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短編

秋の夜

作者: 池田瑛

秋刀魚が美味しい。

料亭からの帰り道、

そっとススキを1本千切って、

子供のように振り回し、

家へと帰った。


押し入れの中から

秋物の服を取り出したら、

防虫剤の匂いにげんなりとさせられた。


無臭のを買ったはずなのに、

仕舞った洋服から春の匂いが溢れでてくるようで、

私はすぐさまそれをビニール袋に詰め込んで、

玄関に置く。

明日、クリーニングに出そう。


春が好きだ。

いや、好きだった。

春は、出会いより別れが多いと

分かったあの日から、

春が嫌いになった。


春風に浮かれた男の発情期は、

夏の暑さに減退し、

秋には跡形も無い。


冬の厳しさを忘れない女は、

陽向の暖かさのような男の温もりを、

恋だと勘違いし、

夏の暑さで、それが幻覚だったと

気付かされる。


洋服簞笥からあふれ出てきた防虫剤の匂いが、

夏の日、蚊に刺された後に、

一生懸命振りまいた虫除けスプレーのようで、

なんとも情けない。


肌寒くなった。

肌寒くなった。


清少納言は書いた。

秋は夕暮ゆうぐれ

夕日のさして山端やまぎわいと近くなりたるに、

からす寝所ねどころへ行くとて、

三つ四つ二つなど、飛び行くさへあはれなり。

ましてかりなどのつらねたるが、

いと小さく見ゆる、いとをかし。


どこが、をかし、か。

烏が遠ざかっていくこと。

雁が遠ざかっていくこと。

それは、寂しい。

遠く、小さくなっていくのを眺めるのは、

寂しい。


春の温もりと共にあらわれ、

夏の暑さと共に消え去った存在が、

秋の肌寒さによって、

どこか懐かしいように思わされる。


肌寒くなった。

肌寒くなった。





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