第40話 終了
手術開始から丁度12時間が経ち、再び看護婦さんが様子を見に来た、まさにその瞬間。睨むように見つめていた【手術中】のランプが フッと消えた。ハッとして、看護婦さんと美衣子は顔を見合わせた。
「美衣子ちゃん、ちょっと待っててね。先生に様子を聞いて……」
看護婦さんが言い終わるよりも早く、手術室のドアが開いた。手術を担当していた先生が、2人に気づいて一瞬驚いた顔をした。
「あ……院長先生。この子は雪山君の恋人の、春風美衣子さんです」
「……ああ……こんばんは、春風さん。雪山さんのご両親は?」
「まだ連絡がつかなくて……」
「……そうか……」
院長先生はそう言って、美衣子に軽く頭を下げた。美衣子も小さく頭を下げてから、慌てて先生に駆け寄る。
「先生、雪ちゃんは……雪ちゃんは!」
先生は哀しげに俯き、美衣子に向かって、深く、深く頭を下げた。
「手は、全て尽くしたのですが……、残念ながら……」
美衣子の目が、大きく見開かれる。今目の前にある世界と、自分の脳内に思い描いていた世界が大きく音を立てて切り離された気がした。
「う、嘘……で、しょ?」
そう呟いた美衣子は、院長を押し退け、手術室へと飛び込んだ。部屋の中には血の臭いが充満している。
「雪ちゃん、雪ちゃん! 雪ちゃん!」
沢山の看護師達が、雪山を寝かせているベッドの周りに立っていた。だらりと垂れた雪山の両手が見える。青白い手だった。雪山の体には大きな布が被せられていた。
「こ、こら、君! 手術室には立ち入り禁止だ!」
「早く出て行きなさい!」
美衣子は看護婦や看護師の傍をすり抜けて、雪山の体にかけられた大きな布を引き剥がした。その瞬間目に飛び込んできたのは、変わり果ててしまった雪山の姿だった……。
それを見た美衣子は腰が抜けて、その場に蹲ってしまった。
「ゆ、き……ちゃん……、」
ただ一言そう呟いて、美衣子はその場に倒れ込んだ。




