六話[共有]
スコープサイトから見える敵を撃つことだけに、集中力の全てを賭けて、アリスは、ふっ。ふっ。と消えたと認識するほどの速度で動く[覇王]ガロン=ワーグナーをサイトの中に捉え続けていた。
INTは絶望的に足りていないだろう、アリスの精密射撃を支えているのは、研ぎ澄まされた集中力だ。
スキルの足捌き、ガロン=ワーグナーの動きの癖、悠姫の位置取りから計算される相手の行動を予測し、立ち止まる一瞬を逃さずに射撃を当ててゆくのだから、アリスのプレイヤースキルは並大抵のものではない。
しかし、それ故にダメージも多く稼ぐ為、ヘイトも溜まりやすく、頭に何発目かのチャージショットが命中した瞬間、ガロン=ワーグナーのタゲがアリスへと跳ねる。
冗談のような速度でガロン=ワーグナーがアリスの目の前へと踏み込み、神速の回し蹴り、[神龍脚]がアリスの頭部を捉える――と思われた瞬間、
「――[シャープエッジ]!」
真紅の髪が舞い上がり、白銀の剣が光の軌跡を残して、アリスの目前に迫っていたガロン=ワーグナーの足を弾き飛ばす。
「[スカーレットペイン]!」
そこからさらにヘイトを稼ぐ為にスキルを使い、再びタゲが悠姫に固定される。
悠姫の背には暗い影から現れた[エクセキューショナー]アイシャ=リドルの刃が迫っているが、悠姫もアイシャ=リドルがバックアタック系のスキルを使ってくることは想定済みである。
剣を振り抜いた体勢から、踊るような軽快な足捌きでアイシャ=リドルの刃を紙一重でかわす。
目前を必殺の刃が通り過ぎるのを見つつも、アイシャ=リドルとガロン=ワーグナーを視界の中に入れておくのも忘れない。
「リーン!」
名前を呼ぶと、リーンはアイコンタクトだけで意図が伝わったのか、言葉を発する間も惜しいとばかりに、アイシャ=リドルに襲いかかる。
苛烈なリーンの攻撃に、既にだいぶ削れていたアイシャ=リドルのHPが、さらに目に見えて減少する。
真紅と紫色が舞い、入り乱れる様子は、さながら舞踏会のような優雅さを感じさせ、集中し続けていたアリスでさえ、悠姫とリーンに一瞬見惚れてしまった。
「――――[フェイタルバレット]」
けれどもすぐに集中力を取り戻し、リーンの攻撃を受けるアイシャ=リドルの頭部に痛烈なチャージショットを命中させる。
弾丸はそのままアイシャ=リドルのHPの残りを削り取り、頭部に風穴を空けて崩れ落ちたアイシャ=リドルが光の粒子になって消えてゆく。
「やりますわね。ナイスですわ、アリス」
「ありがとうございます」
ハイタッチを決めて、アリスはもう1人の標的に照準を定めようとするが、
「えっへへー! またトドメ刺しちゃったー!」
アリサが既にガロン=ワーグナーに即死を決めており、アリスは銃口を下ろした。
「ゆうちゃん、クレア連れてっていいですかー?」
もはや慣れた動きでクレア=セフィールを隔離しつつ、ちまちま魔法を放っていたひよりが、確認を取る。
「おっけー。ナイスだよひよりん」
アリスとアリサがレベルの割に活躍しているように見えるが、影の功労者は間違いなくひよりである。
クレア=セフィールの行動パターンが支援性能にガン振りしているおかげで、ひよりの[プリズムウォール]を壊せずに、隔離することができている。
だからこそ、悠姫たちが戦闘に集中できるのだ。
回復とバフが入った状態で戦うとなると、倒し切ることが困難になるだろうことは、出会い頭のバフがかかっている状態と戦ったからこそわかる。
回復量も[エクストラヒール]が200Mくらい回復しているのを見て目を疑ったほどだ。
「さてと、そろそろ戻ろうか」
[人体実験研究所]に来てから、既に2時間が経過している。
侵入クエストをやった時間を合わせると3時間経っており、時刻も10時を過ぎている。
「えー、もう帰るのー?」
「もうちょっとだけ狩ってかない? ほら、まだレアドロップ見てないし」
帰還を決めると、アリサとリリカから不満の声があがった。
リリカの目は完全にドルマークになっていた。
最初はあれだけ乗り気じゃなかったのに、現金なものである。
しかし[人体実験研究所]で狩りなんて普通は経験できるものでは無いので、続けたいと思う気持ちはわかる。
