ソレハワルイユメダッタ
プロローグ
夢を見た。
真っ白な空間にいた。何も聞こえない、感じない。
でも何故かはっきりと覚えている。
そこにいたのは、自分と、黒い色をした<それ>だった。
第1夜
僕は15歳の高校1年生。変な夢を見始めたのは、高校に入学して、初めて<大切なもの>というのができた頃からだった。
僕は高校生になるまで友達がいなかった。親の都合で引っ越しを繰り返し、友達ができる前に転校してしまうからだ。親は2年前に離婚し、今は母親と暮らしている。母親は病み気味で、僕の顔を見るたびに僕を叩いた。理由は分からない。言えることは、僕は母親が嫌いだということだ。僕にとっては、親さえも<大切なもの>では無かった。
そんな僕の最初の<大切なもの>は、友達だった。同じクラスの星 智也が、その始まりだった。彼は美形で、他人からの信頼も厚かった。
「君、面白いね。」
から会話が始まり、何が面白かったのか分からなかったが、次の日にはもう親友になっていた。そこから人脈が広がっていき、僕は初めて<大切なもの>というのが何か分かった気がした。
第2夜
夢を見た。
真っ白な空間ではなく、教室の中にいた。
教室という空間も自分の意識もはっきりとしている。
そこには黒い<それ>と、智也の姿があった。
智也は自分に優しい笑顔を向けて立っていた。
そして何故か<それ>は、ゆっくりと<大切なもの>の方へ歩み寄って行った。
自分は
「何をする気だ!」
と叫んだが、不思議と声が出ない。
どうやらこの世界には音が存在しないらしい。
自分が叫んでいる間にも、<それ>は<大切なもの>の、すぐ隣まで来ていた。
そして、黒い<それ>は、口を大きく開け、こっちに笑いかけている<大切なもの>を、頭からゆっくりと飲み込み始めた。
自分は、夢の中で絶望を叫び続けていた。
目が覚めた。はっきりと覚えている。最悪の寝起きだった。何気なく時計に目を移すと、時計は午前8時半を指していた。
「やっちまった。」
と呟きながらゆっくりと身体を起こし、ベッドからおりた。しばらくぼーっとした後、急に智也が心配になり、急いで着替えて、学校に向かった。
学校はその時休み時間で、智也は何事もなくお喋りをしていた。
「智也···。」
僕は息を切らしながら教室に入り智也に話しかけた。
「お、やっと来たか。心配したんだぞ。」
と、智也は元気に返した。
そのあと少し話し合った頃にチャイムが鳴り、普通に授業が始まった。
放課後、
「おい大丈夫か、顔色悪いぞ?」
と、智也が話しかけてきた。
「うん、ちょっとね···。」
僕は適当に返した。あの夢の事はどうしても言えなかった。
「···そうか。」
智也はそれだけ言って先に帰った。
僕も帰ろうとした時、何かが背中にぶつかった。
「きゃっ!」
それと同時に女子の声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、そこには見たことがない女子が立っていた。
「ごめんなさい!急いでて···。」
その女子がペコペコと頭を下げていた。
「いや、大丈夫だけど···」
と言いかけて、彼女の顔を見たとき、僕の中で今までに無い感情が芽生えた。
肩ぐらいまで伸ばしてある艶のある髪、雪のように白く柔らかそうな肌、スカートからのびた細いすらっとした脚、そして、ぱっちりとした目に、ピンク色に湿った唇。
僕はこの時初めて一目惚れをした。<恋>という感情が僕の中で生まれた。
僕はしばらく彼女の顔を見入ってしまった。
彼女が
「···?どうしたの?」
と言ったとき、僕は我に返って、急に恥ずかしくなり、その場を走りさってしまった。
家に帰った後もずっと彼女の事が頭から離れず、夜まで彼女の事を考えていた。しかし、僕はこの時、まだ恋をした事に気付いていなかった。そしていつの間にか、僕は深い眠りについていた。
第3夜
ここ1週間ずっと同じ夢を見ている。智也が喰われる夢だ。
1週間で僕はだいぶ変わった。目の下には隈ができ、体重も5キロぐらい痩せた。毎日大切なものを失う瞬間を見てきたため、ストレスや疲労感が溜まりに溜まっていた。昨日から学校も行っていない。
そんな時、家に誰かが訪ねてきた。僕は、玄関の扉をゆっくり開けた。そして、そこには、この前の彼女がいた。
「ずっと学校来てないから・・・心配になって来ちゃった。」
どうやって家を特定したかは知らないが、おそらく、智也から聞いたんだろう。しかし、僕の心はそれどころでは無かった。身体が震えた。熱くなった。そして、僕は初めて恋だと気づく。また、かけがえのないものができた。
ここから先は言うまでもないだろう…
エピローグ
僕は部屋にいる。
天井からは一本のロープが垂れ下がっている。
ロープの先に、痩せこけた人の形をしたものがある。
僕は夢に負けた。
夢を見続けることは、僕を崩壊へと導いた。
夢の最後に黒い<それ>の正体を見た。
それはまさに<自分>だった。
自分が<大切なもの>を喰っていた。
自分は、大切に思っているのと同時に、嫉妬をしていたのかもしれない。
友達がいることに、普通に生きることに、その夢に。
その嫉妬心が夢の僕を作り出したのかもしれない。
本当にそうかは分からないが、僕がもう夢を見ることは一生無かった。
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