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Crescent Ark Online  作者: 霧島栞
第一章[Crescent Ark Online]
6/50

五話[かつての仲間と約束と]


 ――死に戻りの感覚というのは、不思議な感覚だった。


 深い闇の中でまどろんでいるかのように意識は水面をたゆたい、どちらに向かっているのかもわからないままにゆっくりと、ゆっくりと意識は光に引かれるように浮上して、それに伴い闇が徐々に払われてゆく。


 酷い倦怠感が身体を襲う中、悠姫は円形広場の噴水前に立ち尽くしていた。


 周りには多くプレイヤーが行きかい、そこかしこに臨時パーティ募集の看板が立っている。


 ……あぁ、セーブポイントってここなんだ。


 がやがやとあちらこちらで交わされる会話をBGMに、悠姫はのろのろとした動作でログを確認する。この世界に来た時にも確かに聞いた気がした彼女の声。


 ……気のせいじゃ、ないよね。


 ログには彼女の声は残っていない。


 初めて聞く声だというのに、誰のものでもない彼女の声だと気が付くことが出来るくらい悠姫はその女性のことを知っていた。


 ――だというのに。


 一年という長い時間の中で徐々に希薄になってしまっていた約束。


[ルカルディア]にやって来られて嬉しくなってしまい、忘れてしまっていた。


 ――悠姫様はちょっとうまく行くと、すぐ油断されるのですから。


 その言葉を悠姫が初めて聞いたのは、レベルが100になると出来る転生クエストの際に、彼女と言葉を交わした時だ。


 転生という多くのプレイヤーが通過してゆくクエストにもかかわらず、その進行を務めるのは[第一の聖櫃]と同じ名を冠する神の一人で、彼女はまるで普通の人とそっくりな思考を持つ特殊なNPCだった。


 転生クエストをクリアしたプレイヤーは、最後に彼女とそれまでの冒険であった過去の記録を懐かしむよう言葉を交わすことになる。一人あたりが会話する時間は一分ほどと短いものだが、悠姫はその時に先程聞いた幻聴と同じ言葉を聞いたのを確かに覚えていた。


 昔の、まだCAOがVR化前の話だ。


 ……今もまだ、彼女は約束を覚えているのだろうか?


 必ず戻ってくると交わした音の無い言葉。その時の約束。


 ……今も彼女は一人で、空の上でずっと待ち続けているのだろうか。


 悲しみも痛みも全てが追いつかない遙か彼方の空の上で――


『ゆうちゃん!』


 追憶に想いを馳せていると、唐突に耳を貫くようなひよりの声が聞こえて悠姫はびくりと身体を竦めて周りを見回すが、そこには誰の姿も見当たらない。


 ……あ、パーティチャットか。


 すぐに別の可能性に思い至った悠姫は、ログのタブをタッチしてパーティチャットを表示して、そこにひよりの言葉があるのを見つける。


『えっと、ひよりん?』


 パーティを組んで狩りに行っている時からずっとパーティチャットはしていたが、特にオープンチャットで会話するのとか変わらない感覚で喋っていたので、こうしてマップを挟んでも話が出来るというのは少し不思議な気分だった。


『あ、は、はい! 良かった、無事だったんですね』


 まるで事故にでもあったかのような反応に、悠姫は思わずくすりと笑ってしまう。いや実際事故ったといえば事故った感じではあるのだが。


『あはは、死に戻りしただけだから無事に決まってるじゃない』


『あぅ……そ、そうですよね』


 CAOでは死んだところで現在の経験値の5%を失いレベル分の分数間ステータスが低下するペナルティが課せられてセーブポイントに戻されるだけで本当に死ぬことなどない。


 ひよりも何度か死に戻りを経験しているのだからわかっていたのだろうが、けれども確かに死ぬ間際の光景を思いだすと気持ちもわからないでもなかった。


 モンスターに噛み殺されることや砂の槍に串刺しにされる経験などVRMMOでもなければ体験できないだろう。望んで体験したいかというと断じてNOであるが。


『と、とりあえずすぐそっちに向かうから待っててください!』


 少しだけ恥ずかしそうに言って、ひよりの声が途切れる。


 デスペナによる倦怠感で身体がかなりだるいのでありがたいかな、と思いながら悠姫は後ろの噴水の縁に腰をかけて空を見上げる。


 遥か昔。まだ[ルカルディア]の空に[十二の方舟]が浮かんでいた過去の風景よりも、さらに遠くに浮かぶ[第一の聖櫃]。


 その姿が、今は少しだけ寂しそうに見えた。


 それは[第一の聖櫃]を見る悠姫の感情がそう見せるのか、それとも本当に彼女が孤独に震えているのかわからない。けれども悠姫は空を見上げたまま、もう一度決意する。


「絶対に……会いに行くから」


 クラリシア=フィルネオス。フィーネ。


 再び彼女に出会うために聖櫃を目指すことを決意して、悠姫は立ち上がる。


「……まあそのためにはレベルを上げないとだけどねー」


 しかしどちらにせよやることは同じだった。


[第一の聖櫃]へと向かう為には、難易度の高いクエストをクリアしなければならない。


 それには[守護者]の討伐もあるので、VR化前だと転生前ともなれば一人でクリアすることはほとんど不可能と言っても良いほどの難易度だったのだ。


「さてと、とりあえずひよりんと合流しないとね」


 立ち止まるのは主義じゃない。悠姫は決意も新たに道具屋でいくつかの消耗品を買い込んでひよりが戻ってくるだろう南門へと向かう。


「あ! ゆうちゃーん!」


 南門から出てすぐに、そこには全力で駆け寄ってくるひよりの姿があって、ひよりが心から心配してくれていたであろうことがわかり、思わず微笑んでしまう。


「おいでー、ひよりーん」


「えぅ!?」


 そして悪ノリした。


 両手を広げた悠姫が迎える体勢で呼ぶと、ひよりは走る勢いを落として立ち止まり、終いには顔を真っ赤に染めてうつむいてしまった。


「あはは、ひよりんはかわいいなぁ」


「うぅ……ゆうちゃん酷いです……」


「ひよりんの反応がかわいくてつい、ね」


「えー……」


 驚きながら小動物っぽく頬を膨らますが、その姿も妙にかわいらしく、もう少しからかって反応を見たくなる気持ちを悠姫は何とか押さえつけながら話題を変える。


「そういえばひよりんレベルあがってたよね? いくつになったの?」


「えっと、6です」


「……レベル抜かれてる。サンドコアの経験値っていくつだったの?」


 1から6まで一気にあがるとは、予想はしていたがやはりセインフォートの周辺の敵とは経験値が段違いだった。


「ちょっと待ってくださいね……えっと」


 何もない空間を操作するひよりの姿は、シアや悠姫のように前のシステムウィンドウを知っている故の迷いの無さではないが、似たようなインターフェースのあるオンラインゲームのアニメを見たりしている分、あまり迷いが無いようだった。


