第32話 うわさ
いくら次の日が来て欲しくなくても、必ず日は昇る。今日も朝がやってきた。雪山は、朝日に照らされながら、重い鞄を引き摺って登校した。
校舎に入ってから廊下を歩いている間、周りの目が自分に突き刺さっていることに気がつくのにはそう時間はかからなかった。
「なんだよ、何見てんだよ」
凄みのある声でそう言うと、後輩達は首を横に振りながらにたにたと笑った。
「なんでもないっすよ」
「雪山先輩、せっかく停学あけたのに残念っすね」
「あ?」
「ははっ、俺たち、全部知ってるんすよ? ってか、多分先輩の事件知らない人、もうこの校舎内にはいないと思います」
昨日の出来事は、全校の生徒達に知れ渡ってしまっているようだ。雪山はあからさまに不機嫌な顔をして、後輩達を睨みつけた。
「うっせぇな。どけよ」
後輩を突き飛ばし、教室に辿り着いて、扉を開く。……一瞬静まり返った教室内。雪山が席に着いた途端、辺りから冷やかしの声が上がった。
「よぉ。 ストーカー雪山」
「今日も2年の葉山、ちゃんと登校してるぜ? 会いに行かなくていいのかよ」
「なんか、こんな真面目な雪山があんなことするなんて意外だよな」
笑い声をあげるクラスメイトたちを殴りつけた雪山は、クラス内にいる全員を睨みつけた。
「黙れ! あんなのデマに決まってんだろ!」
雪山が叫んだ瞬間、スピーカーから放送が流れた。
『3年A組、雪山拓正くん。至急校長室まで来てください。繰り返します。3年A組雪山拓正くん。至急校長室まで……』
……最悪のタイミングだ。雪山は鞄を乱暴に机に置いて、その場から逃げ出すように教室を出た。クラスメイトの笑い声が雪山の背中を追いかけてくる。歯を食いしばりながら、雪山は校長室へと向かった。




