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Crescent Ark Online  作者: 霧島栞
第三章・上[心の在処]
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プロローグ[噂]

 ――かつて六日(悠久の時)で世界(ルカルディア)を創った神々は、最後の一日(刹那)で世界(ルカルディア)を捨てた。


 神々が何を見て、何を想い、何故ルカルディアを棄てたのかは諸説あるがどれも明確な歴史としては刻まれておらず。情操教育の一環のように大陸ごとに異なった歴史が紡がれ、残された人類にとって都合の良い物語が綴られている。


 その中でも中央大陸として他の四つの大陸の文化を取り入れた大陸、シルフォニア大陸に記された歴史書にはこう記されている。


 神々の時代に空を覆っていた方舟。


[欠けた十一の聖櫃(クレセントアーク)]によって世界から神々が消えたその日。


 神々によって繁栄していた大地は祝福を失い、中央のシルフォニア大陸を初めとした4つの大陸全土は異界からの脅威に襲われることとなった。


 突如として人類に牙を剥き始めた悪魔や魔物や魔獣。中にはかつて神々に仕えていたはずの神獣の姿もその中にはあり、楽園に生きてきた人々にはその異界からの脅威に抗う力が存在せず、世界の滅亡はもはや避けられぬものと思われていた。


 だがしかし。


 世界を捨てた神々の全てが、この世界を見限った訳ではなかった。


 世界を去った[欠けた十一の聖櫃]とは、元は[十二の聖櫃]からなる神々の住まう方舟で、その十二の神々が各々の権能を使いこの[ルカルディア]という世界を創ったのだ。


 そしてそのうちの欠けた一つの聖櫃が、世界に人を創りし[第一の聖櫃(クラリシア=フィルネオス)]であり、世界を祝福していた十二の神々のうち、彼女だけがルカルディアを見捨てることなく空の遙か彼方にその方舟を浮かべて新しい人類を創り上げた。



 ――それはCrescent Ark Online[クレセントアークオンライン]。


 通称CAOと呼ばれるVRMMORPGに存在する仮想世界の骨子となる背景であり、公式サイトの紹介でも描かれている世界観でもある。


 広い世界を旅して様々な景色を見ることが出来る仮想世界。


 美しく、広大なルカルディア。


 そんな仮想世界には様々な物語――クエストが存在し、クエストとはその世界に生きる人々の歴史や、世界の歴史に触れることが出来る、プレイヤーが[ルカルディア]という世界を知るためには無くてはならないコンテンツである。


 クエストとはオンラインゲーム全てに必須なコンテンツであり、プレイヤーと世界を繋ぐ掛け橋でもある。クエストを通して、人から人へと伝えられた物語を遡り、世界に触れることのなんと素晴らしきことか。


 中にはクエスト偏執狂とまで呼ばれるクエストリストを埋めることだけに生きがいを感じるようなプレイヤーも存在するが、そういった一部のプレイヤーのことはこの場では置いておく。


 さて、クエストを受けて世界に触れることが素晴らしいというのは、CAOでも名前が知れた廃人プレイヤー欠橋悠姫も大いに賛同するところであり、むしろ彼女は誰よりも[ルカルディア]を愛し、その歴史を知りそして世界の謎を解き明かしたいと思っていた。


 かつて世界を創った十二の神々。


 世界中のどこの書物を漁ってもそこには彼らが世界を愛していた歴史しか記されておらず、時折不穏な歴史があれども、それは彼らが世界を捨てる理由に値する物かと言えば答えは決まってNOだった。


 中央のシルフォニア大陸を初めとした他の大陸、小さな街や村、かつて集落だったフィールドダンジョンや廃棄された遺跡に至るまで。書物の形跡があるところの本は全て読んでみたがけれども決定的な歴史はどこにも存在しなく。


 むしろ読めば読むほど、彼らがどれだけ世界を愛していたのかがわかって、謎は深まるばかりだった。


 世界を愛して、人々を愛して、共存の道を歩んでいたはずの彼らは――けれども唐突に世界を捨てたのだ。


 まるでその歴史だけ隠蔽されたかのように、例えるならば真相が書かれた本のページが切り取られているように、神々が世界を捨てた理由はどこにも書かれていなかった。


 不自然に途切れた文書にも、伝えられている伝承にも、どこにも神々が世界を捨てた理由は存在しなかった。


 神々がそれほどまでに徹底して隠している真実。


 何故、神々はこれほど美しい[ルカルディア]を捨てたのか。



 ――悠姫はその理由が、知りたかった。



 CAOのVR化大型アップデートが行われてから二週間。

 プレイヤー同士の諍い問題もおおよそ収束し、ようやく穏やかな雰囲気が[ルカルディア]に訪れていた。


 生産職のプレイヤー達も活動に十分な程度にレベル上げが終わり、露店も活性化してきて、シルフォニア大陸の首都セインフォートにはプレイヤーの声が途切れることが無いほどの賑わいを見せていた。


 レイドに行っているのであろうギルドのお抱え露店などにはちらほらとレアアイテムやレアな装備も出てきていて、露店通りは今や人が多すぎて、割って入るにはちょっとした覚悟が必要なくらいになっていた。


 そして露店のレアアイテムに触発されたプレイヤーが、我もとあちこちに冒険に出かけることが増え、そのための臨時パーティが組まれることも以前よりさらに多くなった。


 交流の機会が増えれば、人と人を繋ぐ輪はどんどんと広がってゆく。


 しかしなんというか。


 人という生き物は平穏な時間が続くと、逆に何か面白い話、新しい刺激は無いものかと貪欲になってゆく生き物で。


 新生CAOのサービスが開始されてから僅か二日で[第一の聖櫃]が開放され、ウィークリーコンテンツである[聖櫃攻略戦]も開始された。


 さらにはそこから二週間後にはプレイヤーズイベント[第一回コロッセオ対抗戦]が行われ、ギルド間の諍いに決着を付けると同時に、廃人プレイヤー欠橋悠姫の名前をより多くのプレイヤーに知らしめることとなった。


 そうしたイベントがあったからこそ新生CAOの住人達は皆、次に何か面白そうなことが無いかと個人個人でセンサーを広げていたのだ。


 そしてそれと関係があるのかないのか、その時にはまだ囁かれる程度にだが、公式サイトの掲示板の片隅で奇妙な噂が交わされるようになってきていた。


 その噂話というのはいくつかのダンジョンの奥深くで女性の影を見つけたという――いかにもな[幽霊]に関するものだった。


 現実世界で[幽霊]の噂となれば、そのほとんどが眉唾物ではあると笑い飛ばすことも出来る。が、けれども[ルカルディア]では[幽霊]という概念はそう珍しいものではなく、ゴースト系モンスターや、死者が現れるクエストというのはさほど珍しいものではない。


 けれども少々気になる記述がその[幽霊]の書き込みの中には存在していた。



『――ダンジョン:[ジェイルの監獄]の最下層。そこで見つけた女性の影が突如襲い掛かってきて、一撃で何度も死ねるほどの魔法を放って来た――』



[監獄]の最下層は要求レベルが80くらいの、六人パーティで挑むことが推奨されているダンジョンだ。


 VR化以前は[監獄]にそういった女性の影のモンスターは存在しない。それどころか、魔法一発で何度も死ねるほどのダメージを与えてくる敵など数えるほどしか存在しない。



 そんな、何やら不穏な雰囲気を孕む[幽霊]の噂が掲示板の片隅で囁かれている時。



 別の意味で話題沸騰中である有名人、欠橋悠姫が何をしているのかといえば――


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