「2646です」


「経験値は変わってないんだね」


 VR化前と変わらない[サンドコア]の経験値に悠姫は言う。ペアのパーティ経験値分配は90%となるが、悠姫が死んだことで100%の経験値がひよりに入ったのだろう。


「でも、凄く強かったです……後ろから見てて、ゆうちゃん良くかわせるなぁ、と思いました……」


 しょんぼりと言うひよりだが、INTに少しとはいえ差があるので知覚速度だけならば悠姫よりも高いはずだ。


 もっとも見ているところが悠姫とは違うので、その分だけ余計に凄く見えたのだろう。


「うーん、でもサンドコアはどちらかというとSTRとVITが高いモンスターだったし、わたしもレベルあがった分はAGIに振ってるからね。それにサンドコアの攻撃には明確な指向性があったから何とかなった感じかな」


「指向……です?」


「うん。サンドコアの攻撃は、ターゲットした相手のちょうど中心部……おへそくらいかな? を通過するように射出されるんだけど、これがある一定のタイミングで位置情報が確定されるから、その後に身体をずらすだけで当たらなくなるんだよね」


 細かく検証して失敗すると死ねるので、保険も兼ねて控えめなラインで見切っていたが、ちょうど砂の槍が構成されてその切っ先が自分の方向を向いた瞬間がそれだと思っている。


「そ、そうなんです……か?」


 そう言われたところで廃人ではないひよりにはいまいちわからなかったようで、尋ね返しながら首をかしげていた。


 CAOでは当初NPCやモンスターにも独自のAIを組み込み、よりリアルなバーチャル世界を再現することを目標としていたが、けれども開発時に人工知能に対する規制が問題となり、新たなAI三原則という酷く局所的な制約が交わされた為、NPCのほとんどが劣化ニューラルネットワークやファジィシステムよるパターン認識でマクロを選択し、最適だと思われる回答を行うという比較的簡単なCIしか組み込まれていないとされていた。


 それはモンスターも同じで、むしろ多くのモンスターは言語によるコミュニケーションが無い為、より簡単なAIによって動かされている。


「ややこしくしてもバグだらけになっちゃうでしょうし、一昔前にあったアニメみたくAIが世界を乗っ取って征服しようとするとか洒落にならないしね」


「あ、ルージュ・オンラインのことですね?」


 知っているアニメだったのか、ひよりが目を輝かせて身を乗り出してきた。


 ルージュ・オンラインは[真紅]の世界を題材にしたオンラインゲームのアニメだった。


 誰がプレイヤーかすらもわからないくらい精巧に創られた世界で、主人公が一人の冒険者の少女と出会い、共に冒険をしていく度に惹かれ合いやがては恋が芽生えるが、実はその少女はAIで……という王道をゆくファンタジーアニメだった。


「あれはもうオンラインゲームというより、一つの異世界って感じだったけどね」


「ですね。でもわたしとしては、ヒロインの少女とか憧れちゃいますっ」


 きゃあきゃあとこれまでに無いテンションではしゃぎながらルージュ・オンラインの良いところを語るひよりを見て、この子ほんとアニメ好きなんだなーと悠姫は和みながらその様子を見守る。


 LOEの発表では、一部のNPCやモンスターには特許を得た独自のAIが組み込まれているとされているが、それがどのNPCやモンスターなのかは公表されていない。悠姫はクラリシア=フィルネオスもそうではないかと思うが、実際会って見ないことにはわからない。


「それでですね、13話で主人公が言った『例えこの世界が偽物だったとしても、僕は――』っていう台詞がですね、後の伏線となっていて――」


「ひ、ひよりん落ち着いて、ブレイクブレイク」


 いつの間にか詰め寄ってきて目の前で熱く拳を握って語るひよりの熱意に押されて、悠姫はひよりの肩を押しながらなだめる。


「あ、ご、ごめんなさい、つい……」


 言われて我に返って恥ずかしくなったのか顔を赤くするひよりに、悠姫は軌道修正を図る。


「でもサンドコアの崖撃ちは無理だったけど、意外といけそうだよねコア狩り」


「え?」


「え?」


 ……向かい合って疑問符を投げ合い、間。


「ゆ、ゆうちゃん? あれって当たったら即死じゃないですか?」


 話の転換に思考が追いついていなかったのだろうかと思ったのだがどうやら違ったようだ。


「あー……ひよりん」


 そして悠姫の廃人講義がまた始まる。


「いい? モンスター1匹で2646の経験値だよ? 確かにギリギリかもしれないけど、レベルが上がればすぐ楽になるし、1匹狩れたなら次も狩れるから余裕だよ、よゆう」


 安全な狩場、なにそれおいしいの? おいしくないよね? という廃人過ぎる思考だった。


 確かにぎりぎりだったとはいえ、狩ることができたのは事実だ。ひよりのレベルも一気に5つ上がり悠姫よりも一つ高くなっている。レベルがあがればステータスが振れる。ステータスが振れれば火力も上がるのだから倒す速度も上がる。大体のオンラインゲームというものは中盤くらいまでは割と短時間のレベル上げでレベルが上がるものだ。


 普通に進めて行ったとしても、恐らく一週間後くらいにはレベル50~70帯の人数が増えて、臨時やパーティが今よりももっと賑わうことだろう。


「そ……そうなん……です?」


 が、それはあくまで一週間後ならばの話で。


 悠姫が勧めているのは数時間で一気にあげてしまおうというパワーレベリングだ。


 けれどもそんな尺度など知らないひよりは、それが一般的なレベルの上げ方なのだと思い、疑問に思いながらも納得してしまう。


「そうそう。1匹倒せたんだからだいじょうぶ。回復薬も買って来たし、ね? さーがんばろーっ!」


「あ、はい。ゆうちゃんがそう言うなら」


 勢いに押されるままにひよりは頷いて、二人は再び[歴史の創路]へと向かう。


 その後、二時間ほど狩ってそろそろ帰ろうかと言う頃には二人のレベルは47まで上がっており、中盤からは悠姫がタゲを取らなくても大丈夫なくらいひよりの火力も上がっていた。


 途中[崖撃ち]狙いで[サンドコア]を狩りに来た引継ぎ組っぽいウィザードも居たには居たが、彼らが悠姫たちを見て驚愕していたのは言うまでもない。


 そうして二人は、さも良い仕事をしたとばかりに歓談を交わしながらセインフォートへと戻るのだった。




[コア狩り]から戻って、後三十分くらいでひよりが一度晩御飯を食べに行くと言うので、悠姫はその前にたまり場にする予定である図書館へと案内することにした。


 が、その前に。


「向こうで落ちることになりそうだし、先に清算していこっか」


「清算?」


「あー、清算っていうのはね、ドロップアイテムとかを売ってお金を分配したり、使い道があるアイテムや装備なんかが出てたらそれを分配することね」


 素で言った後で、そういえばオンラインゲームをやったことがない人だと清算って言われてもピンと来ないのか、と思い直し悠姫は注釈を加えた。


「なるほどです」


「って言っても今回だと[乾いた土塊]と[砂の欠片]と属性石……[アースストーン]くらいだから[乾いた土塊]と[砂の欠片]は売って、[アースストーン]はそのまま分配かな」


