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別世界

 あれから五年。

 今日までぼくは、この場に立つことがどうしてもできませんでした。


 昔、と言っても五年前。ぼくの家のあった場所です。


 なんで、ぼくだけが生き残ったのだろう?

 経験したこともないような地震と津波。

 あの日、家族はみんな……いなくなってしまった。優しかった父。口うるさいけれどぼくの好きなおかずをいつもお弁当に入れてくれた母。まだ生まれたばかりだった妹。

 大きな波にのまれ、別な世界へ行ってしまった。

 たった一人、ぼくだけをおいて。


 ぼくは震災の後、探しに来てくれたおじいちゃんとおばあちゃんの家に、今は住んでいます。おじいちゃんとおばあちゃんはぼくを探して、遠い長野県からやってきてくれたのです。避難所にやって来たおじいちゃんは、息が出来なくなるのではないかというくらい、ぼくを抱きしめてくれました。お父さんとお母さん、そして妹の茜はいくら探しても見つけることが出来ませんでした。

  震災からしばらくたったころ、おじいちゃんとおばあちゃんはぼくに「お父さんとお母さんが見つかったよ」と言いました。妹だけはついに見つかりませんでしたが、おじいちゃんは「きっと、お父さんとお母さんとあの世で幸せにしているよ」と言いました。

 ぼくはみんなに会いたいと思いました。

  でも、おばあちゃんが泣いて「みんなのところへ行ったら、もうこっちの世界には帰ってこれないんだよ。そうしたら、おばあちゃんはとっても悲しいよ」と言いました。

  ぼくは、おじいちゃんとおばあちゃんが大好きです。だから、あの世というところへは行かないでおこうと思います。


 ぼくは、あの世というのがよくわからないので、どんなところなのだろうと想像します。


 例えばどこかに、この地球とは違う別の地球があるのかもしれないと。

 ちょっと前にSF小説で読んだパラレルワールドというやつです。

 その世界では、現実の世界で生き延びるものが死んで、死んでしまうものが長生きするのです。

 その世界ではぼくは死んで、いなくなってしまった友達や家族は、みんな楽しく生きて暮らしているのです。


 そう考えたら、ぼくはちょっとだけほっとして、そしてやっぱりまた寂しくなりました。


 五年ぶりに訪れたその場所は、懐かしいはずなのに、どこか別の人のようです。

 ぼくの住んでいた家のあった場所に花束をおきました。

 別の世界にも、この花束は届くでしょうか?

 お父さん、お母さん、そして友人たちは、この花束を見て、ぼくを思い出してくれるでしょうか?



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