レアドロップが出たらひと財産どころか、6人で分配したとして、最上位の装備一式揃えてなお、お釣りが来るレベルだ。
「気がついてないかもだけど、だいぶ動きが怪しくなってきてたし、やり過ぎてもあれだからね」
ぱっと見はまだまだ元気そうだが、さっきから若干連携が怪しくなってきているところがある。
それに、悠姫とリーンのこのステータスは、聖櫃攻略戦の為に組まれたものであり、ここの100装備だけでも躊躇われるのに、金の為にさらにレアドロップを狙うのは、違うと思う。
[人体実験研究所]の100装備は、今の[ルカルディア]ではオーバースペックで、グレーなラインだし、先にドロップした[アズールミュータントの枢輝石]なんかも今の[ルカルディア]にあってはいけないレベルの超レアアイテムだ。
リーンとも話していたが、この3日で出たレアアイテムに関しては、所持したまま消えよう。と結論付けていた。
3日間でキャラがデリートされるという圧倒的なデメリットがあるとはいえ、現状どころか、暫く行くこともできないダンジョンのレアアイテムを手に入れて、預けておいて後で受け渡ししてもらうなんて事は、あまりにも悪質な行為だ。
誰にも咎められるようなことではないが、それでも一プレイヤーとして、悠姫とリーンなりの、ケジメのようなものである。
後は打算的なところでも、そんなロンダリングをしていては、今後の転生時に良くない補正がかかりそうといった懸念もあった。
「むう……でも、お姉様がそう言うなら、戻ろっか」
「一旦仮眠もしたいところだしね。アリスとアリサも、こんな時間まで続けてログインしてて、怒られない?」
「大丈夫です、ゆうねーさま。ちゃんと許可は貰ってます」
「そーそー、アリサのおかあさんもよく徹夜するから、割と大丈夫だよ!」
「そうなんだ」
CAOをしていたなら一緒にログインしてそうだし、それ以外で徹夜することが多い、かつゲームに寛容ということは、クリエイター系の仕事か何かだろうか。
「でも、ちゃんと寝ないとわたしみたいに急に倒れるからダメだよ」
「ゆ、ゆうちゃん倒れたことあるんですか?」
「やー、糸が切れたようにふっと意識がなくなって、気が付いたら病院だったね。あれはびっくりしたよ……って、みんなドン引きしすぎしすぎ」
「わたくしでも倒れるまですることはありませんわよ悠姫……」
「アリスちゃんとアリサちゃんは見習わないようにね」
「ゆうちゃん……」
「ま、まあ! 立ち話してても危ないし、ほらほら一旦帰るよ!」
全員から可哀想なものを見る目で見られた悠姫は、たじろぎながら、話題を強制的に終わらせて、帰還用のアイテムをインベントリから取り出す。
「[帰還の翼]」
アイテムを使用すると同時に、全員の姿が粒子と共に消えてゆき、そして、[人体実験研究所]には誰もいなくなった。
「ん」
一度仮眠をする為にと、精算だけさっさと済ませた後、悠姫とリーンは同時にログアウトして、現実へと戻ってきていた。
そして今後の予定を確認する為に悠火は鈴音の部屋へと訪れ、ベッドで両手を広げる鈴音に、悠火は意図を計りかねていた。
「えっと、お嬢様。どうなされたのですか?」
「まったく、あっちとは違って、察しが悪いですわね。仮眠をとるから、服を脱がせなさい」
「……そういえば鈴音は寝る時裸族だったね」
「すぐにメイドモードから戻りますわね」
「鈴音が驚くことばっかり言うからだよ」
言いながら、悠火はため息を吐く。なんとなく、次の行動も読めたからだ。
「わたしだって一応男なんだからね? 鈴音は恥ずかしくないの?」
「恥ずかしくはありませんわね。その見た目で男と言われましても、実感が湧きませんもの」
さらりと流されて、悠火は複雑な気分になる。
女装して女の子らしく振る舞っているとはいえ、男と認識されてからも一切気にされないとなると、それはそれで若干のもやっとした感情が残る。
「いや、それにしても少し前の膝の上に座ってきたのといい、なんかいきなり距離感おかしくない?」
問いかけに、鈴音が一瞬だけ考える仕草を取る。
「もしかして、わたくし、何か間違えていますの?」
「……え?」
聞かれた内容がわからなくて、悠火は短く聞き返した。
「わたくしのやり方は、間違っていますの……?」
「……えっと、どういうこと?」