「え、えっと、おまかせします」


「うん、任されました」


 どれが必要なアイテムかわからないひよりに丸投げされて、悠姫は小さく敬礼してきょろきょろと周りを見回す。


「うーん……さすがにまだ商人は居ないかぁ」


 商人系のメインクラスを選ぶ人ならばほとんどの人が[交渉]のスキルを取っている。


 そのスキルがあるとNPCの商人からの売り買いの時に最大25%まで値引き、もしくは買い取り金額を高くしてもらうことが出来るのだ。


 けれどもスキルレベルが10まであることも含めて、VR化してすぐではやはり[交渉]を持っている商人など居るわけもなく、仕方なく悠姫はNPCの武器屋へと立ち寄り、そこで[乾いた土塊]と[砂の欠片]を買い取ってもらう。


「70kくらいかー。まあ、そんなもんだよね」


 最初の内はちまちまの狩りではあったし、このレベル帯ならば十分おいしい儲けである。


「あ、後これ買って……はい、ひよりん分配するからトレード出すよ」


「はい」


 申請を送ると、ひよりはすぐにYESのパネルをタッチしてトレード画面を表示する。


 インベントリからアイテムをトレード画面に移し、簡易キーボードで個数を打ち込む。


 CAOの共通通貨であるお金、[セイン]も同じように金額を撃ち込む欄をタッチして、金額を打ち込んでOKを押す。


「え? あの、ゆうちゃんこれって……」


 ひよりがトレード画面を見て疑問を口にしたのは、悠姫から送られてくるアイテムに見知らぬ装備を見つけたからだ。


「ひよりんここまで初期武器のロッドだったし、それはプレゼントね」


 我ながら甘いと思うが、けれども正直ひよりが居たお蔭でここまでレベルが上がったようなものだから、最初から何かサービスしようとは思っていたのだ。


「わ、わ……う、うれしいです、ありがとうございます、ゆうちゃん!」


 さすがに今の所持金では店売りで一番強い[クリスタルセプター]を買って渡すことは出来ないが、スペルワンドでもMATKが140はあるのでそこそこ火力アップにはなるだろう。


 店売りの[スペルワンド]でそこまで喜んでくれるなら、プレゼントしたかいがあったというものだ。


 それよりも問題は感極まったのか、抱き付いてくるひよりの方だ。ひよりは悠姫のことを女の子だと思っているだろうが、シアの時もそうだったが悠姫にはそういったスキンシップに対する免疫が無い。


「ひ、ひよりん、あ、あんまりくっついたら、その……」


「はぇ?」


 顔を赤くしてどもる悠姫の姿にどきりとして少し恥ずかしくなりながらも、ひよりはこれまでで初めて見せるいたずらっぽい笑みを浮かべて言葉を返す。


「……あは、ゆうちゃん真っ赤です」


「な、なに言うのひよりんっ」


 ちょっと前にからかわれた意趣返しもあるか、なおも抱き付いてくるひよりに悠姫は呻きながら耐えるしかない。


 ひよりも少し恥ずかしいと思いながらも女の子同士のスキンシップ程度にしか考えていないのだろう。段々と照れがなくなってきたのか、悠姫にぎゅーっと抱き付いて離さない。


「えへー」


「うう……」


 少し前は悪ノリしてからかっていたというのに、立場がすっかり逆転してしまっていた。


「も、もう、ひよりん、メッ」


「あ、あたっ」


 このままではまずいと、悠姫はひよりを強引に引き離してデコピンして頬を膨らませる。


「もう、女の子がそんなはしたないことしたらダメだよ?」


「あう……はーい」


 怒られてひよりは素直に返事する。


 ひよりの素直な態度にほっとしながらも、悠姫は少し慣れないとないけないかなと思いはするものの、逆に慣れて良いものなのかと揺れる心の葛藤に苛まれる。


「ふふ」


「ど、どうしたの、ひよりん?」


「いえ、ゆうちゃんって凄くかっこいい人だと思ってたんですけど、かわいい人でもあるんですねって思ったんです」


「うあー、かっこいいままのわたしで居たかった。もう戻れないのね、あの頃には……」


「ゆうちゃん、なんですかそれ」


 失笑しながら悠姫が冗談で呟くと、ひよりはあははと笑って返してきて、これはこれで仲良くなれたのかな。


「ま、清算も終わったことだし図書館へ案内しよっか」


「あ、はい」


 頷いて二人は図書館へと向かう。


 数分歩くとすぐに目的の場所に辿り着き、ひよりは予想通りのことを悠姫に尋ねる。


「えっと……ゆうちゃん、ここ図書館なんです?」


「ですよねー」


 お決まりの文句で返しながら「一応図書館だよ」と返し、重々しい扉に手をかけて開く。


 埃っぽい室内。司書の女性は変わらずそこで姿勢を正して座っていた。


 掃除とかしないのかなぁ、と思いながら視線を小さな共用ソファが備え付けられていた空間へと移す。


「……何かデジャヴ」


 見て、呟いた、その視線の先。


 そこにはどこか懐かしい外見の人物が三人居た。


 そしてその三人は入ってきた悠姫を見て、三人そろって目を見開いていた。


 もしかしてこの反応は今後も続くのだろうか、等と明後日なことを思いながら、悠姫は三人を観察する。


 一人は闇に溶けるような上から下まで真っ黒な軽装に、腰の左右にかけられた二刀の刀を持つ、あからさまに忍者という肩書が似合いそうな男性。


 もう一人も先とは違う意味で動きやすそうな重ね布で編まれた白を基調とした布鎧を着た、悠姫の持つ剣よりもさらに長いだろう直剣を腰に帯びた黒髪の男。


 そして最後の一人は紫色の長い髪が特徴的な、まるで童話から飛び出してきたようなゴシック調のドレスを身に纏った背丈の小さな少女。


 一人は服装にあまり見覚えはなかったが、けれどもあからさまな忍装束とゴシックドレスの少女には見覚えがあった。


 悠姫が休止してから一年間、変わらずその衣装を愛着していたのだろう。


 その三人ともが、弾かれたように先程の悠姫の発言を確認する為にログへと視線を向ける。


 そのインターフェースの使いこなし具合と言い、悠姫の覚えた既視感はもはや間違いない確信へと至る。この廃人どもめ。


「……姫でござるか?」


「悠姫さん?」


「――欠橋悠姫!」


 呼ばれたのはスルーして、悠姫もログを確認する。


「あー、やっぱり?」


 そこに並ぶ名前はどれも懐かしい響きで、三人は悠姫のギルドでも最古参のメンバーだった。


[NINGA]という[サムライマスター]。


[久我]という[剣聖]


