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第55話 着信

 アパートに帰ってきた美衣子と京子から話を聞いた瑠夏と奈々は、あまりの驚きに硬直した。


「ちょ……っそれ本当?」

「……許せません。なんで警察官になれたんでしょうね、その人」


 2人の驚きと憎しみの入り混じった言葉に、美衣子は哀しげに微笑む。


「うん、でも、もういいんだ。誰も味方になってくれないもん。大人なんてそんなものだよね。子供の話なんて聞いちゃくれない。……良く分かったよ」


 瑠夏と京子と奈々は困り果てて顔を見合わせた。部屋の中は静まり返った。重苦しい空気。

 その時、美衣子のポケットから流行の曲が流れ出した。それは美衣子の携帯電話の着うただった。美衣子は首を傾げながら携帯電話を取り出した。


「……あれ、誰だろう? ちょっと待ってね、みんな。……はい、もしもし?」


 耳に携帯電話を押し当てた瞬間、美衣子はハッと両目を見開いて蒼ざめ、涙目になった。異変に気づいた瑠夏が眉を顰めて美衣子に近寄る。


「ど、どうしたの、美衣子」

「……っ」


 美衣子は、瑠夏たちにすがりつくような目を向けて、声を小さくして、答えた。


「い、今の声……、あの男の、声……っ」


 それを聞いた3人も、顔を蒼ざめて、うそ! と掠れた声で悲鳴をあげる。3人は声のボリュームを絞って、向こうに聞こえないように話し合いを始めた。


「そ、それってまさか、夜部屋に侵入してきたっていう……?」

「う、うん。……間違えるわけ、無いよ……。絶対、あいつの声!」

「……美衣子、早く切って。それで、着信拒否に……」


 京子のその言葉に美衣子は一瞬頷きかけたが、すぐさま何かに気がついたように顔をあげ、首を横に振った。


「だ、だめ。ここで逃げたらまた同じことの繰り返しだもん」

「え……っじゃ、じゃあ、どうするの……?」


 美衣子はその問いには答えず、再び携帯電話を耳に押し付けた。


「も、もしもし」


 呆気にとられる3人をよそに、美衣子はそのまま会話を始めた。


「はい。……ええ、……。そうなんですか、……わかりました、はい、……はい、それじゃ、ええと……今日の9時にお願いします。はい……それじゃあ、失礼します」


 暫くして電話を切った美衣子は、3人に薄く微笑みかけた。


「けじめをつけるために、今夜、会う約束したの」


 それを聞いた3人は大きく目を見開いて叫び声をあげる。


「……何言ってるの? 美衣子、正気?」

「うん。今日の夜9時に、近くの坂道まで迎えに来るって」

「そ、そんなの、大丈夫なの?」


 美衣子は微かに頷き、真っ直ぐ3人を見つめて頷いた。


「大丈夫だよ。私、頑張るから。危なくなったら連絡するね」

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