悠火の疑問に、鈴音が不安そうに聞いてくるけれども、悠火には意図がわからない。
光の角度によっては紫色にも見える瞳が、不安げに揺れているのだけが、悠火にはわかった。
「……神宮の巫女としての立場から、わたくしは他人と接することがほとんどありませんでしたわ。だから、仲良くなりたい人にどう接するのが正解なのか、わかりませんの」
普段の堂々とした様子とは違い、恥じらいがちに言う鈴音に、悠火は少しどきっとしてしまう。
「悠火はアリスやアリサにくっつかれて嬉しそうにしていましたし、わたくしも最近アリスやアリサにくっつかれることが多くて、悪い気分ではなかったから基準にしていましたが、どうやら違ったようですわね……」
鈴音の行動や感情の振れ幅はかなり大きく、久我が言っていたようにツンデレのようにも思えるが、確かに気を許してくれてからは大胆なアプローチが増えた気がするが、なるほど。最近の鈴音の行動は、アリスやアリサを参考にした結果らしい。
思えば鈴音の[ルカルディア]での立ち振る舞いも、ロールプレイのような人を見下すお嬢様キャラだと思っていたが、ただただ人との接し方を知らなかったせいだろう。
感情的になった時や、身内に対しては情に厚いのがそれを裏付けている。
「鈴音のスキンシップは、困るだけで嫌ではないけど……ちなみにこの後何しようとしてたか聞いていい?」
「悠火を抱き枕にしようとしてましたわ」
はい。アウトー。
予想通りではあったものの、どこの世界にメイドとして雇われて、全裸のお嬢様と同衾する使用人がいるというのだろうか。
「……好意的に思ってくれてるのは嬉しいけど、そうだね。もう少しスキンシップのレベルを下げて段階的にしてもらった方がありがたいかも」
「むぅ。添い寝はダメですのね」
「……パジャマなら、ワンチャンかな」
不満そうに頬を膨らませる鈴音。その様子が可愛らしくて、代替案を提案する悠火も大概甘々だった。
「その代わり、鈴音、自分で着替えは出来るよね?」
「あら、着替えさせてくれませんの?」
「お嬢様が魅力的過ぎて、わたしの心臓が持ちませんので」
しづしづと一礼をして、悠火はスカートの縁を摘む。
「メイドに戻りましたわね……わかりましたわ。たまに手伝って貰うくらいで手を打ちましょう」
「ありがとうございます」
たまには手伝わされるのかー。
というよりやっぱり自分で着替えられるんだ。
服を着せたりしている時に、着せてもらうのが不慣れそうだったから、それも鈴音なりの甘え方、スキンシップの一環だったのだろうと思う。
悠火が思っているより、鈴音を取り巻く環境は閉鎖的で、もしもCrescent Ark Onlineが無ければ、間接的にとはいえ、人との繋がりを得ることもなかったのだろう。だからこそ鈴音は、CAOではよく臨時パーティなんかに顔をだしていたのかもしれない。
「着替えましたわよ」
「何で高そうなパジャマって、煽情的なんだろうね」
「悠火がパジャマならいいと言ったんですわよ?」
薄手のネグリジェを着た煽情的な格好とは裏腹に、鈴音の態度が堂々としているおかげでまだマシだが、自分で言ったこととはいえ、全裸と今の格好のどちらがえっちかと問われたら、後者に軍配が上がるかもしれない。
「仕方ないね。ほら鈴音?」
眠気もかなりキテいることもあり、悠火は思考を放棄して、ベッドに入って鈴音を促す。
いわゆる、わたしの隣が空いてるよのポーズだ。
「悠火は着替えませんの?」
「仮眠だし、このメイド服も着心地いいしね。ていうかベッドふかふか過ぎ」
自然な流れで悠火の隣に入ってきて、背中に手を回してくる鈴音に心臓の鼓動が若干早くなるものの、薄布一枚あるだけで、だいぶ心持ちが変わってくるのだから不思議だ。うん、やっぱり全裸じゃなくてよかった。
「起きたらレベルを100までは上げないとね」
「そうですわね、そこから10上げるのはきついでしょうしね」
「100以降は1上げるだけでも地獄だしね……ふぁ」
気を抜いたら一気に眠気が襲ってきて、悠火も鈴音の背中と頭に腕を回し、艶やかな黒髪を撫でる。
「……ふふっ、悠火、くすぐったいですわ」
「んふ……さらさら……ふへへー……」
そのまま夢の中に旅立ってゆく悠火に鈴音は穏やかに微笑む。