 そして[リーン=エレシエント]という[ロードヴァンパイア]。


「うん、久しぶりだね、みんな」


 三人は悠姫がギルドを作った当初からのメンバーで、シアと同じくらい様々な時間を過ごした仲間だった。


「え、え?」


 その場で何の関係も無いひよりは首を傾げることしか出来ない。


 修羅場に子羊が一人、迷い込んでいた。


「……とりあえず、とりあえずね、落ち着こう。みんな、落ち着こう」


「姫。それがしには、姫が一番動揺しているように見えるでござるが……」


「あ、ニンジャってその喋り方でいくんだ」


「うむ」


 因みにNINGAは名前入力で打ち間違えたまま、気が付かずにレベルをかなり上げてしまい、転生で微妙な[メインクラス]が来たら作り直そうと思っていたら[サムライマスター]というかなりレアな[メインクラス]が出てしまったが故に消すに消せなくなったという悲しい過去を持っている。


 仲間内では彼の名前のことは深く突っ込んであげずに、ニンガではなくニンジャと呼んであげるのがやさしさだ。


「俺も聞いたけど、それでいくみたいだな」


「久我は……なんていうかそのままだね。服装が違ったから一瞬誰だろうって思ったけど」


「あー、まあ、俺からすれば一年もずっと同じ服を着てる二人のが良くやるなぁって思ったけどな。色々新しい良い衣装も来てたんだがなぁ」


「あはは」


「――あはは、じゃ、ありませんわ!」


 和やかな雰囲気でごまかそう作戦、失敗。


「……あはは……はは……」


 はぁ……と溜息が出るのだけは何とか堪えて、悠姫はキンキンと響く声で叫んだ少女……リーン・エレシエントへと視線を向けた。


 他の二人は結構大人で温厚な性格な印象があったからどうかとは思っていたが、けれどもリーン・エレシエントとは少々複雑な因縁関係にあった為、絶対に折りが合わないと思っていた。


「良くものこのこと帰って来れましたわね! 欠橋悠姫!」


「リーン殿――」


「いいよ、ニンジャ」


 フォローに入ってくれようとするニンジャを悠姫は制止する。


 実際に非難の言葉を向けられると刺さるものがあるが、けれどもリーンの言うことは間違いではない。


「そうですわ! 邪魔をしないことね、これはわたくしと欠橋悠姫の問題ですわ!」


「……ゆうちゃん」


 後ろにいるひよりも、心配そうに悠姫を見ていた。


 ……休止する際にせめて一言でもあれば話はまた違ったのだろうが、それをしなかった悠姫にも確かに落ち度があるのだ。たかがゲームされどゲーム。人との繋がりがある以上、それを(ないがし)ろにすれば場所がどこであろうと感情の軋轢は生まれる。


「アナタが急に居なくなって、わたくしたちがどんな気持ちだったと思っていますの? リーシアなんて甲斐甲斐しくずっと図書館で待っていましたのよ? 来る日も来る日もずっと。わたくしたちがほとんどここに立ち寄らなくなってからもずっと。見ていて痛々しいくらいに、ずっと! 彼女は待っていましたのよ!?」


 本人は冗談めかして言っていたがリーンの言う通りなのだろう。


リーンの隣の二人もそれが真実であるからこそ、訂正をしようとはしなかった。


「……そっか」


「そっか、じゃありませんわ! わかっていますの!? アナタはどれだけ自分が薄情なことをしたのか、本当におわかりになってるのかしら!?」


 強く、強く握りしめた手が痛い。それでも血が流れないのはここがVR世界だからで、街の中ではシステムによって傷つかないように定められているからである。


 リーンに言われなくても、わかっていた。


 けれどもどれだけ真摯に懺悔しようとも、どれだけ後悔しようとも、例え言葉で表そうとも、相手の心を知り得ることなど他人には不可能だ。


 それは悠姫にも言えることだし、同時にリーンにも言えることだ。


 互いが互いの心の中を読めるわけではないのだから、どこかで(わだかま)りをぶつけなければ歩み寄ることは出来ない。


 非難されることは想像していたとはいえ、けれども想像はあくまで想像でしかなく、実際に言われると想像など比較にならないほどに強烈な痛みとなって、リーンの言葉は悠姫の心に突き刺さる。


 なまじ悠姫も罪悪感を強く感じてしまっているだけに、余計リーンの言葉は悠姫の心を抉り後悔の血を流させ身体から温度を奪い去ってゆく。


「……ごめんなさい」


「っ、謝ればそれで済むという話ではないでしょう!? 大体アナタはいつもそう――」


「おい、そのくらいで」


「久我は黙ってらっしゃいな!」


 謝ることしか出来ない悠姫に、さすがにヒートアップし過ぎるリーンを止めようとした玖珂の声を激情が遮って響く。


 小柄なその身体のどこからそんな声が出ているのかという声量に、後ろに居たひよりが息を殺した悲鳴をあげていた。


 ひよりからすればいきなりの修羅場に、何が起こっているのかわからないだろう。


 しかし第三者が居る、というだけで意外と抑止力にはなるもので、そのひよりの怯える様子を目に留めたリーンは、少しだけ気まずそうに視線を逸らした。


「姫にも、理由があってのことでござろう」


「……それについては言えないけど……ごめんね。休止をすること、誰かに言っちゃったら絶対に迷っちゃうと思ったから」


「あー、まあ、そうだなぁ……」


「そうでござるな……」


 ニンジャも久我も想像に容易(たやす)い答えに頷く。リーンも一応は理解出来るのだろう、苦虫をかみつぶしたような顔で俯き、すぐに真っ直ぐに悠姫を見つめて告げる。


「……わかりましたわ」


 意外と素直にリーンが折れたことにほっと場の空気が緩みかけたのも束の間、


「こうなったら決闘ですわ! 欠橋悠姫!」


「……え」


 決闘とは、1対1の決闘システムのことを言っているのだろう。VR化前もことあるごとに決闘で勝敗を決めて問題を解消してきたが、まさかこのタイミングで決闘を申し込まれるとは想像も出来なかった。


