三十一輪目 訪問
「あおいー」
「どうしたの?京香ちゃん」
「見せたいものがあるんだけど、今日この後って……」
「うん。特に用事はないよ?」
「じゃあ、これからウチに行こう」
目的は不明確であったが、葵は素直に従った。前回は葵の家に京香が来たので、次は京香の家にお邪魔したいという気持ちもあった。
「なんか雲行きも怪しいし」
「そうだね。雨降るかな?」
「夏はよく雨降るからねー」
雷雲ではないものの、鈍色に染まった空からは、不穏な雰囲気が漂っていた。
※※※
「お邪魔しまーす」
葵の家から1km離れてるから離れてないかの距離に、それは佇んでいた。決して豪華とは言えないが、プランターには様々な花や草木が生えている。ドアをくぐると、無機質ながらもどこか温かみを感じれた。インテリア等はなく、壁、ドア、床だけ、とシンプルな作りになっていた。
「玄関にある花とかはほとんど古都葉がくれたんだよ」
と京香が話すのと同時に、向かいの(おそらくリビングに繋がる)ドアが空き、1人の女性が出てきた。
「あらー、こんにちは。京香が古都葉ちゃん以外を連れてくるなんて珍しいわねー。しかも男の子なんて」
学校帰りの、制服のままだったので、男の子と認識されたようだった。
「は、はじめまして!ぼ、僕は葵っていいます!あ、あの、京香さんとはお付き合いされて頂いて貰っててて、そして」
「え!あら!?そうなの!じゃあお母さん邪魔しちゃ悪いわね」
頭を下げてる葵に反して、京香はにんまりしてる母をリビングに追いやっていた。
「別に付き合ってるまで言わなくて良かったのに」
「ごめん。なんか緊張しちゃって……」
今は京香ちゃんと部屋に来た。どうやら話によると、京香ちゃんは今まで付き合った人は、一回も家に呼んだことがない。その事に少し喜べたが、しかし女の子としての一番乗りは古都葉の為、少し嫉妬しているのが、葵自身にも分かった。




