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春のおしゃべり

「トラックの運転手がさー、福島に入りたくないとか言ったらしいよね」

「あー、ま、気持ちはわかるけどね」

「真偽のほどはわからないけど、あり得るね」

「うちら住んでんだけどね……」



「ママー、のど渇いたー」

「あー、はいはい」


「あれ思いださない?」

「あれ?」

「ほら昔あった。風の谷の何とかってアニメ。この辺一帯腐海? になっちゃうんじゃないかな? とか思わない?」

「いや、腐海になるのは原発で、この辺は風の谷になる」

「ああ、それいいわ」

「そのうち福島から出るのに検問とか出来てさ、自由に外にいけなくなったりして」

「やーめーてー! 怖いからぁ」

「なんか、北海道とかに逃げる人もいるんだよね。知り合いのお孫さんは子どもだけ関東の親戚の家にやったらしいよ」

「それって、子どものためにどうなの?」

「チック症になったとか……」

「なるだろー」

「ねえ、麻里はもともと関東にいたんでしょ? 戻ろうとか思わないの?」

「私? もう福島に来てから長いもん。高校から大学、就職、で、こっちで結婚でしょ? 被爆とか考えれば避難しらた方がいいんだろうけど、旦那だけおいて逃げても、多分私の心が折れると思う。だったら、本当に危なそうなときには家族そろって避難する」 

「そっかぁ」

「ラブラブ―」

「嫌だけどさ、本当に危なそうって、どうやってわかるのかが問題だよね?」

「そん時は逃げろって政府が言うんじゃないの?」

「あんた、まだそんなこと信じてんの!?」


「マーマー」

「なあにー?」

「のど渇いた」


「あ、これお土産―」

「うわ、パンだ! どこで売ってたの?」

「なんか、近くの病院の売店覗いてみたらあったのよ。あんまり皆行かないんじゃない?」


「ほらみんな、パン食べる?」

「たべるー」

「はい、あっちのテーブルで食べるんだよ」

「はーい」「はーい」「はーい」


「でさ、震災の時、私のいとこ浜通り(福島県沿岸部)に行ってたんだって」

「うわ、大丈夫だったの?」

「それがね、彼女、自転車が趣味で、車に自転車のっけてサイクリングに行ったらしいの。ちょうど自転車に乗ってるときで、自分は大丈夫だったらしいんだけどね、車が流されちゃったんだって」

「こわー、助かってよかったねえ」

「で? 車流されたって、どうやって帰ってきたの?」

「自転車で帰ってきた……」

「……すげー……」

「うん、さすがに大変だったみたい!」


「でもさ、学校ちゃんと始まるのかなあ」

「うちの子今年卒園だったんだけど、卒園式もまだなの」

「うちの子の通ってる小学校は体育館壊れちゃったからさ、どこで卒業式と入学式やるんかな?」

「てか、卒業式、出来るのかね?」

「えー、やるんじゃない?」

「……わたしさあ、最初の頃テレビも見れないからさあ、よく原発のこととかわからなくって。大変なことになったら逃げろって市役所とかから言われるんだろうと思ってたから、子どもとけっこう外で遊んでたんだよね」

「ああ、家の中ばっかりだと、子どもも飽きるしねえ」

「ドングリ拾ったりさあ、雪なんかも降ったりしてたし」

「わたしも、スーパーに子どもと一緒に並んでるとき雪降ってたよ」

「……」

「まあ、いつでも遊びに来てよ。子どもたちも一人でいるよりよりお友達がいれば楽しいし」

「うちの中でって何してる?」

「まあ、お絵かきとか……ビデオとか……」

「あ、この間紙飛行機作って遊んだら結構喜んだよ」


「かみひこうき!」

「ママ! かみひこうき!」

「あ、きこえちゃったか?」

「んー、じゃあ一緒に作る?」

「つくりたーい」


「よしよし、しばらくやつらは紙飛行機で遊んでるな!」

「ガソリン、この間ならんでさあ。大変じゃなかった?」

「うちは満タンだったから困らなかったな」

「うちはめちゃくちゃ並んだよ」

「ガソリンは、いざという時のためにあまり使いたくないねえ」

「ウチ、車にいつでも避難できるような用意はしてある」

「私なんて、親戚みんなこの辺だから行くとこないよ」

「そんなもん、とりあえずどっかのホテルにでも入ればいいじゃない? 多少お金出たってしょうがないよ」

「でもさあ、原発ってもっと頑丈なのかと思った」

「そうだねえ」

「たとえばさ、戦争になっても、原発だけはしっかり残るくらいなのかと……」

「ほんと、人間の技術力? なに、科学力? って、そんなもんなのねー」

「だねだね」

「可哀そうなのは飯舘村よお」

「ああ、全村避難。しかも原発から結構離れてるのにねえ」

「はぁぁぁ」

「仕事は? いつから?」

「ピアノの仕事なんて、今はじめたって生徒誰も来ないよ。伴奏の仕事なんて、もっとないしさ、しばらくは休み」

「ねえ、真由美ちゃん元気かな?」

「あいつは県庁勤務だから、逆に寝る間もないだろうねえ……」

「落ち着いたら、また皆でランチしたいねえ」

「今度真由美ちゃんに連絡してみるかぁ」

「もう少ししてからね。今は大変だろうから」

「なんか、そんな時が来るのかなあ?」

「来るって!」


「ママー。ジュースこぼしたあ」

「あー、もう、ほらぁ」


 

 四月六日 〇〇幼稚園 幼稚園お遊戯室にて卒園式

 同じく四月六日 〇〇小学校 幼稚園お遊戯室にて小学校入学式

 同じく四月六日 〇〇小学校 幼稚園お遊戯室にて小学校卒業証書授与式


 止まっていた子どもたちの時間が、元気に動き出した日。




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