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第33話 信じられない言葉

「……失礼します」


 校長室に入った雪山を待ち受けていたのは、この中学校の全職員たちだった。沢山の大人の視線が、揃って雪山を見る。その威圧感に、少し怖くなった。


「雪山くん、そこに座りなさい」


 校長に指示を出され、雪山は俯き加減で頷き、校長の目の前にある椅子に移動した。


「……」


 椅子に腰掛ける。……先生たちの視線は、変わらず雪山に突き刺さっている。とにかく居心地が悪い。この部屋から、早く出たい。

 校長1人だけならまだしも、こんなに沢山の大人たちに見つめられると、自分は悪くないはずなのに、何故か不安になってくる。


「……で、なんなんスか?」


 思わず、反抗的な声が出た。雪山は校長を強く睨みつける。……沢山の大人たちの視線に抗うかのように。

 校長は小さく頷いて、雪山の目を真っ直ぐ見つめた。


「雪山くん。非常に残念なんだがね……君の処分が、今朝決定した。……君は、」


 校長先生は暫く口を閉ざし、言い難そうに首を振った。その態度に不安と焦りの感情をを抱いた雪山は、思わず椅子から立ち上がった。


「校長先生! ……はっきり、言ってください」


 更にその後、沈黙が続き―――……。校長は顔を伏せて、静かにこう告げた。


「君をこの学校に通わせ続けるわけには行かない。君には、他校に転校してもらう事になった」

「……転校?」


 雪山の目に写る景色が、一瞬で色を失った。体が震え出し、足元がふらつく。ざわつく先生達の声も、外から聞こえる生徒達の声もチャイムの音も、全ての音がその瞬間、一瞬だけ聞こえなくなった。


「……校長先生」


 雪山は、強く両手を握り締めて、小さく笑みを浮かべた。しかし、その顔色は酷く悪い。


「なんだね?」

「それ、何の冗談ですか? 笑えませんけど」


 そうだ、これは冗談だ。悪い夢だ。俺は美衣子を護るって決めたんだ。あいつの為に、卒業までこの中学で頑張るって決めたんだ。それなのに……こんなことがあってたまるか。


「嘘だと言って下さい!」


 叫び声をあげ、すがるように校長の目を見る雪山。しかし、校長は静かに首を横に振り、言った。


「いいや、嘘や冗談ではなく、本当だ。君のような優秀な生徒を失うことは、本当に残念なんだけれどね……」


 その言葉を聞いた雪山の頭の中が、真っ赤に染まっていった。何も考えられなくなり、いつの間にか怒鳴り声をあげていた。


「嘘だ!」


 椅子から乱暴に立ち上がり、校長の胸倉を掴む。校長の顔に唾を飛ばしながら、必死に雪山は怒鳴り続けた。


「嘘だって言えよ! ふざけんじゃねぇぞ!」


 すぐさま周りの先生に押さえつけられ校長から引き剥がされたが、それでも尚、雪山は校長の方に両手を伸ばす。校長は乱れたネクタイを結び直しながらハンカチで額に浮かんだ汗を拭い、雪山に背を向けた。


「教室から荷物を取ってきなさい。保護者の方には連絡を入れてあるから、すぐ来て下さるだろう」

「っおい、待てよ、ふざけんなよ、なんだよ、それ、勝手に……そんな……嘘だろ? なあ、嘘だろ!」


 辺りの景色が涙で歪んでいく。まさかこんな事になるなんて―――……。


「俺は、俺は……っ……ただ、あいつを……あいつを護ろうと、思っただけなのに……」


 これから先は、すぐ傍で美衣子を護ってやることが出来ない。その事実が何よりも辛くて苦しくて、雪山は大声をあげて泣いた。


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