エピローグ1[ルカルディア]
こつ……こつ……と、力ない足音が第一の聖櫃に響いていた。
足取りは引きずるように、重い。
けれども聞かなければならないことがあった。
そして辿り着いた最奥。
「悠姫様……」
小さな肩をさらに落として、名前を呼ぶフィーネに、悠姫は喉元まで出かかっていた憤りをぐっと堪える。けれども、
「フィーネ……」
飲み込み切れなかった言葉が、絞り出されるように、壊れた聖櫃のフロアへと響いた。
「……この世界は、何なの?」
――あと後、悠姫とリーンはいきなりいなくなった二人を心配する面々の前に戻され、インターフェイスも元に戻り、身体の傷も嘘のように消えていた。
すぐにでも第一の聖櫃に行きたかったが、これだけ人を集めておいては抜けることは出来なかったので[レーヴァグランホエール]へ挑戦したはいいものの、やはりボロボロに負けて、皆で温泉街に戻って来たのが数十分前の出来事。
リーンも一緒について来たいと言っていたが、あまりに憔悴した様子だったこともあって、必ず報告することを条件に、リーンだけは先にログアウトしてもらった。
本音を言うならば、悠姫もログアウトしたいくらい疲労が限界だったが、どうしてもあの場所について、フィーネに聞かなければならなかった。
「[第十二の聖櫃(エンカード=レグルス)]はルカルディアを奪われたって言って、[第十一の聖櫃(ウィニード=ストラトステラ)]は、願わくば、君が再びこの扉を開かんことを、って言ってた。それに[第三の聖櫃(トリアステル=ルイン)]の影だって……フィーネ、他の神々は、この世界を捨てたんじゃないの?」
「ウィニー……ルイン……そして、レグルス……」
懐かしい名前を聞いて、フィーネはトリアステル=ルイン。ウィーニード=ストラトステラ。懐かしき彼ら彼女らの名前を寂しそうに呟いた。
しかし、エンカード=レグルスだけは、何か違ったニュアンスが含まれていたように、悠姫は感じた。
「悠姫様。真実を知っても、わたしの騎士でいていただけますか……?」
そう言って、見つめるフィーネの手は震えていて、悠姫はその手を取り、頷く。
「わたしは何があっても、フィーネの味方だから」
答えは最初から決まっている。
「ありがとうございます……悠姫様」
そして、フィーネは語り始める。
壊れたオルゴールの音色が響く[第一の聖櫃]の心臓部で、
「――この世界[ルカルディア]は、本当の[ルカルディア]ではないのです」
壊れた世界の歴史を。