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第8話 快感と怒りと偽り

 あたしは1人でにやにやと笑みを浮かべていた。憎い誰かをいじめる事が、こんなに楽しい事だったなんて、知らなかった。もっと苦しめて、もっと痛めつけて、もっと傷つけてやりたい。 もっと楽しみたい。もっと優越感に浸りたい。あいつはこれから先ずっと、あたしのおもちゃだ!

 1限目が終わり、10分間の短い休憩時間になった。 すぐさま自分の席を離れ、片手で肩にかかった自分の髪の毛を払いながら、美衣子に声をかけた。


「美衣子」


 美衣子は、大慌てで振り返った。……あたしを見つめる目が小刻みに震えている。何だか凄く嬉しくなるわ、その表情カオ


「ねぇ……数学の課題、できないって言ってたでしょ? 手伝ってあげようか」

 

 なるべく優しげに微笑んだおかげで、美衣子はすぐに肩の力を抜いて、あたしに笑いかけてきた。


「え、ほ、ほんと? あ……ありがとうっ」

「いいよいいよ」


 笑顔でノートを受け取り、そこに並んだ問題をひとつずつ解いていく。問題を笑顔で解いていたら、沸々と怒りがこみ上げてきた。

 あたし、もしかしてこいつに、利用しやすい女だと思われてたのかな? 雪山先輩の恋バナを真剣に聞くフリをしたり、あたしの恋を応援するフリをしたり……。今までずっと、『るぅちゃんなら何も分からない』……そう思われてたのかな?

 そんなことを考えていたら頭に血がのぼって、問題を解き間違えてしまった。 苛立ったあたしは消しゴムを探すため、乱暴に自分の筆箱の中を漁った。


(あれ? 無い……あ、そっか)


 ……思い出した。あたしの消しゴムはさっきこいつに“支給”したんだった。


「美衣子。消しゴム貸して」


 苛立ちを隠そうともしない声でそう言って、片手を美衣子の方に突き出した。美衣子は一瞬どきりと肩を震わせ、慌てて頷いた。


「あ、う、うん! ええと……ど、どれ、だったっけ?」

「どれでもいいわよ! 早く貸して!」

「う、うん。じゃあ、これ……で、いい?」


 美衣子が差し出してきた薄汚い消しゴムを受け取って、ノートをこする。その消しゴムはとても消し難く、あたしの苛立ちを更に煽った。


「もう! なんで消えないのよ!」


 あたしがそう叫んで力いっぱいノートをこすった途端、大きな音がした。力を入れすぎてしまったせいでページが真っ二つに破れたのだ。 美衣子が、大きく目を見開いて、あたしの顔とノートを交互に見ている。 あたしはその顔を見て、薄く笑った。ああ、やった。美衣子を失望させることができた。


「るぅちゃん……?」


 美衣子の、悲しみに満ちた瞳。あたしが美衣子に裏切られた時の絶望的な瞳とそっくりだった。あたしは噴出しそうになるのを堪えながら、あえて普段どおりに振る舞った。


「ごめん! ちょっと、手に力が入っちゃった。ほんと、ごめんね」


 あたしはそのまま、席を立った。声は出さず、表情だけで笑いながら、瑠夏と京子に合図を送る。瑠夏と京子は笑顔で小さく頷いて、ほうきとちりとりを美衣子に投げつけた。


「美衣子、そこ掃除しといて。あんたみたいにすっごい汚いから」


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