「アナタが勝てばこれ以上わたくしは何も追求いたしませんわ。その代わり、わたくしが勝ったら休止した理由を洗いざらい教えてもらいますわ」


「待て待てリーン、それはちょっといきすぎだろう」


 何が理由で休止をしていたかわからないが、けれども悠姫が話したがらないところを見るに相応のことなのだろうと予想をつけていた久我がリーンを諌める。


「リアルの問題かもしれないだろ。そういうのは、そう軽々しく聞いていいもんじゃない」


 久我の中では色々と想像が発展してしまっているのだろう。


 が、残念なことにそんなシリアスな理由など実際は皆無で、まさか悠姫が女装して働いて女子力を上げる為に休止していたという、残念過ぎる理由など想像もつかないだろう。


「いいよ、久我もニンジャも。……リーン、その勝負受けるよ」


「ふん、えらく自信があるようですわね」


「あー……その前にね、リーン、レベルいくつなの?」


「あら、レベルがわからないと、怖いのかしら?」


「やー……」


 パワーレベリングに近いことをして一気にレベルをあげてしまっているだけにさすがにそこは気になるところだ。レベル差があり過ぎて禍根を残してしまっては元も子もない。


「ニンジャってリーンと一緒に狩りしてたのかな?」


「その通りでござる」


「ちょ、わたくしの話を聞きなさい!」


 スルーされたリーンが喚き立てるが、それも敢えて無視してニンジャに問う。


「レベルいくつ?」


「某は17でござる」


「ちょっと……何をばらしてるのかしら、ニンガ!」


「ひ、酷いでござる……」


 ニンガ呼びは正しい呼び名なのだが、悪魔の所業だった。


「あー……」


 そしてレベルに関しては予想通りではあったが、もう少し高いものだと思っていただけに悠姫は頭を抱えるしかない。


「ふん、何? おじけずいたのかしら?」


 見た目的にも衣装装備を外していて初心者っぽい装備なのもあるからだろう。頭を抱えるその仕草を臆病風に吹かれたのだと思ったリーンが勝ち誇ったように言うが、しかし……


「え、まだレベル17なんですか?」


「え」


「え」


「え」


「ちょ、ひよりん……」


 ひよりが爆弾を投下して、場の空気が凍り付いた。


 ひよりのレベルは悠姫よりも1高い48だ。そう思ってもしかたないのかもしれないが、言い方というものがある。


「つかぬことを聞くけど、悠姫さん、レベルいくつなんだ?」


「…………47」


「47でござるか!?」


「はぁ!? 47!?」


「ちょ、まwっwうぇっw47は酷いwwwww」


 まさかのレベルに、三人の声が不協和音となって重なった。


 久我なんてキャラが壊れて草原が構築されていた。


「まだログインして数時間なのに、どうやったらそんなレベルあげれるのかしら!?」


「やー……まー……」


「え、普通じゃないんですか?」


「ちょ!? ひよりんは燃料投下しないで!?」


 言葉を濁していると、ひよりが再び火に油を注ぐ発言をして、悠姫は慌てて鎮火作業に移ろうとするが、時は既に遅し。ひよりは初のオンラインゲームで基準をしらないだけに、先のレベル上げが当たり前のことだと純粋に思ってしまっているだけなので余計に性質が悪い。


「れ、レベル47……っ」


「えっと……リーン、決闘する?」


 さすがにこの状態で戦ったところで確実にリーンに勝ち目はない。


 モンスターとのレベル差は戦略次第で埋められるが、プレイヤーとプレイヤーのレベル差というのは実に顕著に現れる。


 ステータスの差もあるが、VR化前に幾度となく決闘してきたリーンのメインクラスである[ロードヴァンパイア]のスキルも知っているとなれば、負ける方が難しいくらいだ。


「お……」


「お……?」


「覚えてらっしゃい――っ!」


「えぇ!? ……あー、行っちゃった……あはは……」


 そう叫んで泣きながら去っていくリーンに、悠姫は乾いた笑いを浮かべるしかなかった。


「しかし本当に、どこで狩りしてたんだか……聞いてもいいか?」


「ああ、うん、良いよ?」


 特に隠すことも無いので、悠姫は久我とニンジャに[コア狩り]に行ったことと、[サンドコア]の行動アルゴリズムを伝える。


「なるほど……そういうことでござるか」


「ウィザードの連中がこぞって死に戻りして無理だ無理だ言ってたから、そういうもんだと思っちまってたが、なるほどなぁ」


 ニンジャと久我の二人ならばコツを掴めばかわすことが出来るだろうし、[ロードヴァンパイア]で魔法属性の攻撃も使えるリーンと協力すればより効率良く狩ることも出来るだろう。


 そこで狩りの話は区切って、悠姫は続けて放置しっぱなしになってしまっていたひよりの手を引いて隣に並ばせる。


「で、この子の紹介が遅れたけど、友達になって一緒に狩りに行ってたひよりんだよ」


「えっと? あ、あの、ひよりです。よろしくお願いします」


「よろしくでござる」


「ああ、よろしく」


 ぴしっと背筋を伸ばして頭を下げながら自己紹介するひよりに、ニンジャと久我も笑顔で応じる。まあ、ニンジャの場合は口布もあってあまり表情がわからないのだが。


「とりあえず、フレンド登録しとく?」


「ああ、そうだな」


 繋いでいるのがわかれば情報交換などもやりやすいので悠姫が提案すると、ニンジャも久我もそれに賛成してみんなでフレンド登録を行うことにした。


「友達が増えました!」


 フレンドリストを見てうれしそうに申告するひよりに和みながら、その後もいくつか言葉をかわし、ひよりとは夕飯後に再び狩りに行く約束をして、ひよりにならって悠姫も一度ログアウトすることにした。


「まあ、そのな」


 ひよりがログアウトして、悠姫も落ちようとしたその背中に久我の声がかかり、悠姫は振り返る。


「……リーンも悪気があったわけじゃないからさ。悠姫さん」


「うむ……それがしもまた姫と会えてうれしかったでござるよ」


「……ありがとね」


 二人はきっと大人なのだろう。


 その心遣いをありがたく思いながら、悠姫も[ルカルディア]からログアウトした。




 静まり返った部屋の中。


 服が少しだけ汗で湿っていて、悠火はあれ……と不思議に思う。


「ん……」


 電気をつけたままログインしていたはずなのにいつの間にか電気が消えて薄暗くなっているし、身体にもかけた覚えのない毛布がかけられている。


 薄暗い、見慣れた部屋の中で悠火はヘッドマウント装置を外して身体を起こす。


 ちょっと前までの[ルカルディア]の風景から一転、見慣れた部屋の風景は逆にどこか現実味が薄く、そのギャップがおかしくて心がわずかに弾むがそれも一瞬の事。リーンに言われた言葉が胸に刺さったまま抜けずそれがため息となってこぼれ落ちる。


 言われて仕方ないと思うが、けれども簡単に感情を割り切れるほど悠火は薄情ではないし、またそうありたいとも思わない。


 みんなには迷惑をかけたし心配もさせた。


 そのことは反省するところであり、受け止めるしかない。


 それに――


「はぁ……」


 一番気がかりなのは、やはりシアのこと。


 明るく振る舞っていたし冗談めいて喋ってはいたものの、彼女もかなり傷ついていたのだろうか。シアのやさしさに甘えて、見えないふりをしてしまっていたのではないかと自己嫌悪に陥りかける。


