十八輪目 不意
本日休業。その水族館入口にある四文字が葵に刺さる。
「ごめん。本当にごめん!」
「いや、いいって……」
少し残念そうな顔を見せると、葵は愈々土下座までしそうな勢いで謝ってきた。
話は遡ること数日前______
「ねぇ、デートしない?」
そう持ちかけたのは京香であった。付き合い始めた2人は、恋人らしいことをせず一週間を過ごした。その事に苛立ちを感じ、自らデートに誘った。
しかし、葵にプランを練ってもらうことにした。それなら京香ばかりがリードしている状況にならないだろうと判断したからだ。
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しかしこの有様である。休業日を調べなかったせいで、お盆休みにぶち当たってしまった。まぁ、そこが可愛く思えるのは、そこに愛があるからなのか。
「ねぇ、じゃあ葵。私の家にこない?一緒にビデオ見ようよ」
その提案に、葵の顔は大きく上下に揺れた。
※※※
「おじゃましまーす」
恐る恐る、足を踏み入れる。女子の部屋なんて、生まれてこの方入った経験のない葵は、そこが神聖に感じた。自分の部屋である京香は心無罣礙だが。
葵は緊張しながらも、京香の言うとおりに床に座った。京香は自身のベットに腰掛けた。
ビデオが再生される。安っぽいホラーだった。葵がガタガタ震えている。京香にとっては、それすら愛おしかった。何故か込み上げる淫らな感情に負け、淫靡に背中から抱きついた。そしてビクッと驚いた葵は即座に振り向き、京香と目が合う。その弱々しい表情に、京香はキスをした。