「……悠火が望むなら、わたくしは毎日添い寝してあげてもかまいませんわよ」
「すぅ……すぅ……」
返答として返ってきた寝息に、鈴音は微笑みを柔らかな苦笑に変えて、悠火のおでこに手を当てる。
「まったく、しかたのない人ですわね……」
様々な感情がないまぜになった言葉を呟き、鈴音も睡魔に身を委ねる。
やがて、2人の寝息だけが穏やかな部屋の中に静かに響く。鈴音と悠火の紫色と白色の髪が、呼吸に合わせてまるで細波のように混ざり合ってゆくのだった。
夜の20時過ぎ。
空には重なり合った大きな二つの月が、まだまだプレイヤーの活気で溢れる夜の[ルカルディア]を明るく照らしている。
中央大陸の[シルフォニア]の首都、[セインフォート]の隅に、怪しげな洋館の外見をした図書館が存在する。
何故そのような外観になったのかというと、どうやら悠姫が休止していた時にこの図書館がハロウィンイベントのキーポイントとなっていて、そのまま残されたらしい。
「――ということですの」
そこに集められたギルド[Ark Symphony]のメンバーは、悠姫とリーンから[レグルスの遺言]以降に起こった話を聞いていた。
「そんなことがあったんだね……」
一通りの説明が終わり、リコが神妙に頷いた。
「それよりも、ユウヒ様……キャラがロストするって本当なんですか!?」
話を聞いて、一番悲痛な表情をしているのは、予想通りではあったが、シアだった。
悠姫が休止していた間、ずっと悠姫のことを待ち続けてきた彼女にとって、[欠橋悠姫]が消えてしまうというのは、覚悟をして納得している悠姫よりも衝撃を受ける出来事だった。
「……うん、ごめんね、シア」
「そんな……」
因みにリーンの提案で、キャラロストも[レグルスの試練]から連なるチェーンクエストの一環で、進める為には必要だったという話にしてある。
騙しているようで心が痛むが、その良心の呵責の甲斐もあってか、心情を勘違いしてくれたようで、シアも皆もすんなり信じてくれたようだ。
既に悠姫とリーンのレベルは100まで上げられており、装備も[人体実験研究所]をはじめとしたダンジョンで落ちた100装備で固められている。
「クエストをキャンセルするって選択肢もあったけど、色々とチャンスでもあったから。勝手に決めちゃって、ごめん」
まともに攻略するとなると、不可能な難易度の[聖櫃攻略]を、唯一攻略することができる可能性があるのだ。
[レグルスの試練]からこちら、世界の真理に触れて、フィーネの立ち場を知り、より彼女の力になってあげたいと思えた。
そもそもの話として[聖櫃の姫騎士]という[メインクラス]を得た時から、[第一の聖櫃(クラリシア=フィルネオス)]の騎士として、彼女の為に戦うと決めていたのだ。
そうでなければ彼女と約束なんてしていないし、CAOにもどハマりすることもなかっただろう。
「それにほら、キャラが消えてもCAOをやめるわけじゃないし。むしろみんなのセカンドキャラと一緒にレベル上げ出来たりするしね?」
「それはそうでござるが……」
「セカンドキャラってなーに? ゆうおねーちゃん」
聞き覚えのない言葉にアリサが疑問符を浮かべる。
問いかけられて、そういえばそうか、と悠姫は常識を見つめ直す。
「このゲームはキャラ選択画面とかありませんものね、最初は」
「だね。最初は1キャラだけだもんね」
「因みに俺はもう作ってはいるな。作るだけ作って、レベルは一切上げてないが」
「久我、早いね」
「面倒なサブクエは先にやるのが信条だからな」
ドヤ顔の久我とは対極に、疑問符を浮かべたままのアリサに悠姫は説明してゆく。
「セカンドキャラは、特定のクエストを終わらせると作れるようになるんだ。CAOではメインとサブキャラの2キャラだけだけど、別にサブキャラ、セカンドキャラだから何かしらの制約があるわけでもないから、純粋に2キャラ目が作れるようになるってだけだね」
「メインキャラがレベル100達成したらクエスト解放なので、結構敷居は高いですけどね」
「やろうと思えばみんなサブキャラ作れるレベルではあるね」
こういうゲームにしては、特殊な仕様だと思う。
この仕様に関しては、賛否両論あるので中々評価しづらいところがある。