「……シャワーでも浴びてこよ」


 いくら考えたところで悠火はシアではないので答えは出ない。


 もう一度溜息を吐いて、洗面所へと向かう。


 靴下を脱ぎ、スカートをおろし、次にパンツを脱いでから続けてブラウスのボタンを外す。


 透き通るような白い肌が露わになり、鏡に映る自分の姿をじっと見つめる。


 そこに居るのは当然CAOのアバターである欠橋悠姫ではなく、現実世界の倉橋悠火だ。


 華奢な肩からほっそりとしたウエスト。胸こそないものの、世の女性が羨望しそうなほどに美しいボディライン。


 目を閉じると、鏡に映った自分とCAOのアバターである欠橋悠姫の姿が重なる。


 まるで羽のように軽い身体を動かして冒険するのは、すごく楽しかった。


 楽しいことも、辛いことも、どちらもあった。


 浴室の扉を開けて、蛇口を捻る。


 最初に冷たい水が身体へと降り注ぎびくりと身体を跳ねあがらせてしまうが、シャワーから出る水は徐々に暖かさを増して身体と心をゆっくりとほぐしてくれる。


「ふぁ……ん……」


 暫くそのままで温まり、ヘッドを横にずらして髪を洗う。


 細くてさらさらな白い髪。昔はからかわれることは多かったその髪だが、けれども今は自分の髪を気に入っている。いたわるように丁寧に洗い、お湯で流す。


 次に柔らかいふにふにのスポンジで腕、足、そこから上にかけて身体を洗ってゆき、再びお湯で流す。


「ふぁー……」


 予想以上に疲れたのだろうか、シャワーを浴びていると心地よい眠気が襲ってくる。


「はっ、いけないいけない……」


 首を振って再び温まるまでシャワーを浴びてから洗面所へと戻り、髪をまとめてタオルで巻いて、上気した肌をバスタオルで包み部屋へと戻る。


 一つ断っておくが、悠火はれっきとした男だ。


 いくら言動が女の子を模倣していても男である。忘れてはいけない。


「ん?」


 ちかちかと点滅する携帯の着信ランプに、手に取って操作して見てみると、そこにはコージローからのメールが一件届いていた。


『どうせまた何も食わずに、もしくはカップ麺でも食べてログインするんだろ?

 作りすぎた夕飯があるから冷蔵庫に入れておく。温めて食べろ。

 まだ寒いんだから、ログインするにしても気をつけろよ』


 文面を見て、思わずくすりと笑ってしまう。


「あーもう、ほんとコージローおかあさんみたいだなぁ」


 本人に言ったら訂正してくるだろうが、思わずにはいられない。


 電気が消えていたのも毛布をかけていったのも、どちらもコージローの仕業だろう。


 冷蔵庫の中を確認すると、サラダと白身魚のムニエルがラップをかけて入れられており、どうやったらこのメニューで作りすぎるのだろうかとにやけてしまう。


「まじコージロー、ツンデレ。ふふ」


 ミニドレッシングの容器も添えてあるところがまた細かな配慮が行き届いていて笑みがこぼれる。


 ご飯は少しだけ残っていたので、それをよそってムニエルは温め直して食卓に着く。


「いただきます……と、食べる前にコージローにメールおくっとこ」


 コージローに感謝と、初心者さんと友達になったから一緒に遊びにでもいかないかと誘いの文面を打ち込んだメールを送る。


「むぅ……相変わらずおいしい……でもわたしもこのくらいなら作れなくも……ない」


 ぶつぶつと呟きながらもぐもぐ。


 白身魚のムニエルの味に舌鼓を打っていると、コージローから了承のメールが来た。


「おー、久しぶりにコージローとCAOだー」


 メールの文面の最後に皿はちゃんと水につけておけよ。とあるところがまたおかんっぽいが、言われた通りにちゃんと水につけてから、悠火は再びヘッドマウント装置をかぶり毛布をかぶって起動する。


 ……いっそコージロー、食器洗浄機とか買ってくれないかなぁ。


 そんな自堕落なことを考えながら、悠火は再びCAOにログインした。





 メールで書いた待ち合わせの場所は、わかりやすく円形広場の北噴水前にした。


 誰が居るかなとフレンドリストを見てみると、ニンジャと久我とシアの名前があり、加えてもう既にひよりの名前もあった。


『てすてす、ひよりーん?』


『えぅ? あ、ゆうちゃん?』


 パーティがそのままだったので、とりあえずパーティチャットで呼びかけてみると、すぐに反応が来た。


『今何してる?』


『えっと、ログインしてゆうちゃんが居なかったので、ちょっと道具屋とか見てました。すぐに狩りに行きます?』 


『あ、うん、でもちょっと知り合いも誘ったんだけど、一緒に良いかな』


『わ、大歓迎ですっ。えっと、どこ行けば良いですか?』


『円形広場の噴水のところで待ち合わせしてるから、来れる?』


『はい、すぐ行きます!』


 パーティチャットを終了して、ふうと一息。


 断られることはないとは思っていたが、ひよりもだいぶ馴染んでいるようで良きかなと頷く。


「あ、そういえば」


 さっきフレンドリストを見た時にシアの名前があったので、先のリーンの話もあったせいで少しだけ気まずいところではあるが、躊躇いながらもどうせならシアも誘おうと思い切ってWIS(耳打ち)をコールしてみる。


《――ユウヒ様?》


 数コール目でシアと繋がって、悠姫はWISだと聞こえ方が少し違う感じなんだなぁ、とまた一つ新しい発見をしながら頷いて返す。


《うん、わたしだよー。シア、今何してる? 時間あるなら遊びに行かない?》


《やーん……ごめんなさい。残念ですけどリーンさん達に狩りに誘われてそっちに行ってます》


《あ、そうなんだ? じゃあまた後で時間あったら遊びましょ》


《うぅ……残念過ぎます……ユウヒ様》


《あはは、レベル上げがんばってね!》


 シアはそう言うが、リーン達ということはニンジャや久我も居るのだろう。


 となれば向こうで狩りした方が公平でパーティが組めるだろうから良いだろうと悠姫は軽くフォローを入れて潔く身を引く。


《……ユウヒ様、いつの間にか47とかになってますしねっ。がんばりますよっ。もうっ》


《あいたた……がんばって》


 ちくちくと皮肉を言われながらもWISを終了すると、ちょうど向こうから走ってくるひよりの姿を発見した。


「お待たせしましたっ」


「ふふ、まだ待ち合わせの知り合いが来てないから、大丈夫だよ」


「そ、そうなんですか?」


 小動物っぽいかわいい仕草に、自分もそうするべきなのか悠姫は少しだけ考える。


 ……うん、わたしのキャラではないな。


 というよりひよりの場合は天然だからこそかわいく感じるのであって、これがわざとやっていればただのぶりっこにしかならないだろう。


 下手をしなくてもネカマと間違えられるようなキャラだ。


「んー、それにしても、遅いなぁ」


 きょろきょろと周りを見回して見るものの、まだそれっぽい姿は見つけられない。


「ゆうちゃんの知り合いって、どんな人なんですか?」


 やってくる人が気になったひよりの問いに、悠姫は迷わず答える。


「おかあさんみたいな人」


「え、おかあさんですか?」


「うん。主婦って響きがとても似合う、まさに家事の鉄人って感じ」


「え、え?」


 冒険者としてのイメージがまったく沸かないのだろう。悠姫が言っているのはあくまでコージローのリアルのイメージなので仕方はないが、けれどもあまりCAOで冒険に出かけたことのないコージローを表現しようとするどうしてもそれ以外に言いようが無い。


