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第31話 校長室

 雪山が担任に連れてこられた場所は校長室だった。


「なんで校長室になんて連れて来たんですか、先生!」

「……いいから入りなさい。話はそれからだ」


 渋々校長室に入り、校長の目の前の椅子に腰掛ける。目の前には校長、左隣には担任、右隣には体育教師。


(一体、何だってんだよ)


 雪山が小さく溜息を吐くと同時に、校長が口を開いた。


「雪山くん。2年生の葉山涙にストーカー行為をしていたというのは本当かい?」

「はぁ?」


 思わず両目を見開いて、立ち上がりかける雪山。慌てて担任の先生と体育の先生がそれを止めた。雪山は歯軋りをして、再び椅子に座った。


「私たちも、信じたくは無かった。君を信用していたからね。生徒会長、成績優秀、そして後輩にも慕われる優しい先輩。このままならばきっと、受験も滞りなく済むだろう。そう思っていた矢先に……葉山涙に痴漢行為をしたという連絡が入った」

「違っ……、あれは誤解なんです! 俺がやったんじゃない、あいつが自分で……」

「しかし、葉山以外の女子達も証言者だ。それに今回の事もある。……真実だと認めざるを得ない」

「違います! 俺は本当にやってません。あいつらもグルで……!」

「君の証言を裏付ける証拠は、どこにあるんだね?」


 雪山は首を垂れ、今度は大きく溜息をついた。


「これ以上話していても埒があきません。話の続きをお願いします」

「……あぁ」


 校長は両手を机の上で組んで、じっと雪山を見た後、口を開いた。


「本当は、“また何をされるか分からないので言わないでほしい”と葉山は言っていたんだが、こうなった以上、伝えさせてもらうよ。先程、葉山が写真を持ってきて泣きながら私に言ったんだ。“実は私、雪山先輩にストーカーされてるんです”……とね。震える手で差し出してきたあの写真に写っている君を見て驚いた。いつもの君からは想像もつかないような非行の数々……」

「だから、俺はやってないって言ってんじゃねぇか!」

「……落ち着きなさい」


 諭すようなその一言に、雪山は舌打ちをした。仕方が無いので、一旦口を閉ざす。


「それで? ……続けてください」

「この写真で君が握っている下着は、彼女の物だそうだね」

「なっ……」

「一昨日の夜、部屋の外に干していたものを盗まれていたのだそうだ。今までも何度か葉山の下着は盗まれていたらしい。まさかと思ったが、君のロッカーの中を調べさせてもらったよ」


 校長はゆっくりと、机の下から大きな段ボール箱を出してきた。目の前にダンボールが置かれる。中を覗き込んだ雪山は凍りついた。

 その中には、女物の下着がいくつも詰め込まれていたのだ。


「これが君のロッカーの中に入っていた。葉山の証言の、決定的な証拠になる」

「違う……違う! 俺じゃない! あいつがやったんだ。自作自演だ!」

「そんなことをして、葉山に何かメリットがあるのかね?」

「……っ」


 雪山は血が出そうになるほど唇を噛み締め、顔を伏せた。そうだ、証拠が無い。こんなことになるなら……会話を録音しておけばよかった。


「それに、まだ証拠があるんだよ」

「え?」


 その言葉に、雪山の瞳が見開かれた。


「君は葉山に嫌がらせの電話やメールを送っていたそうだね」

「そ、そんな事、やってません!」

「それじゃあ、これは何だい?」


 校長は机の中から、キラキラのラインストーンで彩られた、派手な赤い携帯電話を取り出した。


「これは、葉山の持ち物でね。先程、預からせてもらったんだ。メールボックスを開く許可も貰っている。もう解っているとは思うが―――……問題のメールを見せよう」


 そう言いながら校長はメールの受信ボックスを開いた。いちばん上にあったメールを開いて、それをそのまま雪山に見せ付けてくる。目線を動かし本文を読んだ雪山は、思わず校長の手から携帯電話を奪い取っていた。


『好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだ好きだお前の事が好きでたまらないお前以外には何も要らない早く俺と付き合えさもないとお前の周りの友達や家族先生もお前の前から消してやる今すぐ俺と付き合え』


 ゾッとするような、気味の悪い単語が並べられているメール。雪山はその画面を見つめて思わず呟いた。


「なんだこれ……。気持ち悪い」

「なんだ、って、お前が送ったんだろう? 雪山」

「そ、そんなわけないじゃないですか……」


 雪山は慌ててメールアドレスを確認し、嘘だろ? と小さく洩らした。yukiyama-takumasa@bocomo.ne.jp……何度も何度も確認する。間違いない。


「……一体、どういうことだよ……」


 声が震えた。

 

(これは間違いなく俺のメルアドだ。おかしい。一体どうなってるんだ?)


 雪山はポケットから携帯電話を取り出した。取り乱しているため、中々ボタンを押すことが出来ない。やっとの思いで送信ボックスを開いて、いちばん上のメールを確認する。


「嘘、だろ?」


 間違いだと思いたかった。……しかし、確かに自分の携帯電話から、見知らぬアドレスにメールを送っている。そして本文はもちろん、先程見たあの気味の悪い文章だ。雪山は蒼ざめて椅子から立ち上がった。頭を抱えて、呻き声を上げる。

 校長はそんな雪山を冷たく見上げたあとに、小さな声で、言った。


「雪山くん。君の処分はこれから職員会議で決める。今日は取り敢えず、家に帰りなさい」


 その言葉に頷きもせず、雪山はその場を後にした。校長室の扉を閉めて、自分の教室へ歩き出す。

 次の授業は移動教室だったので、教室には誰1人居なかった。鞄に荷物を詰めながら、雪山は握り拳で力一杯、自分の机を叩いた。

 ……大きな、鈍い音。手に伝わる痛み。


(くそっ……! くそっ! また……また葉山涙にハメられた。ごめんな、美衣子。俺、役に立てなかった。ごめん……ごめんな)


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