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Crescent Ark Online  作者: 霧島栞
第二章[魔法使いの夜]
13/50

プロローグ[世界の予兆]


 ――Crescent Ark Online[クレセントアークオンライン]。略称CAO。


 それはMMORPG[Massively Multiplayer Online Role-Playing Game(マッシブリーマルチプレイヤーオンラインロールプレイングゲーム)]大規模多人数同時参加型 オンラインRPGというジャンルでシェアを得ていたオンラインゲームの名称で、そのオンラインゲームは近日に行われた大型アップデートで、めでたくもVRMMORPGへと進化した。


 CAOの背景(バックグラウンド)は様々な既存の神話と、運営が創ったオリジナルの神話が折り混ぜ込まれた[神々の物語]が元となっている。


 ――かつて六日(悠久の時)で世界(ルカルディア)を創った神々は、最後の一日(刹那)で世界(ルカルディア)を捨てた。


 神々が何を見て、何を想い、何故ルカルディアを棄てたのかは諸説あるがどれも明確な歴史としては刻まれておらず。情操教育の一環のように大陸ごとに異なった歴史が紡がれ、残された人類にとって都合の良い物語が綴られている。


 その中でも中央大陸として他の四つの大陸の文化を取り入れた大陸、シルフォニア大陸に記された歴史書にはこう記されている。


 神々の時代に空を覆っていた方舟。

[欠けた十一の聖櫃(クレセントアーク)]によって世界から神々が消えたその日。

 神々によって繁栄していた大地は祝福を失い、中央のシルフォニア大陸を初めとした4つの大陸全土は異界からの脅威に襲われることとなった。

 突如として人類に牙を剥き始めた悪魔や魔物や魔獣。中にはかつて神々に仕えていたはずの神獣の姿もその中にはあり、楽園に生きてきた人々にはその異界からの脅威に抗う力が存在せず、世界の滅亡はもはや避けられぬものと思われていた……。

 ――だがしかし。

世界を捨てた神々の全てが、この世界を見限った訳ではなかった。

世界を去った[欠けた十一の聖櫃]とは、元は[十二の聖櫃]からなる神々の住まう方舟で、その十二の神々が各々の権能を使いこの[ルカルディア]という世界を創ったのだ。

 そしてそのうちの欠けた一つの聖櫃が、世界に人を創りし[第一の聖櫃(クラリシア=フィルネオス)]であり、世界を祝福していた十二の神々のうち、彼女だけがルカルディアを見捨てることなく空の遙か彼方にその方舟を浮かべて新しい人類を創り上げた。


 それがCAOで言うところのプレイヤーという存在だ。



 そしてCAOがVR化されて二日後。


 CAOで有名な[欠橋悠姫]というプレイヤーによって、早すぎるタイミングで[第一の聖櫃]が解放された。


 またそれにより[ウィークリーコンテンツ]、[聖櫃攻略戦]も解放され、新生Crescent Ark Onlineはまずまず順調な滑り出しを見せていた。



 ……が、しかしやはりインターフェースががらりと変わると、問題も出てくる。


 システム面では奇跡的なほどにバグなどが無いにもかかわらず、元々が普通のMMORPGだっただけに、VR化に伴う変更は、良きにせよ悪しきにせよ大きな影響を及ぼしていた。


 その中でも最たる問題となっているのが、目下[ギルド]に関する問題だった。



 ――[ギルド]。


 それはオンラインゲーム内のプレイヤーが所属できる中で、一番汎用的なコミュニティのことを指し示す単語だ。


 仲間と共に狩りに行ったり、クエストをしたり、素材を集めたり、志を共にする者同士で色々なことに挑戦したり、また掲げる思想や、どういった経緯で作られたかによっても集まる人が変わり、最少では一人から、最大では時に何百人ものプレイヤーが所属することにもなる汎用性の高いコミュニティツール。


 それが[ギルド]というものだ。


 また汎用性が高いだけにオンラインゲームにおける[ギルド]の数は何百、何千と存在する。


 大半は仲の良いメンバーで作った[ギルド]が多く、そこから誰かを勧誘するもよし、仲良しグループだけで冒険するもよし、と、要するに気が合うプレイヤーたちで集まり楽しむ為に[ギルド]は作られることが多い。


 けれども得てしてそういったコミュニティというものは、所属する人数が多くなれば多くなるほど秩序の管理が難しくなってゆくものだ。


 そういった大規模な[ギルド]が、俗に言われる[大手ギルド]や[レイドギルド]括りで言われるもので、特に[レイドギルド]ともなれば統制を取るために、軍規に近い制約が課せられる[ギルド]も存在するくらいだ。


 オンラインゲーム内で何故そんな殺伐とした人間関係をしなければいけないのかとも思うだろうが、しかしそれはプレイヤーが人間同士である以上は仕方ない話でもある。


 特に古参メンバーと新参メンバーでは上司と部下といった関係に近く、時にそれは大きな軋轢を生み、ギルドの崩壊を招くパターンも多い。


 レイドボスを倒し高難易度のクエストをクリアし、その報酬として得られる装備やアイテムは、[中小ギルド]では手に入れることが出来ない、超が付くレアアイテムばかりだ。


 仲良しギルドなどの場合はレイドボスに挑戦しようと手を伸ばして、かかる経費の格差で不満を感じたり、手に入れた装備の分配で揉めて崩壊してしまうことも多く、故に[レイドギルド]ではそれらを規則で抑圧するのだが、だからこそギルド内部での軋轢というのは見えないところで延々と積ってゆき――それが、VR化と共に溢れ出したのだ。


 元は装備やプレイヤースキルの差で上下関係がはっきりしていたので問題が露呈しなかったが、VR化に伴いレベルも装備も初期値に戻り、その制約は意味を成さなくなった。


 特に[大手ギルド]や[レイドギルド]のギルドマスターやサブギルドマスター等、上層部のネトゲ廃人ほど、実際に身体を動かして戦うというインターフェースに慣れるのに時間がかかり、[ギルド]内部の力関係が崩壊してしまったのだ。


 そうなると起こるのは下剋上や革命と言った言葉に近い出来事で。


 具体的に言ってしまえば一部の大手ギルドを筆頭に、今まで抑圧されていた新人層のプレイヤーが古参の廃人層の支配を振り切り、成り上がった者達が[ギルド]という枠組みを超えて他のプレイヤーへと恐喝に近い行為を始めたのだ。


 最初こそ出だしのスタートダッシュで水をあけられていただけに目立った動きはなかったものの、それは一週間が経ちレベルが逆転し出した現在になって、徐々に徐々に[首都セインフォート]を初めとする中レベルゾーンでの狩場などで顕著になり始めた。



 ――そう、まだ[ルカルディア]を元のMMORPGのままだと思っている。


 支配から脱却した自分たちが世界の支配者だと思っている、そんなプレイヤーによって。

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