「……おい、ユウ。誰がおかんだ誰が」


 と、そこにいつやってきたのか、黒髪の剣士風の男性が現れてツッコミを入れた。


「あ、コー……って、あれ、コージロー?」


 ついつい癖でリアルの名前を呼びそうになり、ログを確認して名前を見てみると、まさかのそのままだったので首を傾げながら悠姫は呼び直した。


「あれ、コージローなんでコージローなの」


「意味がわからんが」


「や、コージローって本名じゃない」


「ちげぇ……が、なるほどな。名前なんてわかりやす方がいいだろ?」


 それはそうだけど、と思いながらもう一度じっくりとコージローの容姿を見てみる。


 意外なことに、コージローは初期装備ではなく、悠姫と同じようなロングソードを腰に携え、黒のパンツに軽装のレザージャケットを羽織っていた。身長は悠姫よりも高く、175くらいだろう。顏の造りもリアルと似たような感じではあるが……


「コージロー、顏、少し美化してる?」


「……別に良いだろ」


 にやにやとした悠姫のツッコミに、コージローが顔を逸らして答える。


「え、えっと……」


「あ、ごめんひよりん、コージローってあんましCAO繋がないからついはしゃいじゃって」


「すまないな。ユウが迷惑かけてないか?」


「そ、そんなことないですよ? ゆうちゃんはとってもいい人です!」


「ゆうちゃん……?」


 お前なに初心者にかわいらしい呼び名を勧めているんだみたいな目で見られて、今度は悠姫がわざとらしく口笛を吹きながら目を逸らした。


「あの、二人はその、リアルで知り合いなんですか?」


「あ、うん。わたしは喫茶店でバイトしてて、コージローはそこの店長の息子で厨房を任されてるの」


「わ……すごい人なんですね」


「いや、そんなことはないが……」


 ちらりとコージローを見ると余計な事を言うなよという目で見られたが、けれども厨房を任されていると言われたことと、ひよりに素直な尊敬の目で見られたことから照れくさくなったのか言葉を濁した。


「でもって、ツンデレ」


「おい、その情報はいらないだろ」


 じと目でツッコミを入れるコージロー。


 コージローとは会話のテンポが合うのでついついノリで話したくなってしまう。


「でもコージロー、見た目も似たような感じなんだね」


「それを言うならお前なんてリアルと髪色とか瞳の色とかが違うくらいの差だろ」


 リアルの方の悠火が悠姫に似せている……というのが正しいかもしれないが、確かにあまり差はないように見える。敢えて大きな差というならば、悠姫の方もそこまででもないが胸のあるなしくらいか。


「お二人は、仲が良いんですね」


「まあ、こいつとは幼馴染ってやつだからな。……つっても、恋人とかじゃないから安心してくれていいぞ」


「ふぇ!? ち、違います! わたしはゆうちゃんを、そんな! だって!」


 にやりと笑って言うコージローも、何だかんだでひよりの扱いをわかっているのかもしれない。大げさに手を振って顔を真っ赤にするひよりを見て悠姫は和む。


「ほらほら、コージロー、あんましひよりんをからかわないの」


「……そうだな」


「ね、ひよりん」


 若干含みがありそうだったが、特に気にすることなく悠姫はひよりの頭をぽんぽんと撫でる。


 亜麻色の髪はふわりとやわらかくていい撫で心地についついうりうりと続けてしまう。


「ひゃ、ひゃぁぁぁ……」


「…………」


 ……これはもう完全にアウトだな。と、頭を撫でられて真っ赤になるひよりを見てコージローは犠牲者が増えたことに黙祷を捧げながら話を戻すことにする。


「で、どうするんだ? というか、俺はまだレベル15なんだが」


「そこはパワーレベリングするとして」


「パワーレベリングかよ」


 びしっとツッコミが入るが、実際それくらいしかレベルを合わせる手段なんてない。


「つーか、ユウ、お前いくつなんだ?」


「47」


「…………ちっ、廃人め」


「ふぇ!?」


「ん?」


 廃人と呼ばれてひよりが目を見開く。


「あー、ひよりん、レベル48だから」


「……おい」


「あははコージロー近い近い近い近いいやほんと……」


 詰め寄ってくるコージローの目が、全てを悠然に物語っていた。


 つまり。


 てめぇなに何も知らない初心者さんに廃人クオリティでレベル上げなんてしてやがるんだそれが常識だって反応じゃねぇかあれこの廃人製造機めあの子が今後CAOにドはまりしてCAOが生活の中心にでもなったらどうするんだ。


 ――ごもっともで。


「で、でも、オンライゲームってほら、レベル70台くらいまでは割とすぐ上がるように出来てるし、っていうかそこら辺から臨時とか増えてくるもんだし……」


「ほう」


 悠姫の言い訳に頷きながらついっとコージローがあごでしゃくった先には臨時広場があった。


 そこにはレベル5~10台の臨時パーティ募集が数多く出ており、今のところ一番高いレベルでも15付近が最高といったところだった。


 70台の臨時パーティなど、VR化オープン開始時点であるはずがなかった。


 当然ながら50付近のレベル帯の臨時もあるはずがなかった。


「……えへへ」


 悠姫は冷や汗だらだらで諸手を上げて降参のポーズだ。


「……まあ、レベル上げるのが悪いって訳じゃないんだがな」


 不安そうに見てくるひよりを見て、コージローはそう言いながら臨時パーティ募集の方へと歩いてゆく。


「あ、あれ? コージロー?」


「ちょうど合うレベル帯があるから、俺はそっちへ行ってくる。ユウ。ひよりちゃんに責任もって付き合ってあげるんだぞ」


「あ……」


 せっかくコージローと冒険に行けると思っていたのだが、やはりこういうのはレベルが合うところで冒険に行く方が楽しいものだ。


 パワーレベリングも悪いことではないかもしれないが、それで負い目を感じてしまう人も居る。悠姫からすれば特に気にしないでいいのにと思うが、人の感受性というのは千差万別だ。

些細なことで辛く感じたり、居辛く思ってしまったりする者も居るのだ。


「あ、あの、ゆうちゃん?」


「あ、うん。ごめんね」


「薄々感じてましたけど、わたしのレベルってかなり高いんですね……」


 え、薄々なんだ?


 確かに初日で既存ユーザーもインターフェースの差で苦戦している中、48というレベルはかなり高い方だ。上には上が居るので現時点で最高レベルとは思えないが、それでもそういった高レベルプレイヤーは大手のギルドのメンバーか、それこそ生活すらも棄ててネトゲに命を捧げているような真祖廃人ばかりだろうと踏んでいる。


 そしてそう言った人達はコミュニティの中で完結してしまっているので、地盤を固めるまでは新しいメンバーには手を出さない為、今の段階ではパーティを組むことも出来ない。


「で、でもね? レベル高い方が色々と行けるし、わたしもひよりんと色んな所に行けるのうれしいなぁ」


「……も、もう、ゆうちゃん何言うんですかっ」


 ごまかす為に取り繕って言ったにもかかわらず、ひよりが頬を染めて照れてしまい、悠姫は逆にひよりの素直さを不安に思ってしまう。ひよりんはこんなちょろい子で良いのだろうか。