賛成派の意見としては代表的なところで、慣れるまでに交流の機会が増えることや、キャラに愛着が湧きやすいだったり。逆に否定派の意見は、純粋にサブキャラで商人等を作って利便性を上げにくいことや、ライトに違う職を試すことができない事などだ。
正直どちらの言い分も理解できるので中々に難しいところである。
「大体は利便性で商人系を作って、ソロ狩りの生産性を上げたりする感じだけどね」
かくいう悠姫もそんな感じだった。
商人系が持つ[交渉]スキルは、NPCとの取引価格に、30%の補正が入るスキルだ。
購入ならば30%オフになり、換金アイテムの買取を頼めば30%増額になる。
狩りの清算でも、商人がいるかどうかで金額も大きく変わってくる他、ドロップアイテムの重量制限なんかもある為、金銭目的の狩場だと1枠を商人系のクラスにすることも多い。
「でも、この感じだとソロ活動も減りそうですし、サブキャラを戦闘職にするのもありですよね」
「確かにね。VRだとコミュニケーションが取りやすいから、商人系の知り合いが居たらサブキャラを商人系にしなくても良さそうだけど……シアは運動神経的に戦闘職出来るの?」
「……わたしが商人系で何か作りますね! ユウヒ様」
僅かに考えて、速攻で心が折れていた。
シアは筋金入りの運動音痴である。
魔職ならば可能性もあるとは思うが、前衛職などやった日には、目も当てられないことになりそうだ。
「立ち回りがぼろぼろのシアも見てみたい気もするけどね」
「そういうプレイが好みなんですね? 確かに、失敗ばかりしてユウヒ様にその都度罵られるのはアリですけど」
「成仏してくれないかなぁ」
「怨霊扱いですか!?」
悪霊でも間違い無いかもしれない。
「ともあれ、メアリーに各ギルドにも情報を流してもらってるから、わたしたちも明日に向けて連携訓練をしたいんだけど、みんな時間とか予定とか大丈夫?」
悠姫の問いかけに、皆一様に賛同の意を露わにしてゆく。
「とりあえず余ってる100装備を分配するね」
言って、悠姫とリーンは手持ちの装備を全員に配ってゆく。
「アリスとアリサとひよりんは後少しで100だから、一旦別行動かな。行き先は[神々が遺棄した島]だから、桟橋まで行きつつレベリングした3人以外も連れて行かないとだしね」
「うーわ……」
リリカがまたこの人は……といった様子で、ドン引きした声をあげていた。
「待って待ってリリカ。空いた時間でリーンと行ってみたけど、意外と、これが、なんとか、ギリギリ練習になりそうなんだよね」
[聖櫃攻略戦]の[尖兵]と互角以上ともなると相手は限られてくるが、レイドだと時間がかかりすぎる。
その点[神々が遺棄した島]ならば、敵の強さ的には十分すぎるほどだ。
「リーンさんの話によると、ステが全体的に200くらい加算されてて自己バフのスキルもあるんですよね? それでギリギリって、いったい何想定のフィールドなんですかねぇ……」
それに関してはシアの意見には完全に同意である。
フィーネにも確認したが、[神々が遺棄した島]は、[楽園]に繋がるようなギミックもなく、純粋に超高難易度の狩場となっているらしい。
「パーティはリーンとわたしとで分けて、こっちはシアとニンジャ、久我。レベリング組が合流したらひよりんとアリサをもらう感じかな」
「じゃあもう一つのパーティはリーンさん、わたし、リコ、アリスちゃんの4人だね」
「今回は誰か呼んだりしないんだな?」
「本来あるべき力ではないからね。うちのギルドだけでいいでしょ」
「それもそうか」
もとより借り物の力である。お祭り騒ぎの前回とは違い、今回の[聖櫃攻略戦]は、言ってしまえば悠姫の私情でもある。
メアリーに頼んで多方面から情報を流しているとはいえ、参加人数は未知数ではあるし、人数がいたところでどうにかなるものでもないのが、[聖櫃攻略戦]というものである。
猶予もあと1日しかないともなれば、むしろ時間が惜しい。
「さてと……時間もないことだし、準備ができたら行こうか」
「了解ですわ」
「わたしたちもすぐ追いつきますからね! ゆうちゃん!」
宣言するひよりの言葉と共に、悠姫たちはたまり場となっている図書館を後にして、[神々が遺棄した島]へと向かう準備を始めた。