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十輪目 帰路
「いやー、男手が増えて私は嬉しいよぉ」
横三列で並ぶ中の、真ん中にいる古都葉が飛び跳ねる。両脇の者たちは、それを宥めている。
「あ、そういえば僕、活動日時も顧問も、ましてや、部員も翔以外覚えてない……」
「大丈夫でしょ。私も古都葉しか知らないし」
「それは問題だよ京香ちゃん!この機会に友達増やそうね?」
「転校生の僕と、いや、それより下のレベルになっちゃうよ?」
葵の煽りに、京香は多少ながら不安を覚えつつ、反論した。
「うるさいわね!あんたたち!私の好きでいいでしょ!?」
今度は右脇の者が荒れ狂い、それを残り2人が宥めた。三人は、バラバラの道に別れるまではしゃいでいた。
そしてその日以降、三人は用事さえなければ三人で共に帰っていった。
※※※
家に着いた葵は、ベッドに倒れこむ。新しい日常にまだ慣れていないのだろう、と言い聞かせる。枕で埋まった顔を横に向け、部屋を見渡す。そこに一つの異質がある。机にばら撒かれた数本の百合の花である。
「ぼく、頑張るから……」
そう呟くと、顔をまた下に埋もらせた。