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Crescent Ark Online  作者: 霧島栞
第一章[Crescent Ark Online]
11/50

エピローグ1[ログイン]


 カツン……カツン……。


 地下、[聖櫃の深層部]へと続く階段を、一つの足音が規則正しく響いていた。


 真紅の髪を揺らして一歩一歩踏みしめるように、悠姫は一人でその階段を下っていた。



 ――[天元騎士イヴ=アンジェ]を倒してクエストを成功させた後、悠姫以外の皆は、口を揃えて先へと進むのは悠姫だけで十分だと言った。


 みんなで来たのだから、当然みんなで行くことになるだろうと思っていた悠姫にとって、その申し出は心苦しくも、けれども正直に言うとありがたい申し出でもあった。


 彼女と約束をした時も一人だったのだから、一人で会いたいという気持ちもあって、結局悠姫は皆の好意に甘えることにして、一人、聖櫃の最深部を目指していた。


「……いってらっしゃい」


 と、かけられたシアの複雑そうな声に後ろ髪を引かれはしたものの、振り切って進むこと数分。


 やがて地下へと続く階段が途切れ、中心部を囲むようにぐるりと、細い通路だけが続く空間へと辿り着く。


 その場所こそが[聖櫃の深層部]と呼ばれる空間で、一年前、悠姫がこの世界で見た最後の光景でもあった。


 閉じた天蓋へと向かって組まれた、系統樹のような模様を描く骨子が幾重にも組まれ、連なる、この世界でもっとも深淵に近い場所。


[欠けた十一の聖櫃]が世界を見限った今の[ルカルディア]で唯一の[聖域]。


 祈りを捧げてきた彼女が眠る場所。


 懐かしい彼女の姿を思い浮かべながら、悠姫は息を吸い、彼女の名前を呼ぶ。


「フィーネ、起きて」


 囁くような小さな声で、青い水晶体の中に封印された、クラリシア=フィルネオスへと呼びかける。


「――今日は最初から、フィーネと呼んでくださるのですね」


 その直後、背後から聞こえた声に、悠姫はこの世界に降り立った時に聞こえた声は、自分が[ルカルディア]に恋焦がれていたからこそ聞いた幻聴ではなかったのだと知る。


 聞いたことが無いはずなのに懐かしいと思えるその声に、悠姫はゆっくりと振り返る。


 生命の脈動を思わせる柔らかな緑色の髪に、優しげな眼差し。白と緑に彩られた装飾の少ないドレスを身に纏い、彼女は……クラリシア=フィルネオスは、悠姫を見つめていた。


「フィーネ……」


 彼女に会ったら話そうと思っていたことはいっぱいあった。


 けれどもいざ会ってみるとどれから話せばいいのかわからなくて、悠姫は言葉に詰まってしまう。


「そんなに緊張しないでください。……と言っても、私も、初めて悠姫様に会うのなら緊張してしまっていたかもしれませんけど」


「……え? どういうこと?」


 そう言ってくすりと笑うフィーネに、悠姫は思わず問いかける。


「――一年前。悠姫様はここで、この世界からログアウトされましたよね」


「そう……だね」


「だからまたログインされた時にすぐに会いたかったので、悠姫様のセーブポイントをここに設定しておいたんです」


「……え?」


 そう言ってくすくすと少女らしく笑うフィーネの様子もそうだが、フィーネがそんな権限を持っていることにも悠姫は驚く。


「あ……でも、ということは、もしかしてわたしが死んだ時にフィーネの声が聞こえていたのって……っ!」


「はい。悠姫様のセーブポイントはここに設定されているので、進入不可地域へと入ってセインフォートへと戻されるまでの間に、声をかけさせていただいていました」


「そうだったんだ……」


 まさかの事実に驚くと共に、悠姫はそれだけ気にかけて貰っていたことを申し訳なく思う。


「ごめんね……ずっと寂しい思いをさせて、待たせちゃって……」


 けれどもその謝罪にフィーネは首を横に振る。


「いえ……寂しく無かった、って言えば少し嘘をついてしまうことになりますけど、悠姫様が約束してくれた。会いに来てくれる。約束を交わすことが出来る人が居る。――それだけで私は希望を失わなくて済みました。それだけで、私は報われたのです」


 フィーネが一歩近寄ってきて悠姫の手を求める。


 悠姫は求められるままにその手を――様々な権能を持ち、人類を創り上げた神とは思えないほどにか細い手を取る。


「――おかえりなさい、悠姫様」


 ……こんなの、反則だ。


 本来ならば悠姫がもっと気を使ってあげるべきだったのだろうが、そんなものはフィーネの言葉一つであっさりと吹き飛んでしまった。


 微笑みながら言ったフィーネの言葉に、堪えきれず涙がこぼれるが、その流れる涙さえも笑顔に変えて、万感の思いを込めて悠姫も言葉を返す。


「――ただいま、フィーネ」


 けれどもしかし、その直後、


『――パーティ名[遥か彼方へ]のパーティリーダー[欠橋悠姫]により[第一の聖櫃]が解放されました』


 というアナウンスと続けて、


『それに伴い[ウィークリーイベント]、[聖櫃攻略戦]が解放されます――』


 というアナウンスが流れ、悠姫はぽかんとした顔で暫し思考が追いつかずにフリーズする。


「……え? ……え!? な、に!? ええええ!?」


 そして事態が飲み込めた瞬間、再会を果たせたフィーネの前だという事も忘れて、悠姫は思いっきりそう叫んだ。


「がんばってくださいね。――私の[聖櫃の姫騎士]様」


 そうしてどこかいたずらっぽいフィーネの言葉と共に、悠姫は大々的にCAOへと戻ってきたことを知られることになるのだった。


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