってくる。
では人間にとっての情報…記憶とは、一体何なのだろうか?
記憶は忘れ去られる。嬉しかった事悲しかった事楽しかった事憤った事。全ての記憶は、時と共に分け隔てなく忘却の彼方へ去っていくものだ。時が経てば経つ程、切り捨てられるべき情報は多くなっていく。だけど、時が経つのを待たずして情報を欠落させる場合もある。
ともすれば記憶の忘却というものは、敢えて情報を切り捨てる事によって、他者と自分とを比較する事のない絶対的な価値基準を獲得せんが為の、自己防衛機能なのかもしれない。膨大な情報が溢れるネットという隣人の出現によって、記憶を切り捨てる速度が加速しているのかもしれない。それが幸か不幸かは人に依るのかもしれないけれど。
僕にとっては……いや、周りにいる人間にとってそれは、不幸だ。……そう、不幸でしかない。
だから僕は期待する。個人だけでは追いつけなくなってしまった、情報に溢れかえったネットがどのように進化していくのかを。
だから僕は忘れない。僕の過ち…大罪の記憶を。