「うーん、でも、どこにいこっかなぁ……」


 再びペア狩りをするにしても狩場の選択が難しい。まだまだ[サンドコア]で上がるレベルではあるが、しかしサンドコアはひよりの魔法で1確になってしまっている。


 それに狩り方も教えているので恐らく今頃はリーン達もそちらに行っているだろう。


 鉢合わせると気まずいのでそれは避けたいところだし、何よりフィーネに会いに行くために[第一の聖櫃]へと向かうにはそれなりのレベルが必要となる。


 確かに[サンドコア]でもレベルは上がるが、効率だけで見たらもうそんなおいしいものでもない。


[第一の聖櫃]へと至るクエストは、未転生ならばレベル90台のパーティが挑戦して、ギリギリクリアできるかどうかといった難易度だ。


 もちろんソロで攻略しようとするならばレベルカンストでも難しく、転生後でも一人でクリアしようとしたらレベル110は必要なくらいのハイコンテンツだ。


 その理由は単純にして明快。


 クエストの最後にかなり強い[守護者]との戦闘があるのだ。


 元々[第一の聖櫃]には転生クエスト以外では立ち寄ることがほとんど無く、週一で行われていた[聖櫃攻略戦]も特定の転移ポイントから[第一の聖櫃]の甲板へと飛ばされていた為、それ以外の目的で立ち寄ることがない場所だ。


 だからクラリシア=フィルネオスに会いに行こうと思えばまず転生クエストをなぞって進めて行くほか術は無く、転生クエストのストーリーは短いものの、未転生ユーザー向けのエンドコンテンツだけに高めの難易度が設定されている。


 フィールドやダンジョンのモンスターとは違い、ボスというのは一線を画する存在だ。


 高ダメージの範囲魔法やスキルも使ってくるし、通常のモンスターとは比べ物にならない程ステータスも高い。耐性装備が無ければ後衛職など……いや、下手をすれば前衛ですら一発で溶けてしまう可能性もあるくらいの圧倒的な火力でプレイヤーを蹂躙する。


 検証しようにもとりあえずレベルは70以上欲しい所ではあるし、そこまで上げるためには[サンドコア]ではさすがに話にならない。


「んー……ひよりんって他にスキル何か取った?」


[サンドコア]を狩るときは、前提の[フレイムアロー]とその上位で範囲スキルの[クリムゾンレイン]、後は[MP回復力上昇]しか取っていなかったはずだ。


 というより、悠姫がそれだけで良いと止めておいたのだ。


 火系ばかりで固めても他の狩り場に行くのが難しくなるし、[サンドコア]のHPならば[クリムゾンレイン]よりも威力の高い単体スキルを取ったところでオーバーキルになってしまう。


 範囲スキルである[クリムゾンレイン]で1確にするには調整が難しいところだが、そこは悠姫がタゲを取るか残ったHPを削り取れば良いだけの話で。


「ゆうちゃんに言われたスキルと後はえっと……[アイシクルソード]も取ってみました」


 スキル欄を開いて見ながら、ひよりはそう告げた。


「あ、他のスキルも取ってみたんだ?」


「えっと……ダメでした?」


 恐る恐る聞いてくるひよりに、


「あ、ううん良いと思うよ。[アイシクルソード]は後半でもかなり重宝するスキルだし。でも[アイシクルソード]かぁ」


「ダメそうです!?」


「やー……」


[アイシクルソード]がダメということは決してない。むしろ必須スキルと言っても良いほどに取っておいて損は無い魔法ではある。


 しかし[アイシクルソード]は水属性の単体高威力魔法で、中盤で取れるスキルの中では一番倍率が高く、かつ消費MPが多い魔法だ。


 後半になれば火属性のモンスターを狩る際にはメインのスキルとして運用されることが多く、水系最強の範囲魔法を取った後でも単体ならば[アイシクルソード]の方が連射も効いてダメージを出せるという実に優れた性能のスキルではあるのだが、現状だとMP効率と狩場の両方で悩ましいところになるのだ。


「[アイシクルソード]はかなり強スキルけど、火属性のモンスターって魔法や属性攻撃が痛いところが多くてね」


「そ、そうなんですか?」


 VR化前では魔法は基本的に必中だった。


 回避が可能かどうかはちゃんと検証してみないとわからないが、現段階では難しそうなのはひよりが放つ魔法を見ていれば想像に難くない。


 Slvが5になって5連射になった[フレイムアロー]が緩い弧を描いて目にも止まらぬスピードで[サンドコア]に突き刺さるのを観察していたが、[サンドコア]の攻撃とは違い[フレイムアロー]は標的が動いても微調整を加えてHITしていたので、悠姫もさすがにあれはかわすのがかなり難しそうだと早々にさじを投げた。


 VR化に伴い回避可能になっていたとしても、恐らく相当に難易度が高いはずだ。


 それに範囲魔法を撃たれると後衛のひよりも巻き込まれかねない。


 ヒーラーが居れば回復ごり押しでなんとか出来るかもしれないが、その場合はヒーラーに負担がかかりすぎるし、そもそもこのレベル帯の組めるヒーラーなんて居ないのだから所詮取らぬ狸のなんとやらである。


 もちろん火属性を持つ全てのモンスターが魔法を撃ってくるような凶悪なモンスターではないが、[アイシクルソード]ではそこら辺の敵は過剰火力になってしまうし、過剰火力にならなく、かつ経験値のおいしい狩場へ行こうとすると自然と魔法が痛い狩場に向かうことになる。


「属性耐性付きの鎧はレアドロップの輝石系が無いと作れないし、まだ製造系で武具作成まで取れている人も居なさそうだしね……」


「そうですか……アニメみたいに魔法とか斬れればかっこいいんですけどね」


 その一言に、ぴくりと悠姫の肩が反応して動いた。


「…………」


 魔法を斬る。ああ、なんてロマンのある響きだろうか。


 悠姫の脳裏には、飛んでくる炎を抜き打ち一閃で『またつまらぬものを斬ってしまった……』と斬り捨て、剣身に残った炎を振り払う自分の姿がありありと描かれていた。


「……ゆうちゃん?」


 不自然に止まってしまった悠姫を訝しんでひよりが声をかけるが、悠姫の脳内では今、激しい葛藤が巻き起こり天使と悪魔による攻防が繰り広げられていた。




[天使のターン]

 レベルを上げるなら検証などせずに他の狩場に行くのが正解だよ。

 レベルも今47だし、死亡のデスペナでステータス低下も50分くらい続くんだから、装備が揃ってから検証するのが賢いやり方だよ。第一モンスターの魔法は固有魔法が多いんだから初見でどうにか出来るはずないじゃない。少し冷静になって考えるべきだって。




[悪魔のターン]

 ――でも出来ればかっこいいよね?




「――よーし、行ってみよっか!」


 悪魔側の大勝利だった。


 むしろ天使なんていなかった。


「ふぇ!? い、行くんですか!?」


「もちろん、ひよりん、わたしにまかせといてっ!」


 目をキラキラと輝かせ、期待を胸に秘め意気揚々とちょうど良いであろう狩場の[ロスティカ鉄火山]へと向かう二人だったが……その数十分後。


 ……当然の結果。


 降りしきる火の玉の前にあえなく二人は瞬殺され、セインフォートに死に戻りすることになったのだった。


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