表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/83

第27話 病室

 目が覚めたら、私はベッドの上に横たわっていた。白い天井に、きつい薬品のにおい。……保健室の時と、良く似ている状況だった。

 ―――ただ、大きく違うのは、足も手も包帯だらけなところだ。少し動かしただけで、物凄く痛い。

 痛みに顔を歪めながら寝返りを打ったとき、誰かが室内に入ってきた。薄いピンク色の看護服を着たその人を見たとき、私はここが病院なのだということを理解した。


「春風さん、まだ体は痛みますか?」


 優しくそう尋ねてくる看護婦さん。私はゆっくりと首を縦に振った。


「それじゃあ、痛み止めと点滴、増やしたほうがいいかもしれないわね」


 看護婦さんが、手に持ったカルテに何かを書き込んでいく。私は虚ろな瞳で自分の腕に突き刺さった点滴の針を見つめた。


「怖かったわね。お家は残念だったけど、あなたが無事で良かったわ。命より大切なものは、ありませんからね。今、お母さんに連絡入れたところ。そろそろ来て下さると思うわ。だからもう少しゆっくり休んで……」


 その時、看護婦さんの言葉を遮るような大声が病室内に響いた。


「美衣子!」

「!」


 慌てて視線を動かすと、そこには顔面蒼白で息を切らしている雪ちゃんがいた。雪ちゃんは、泣きながら私のそばに駆け寄って、包帯の巻かれた私の片手にそっと自分の手を乗せた。


「良かった……っ美衣子が、無事で……! 俺、心配で、……心配で……っ」

(雪ちゃん……)


 嬉しさで胸がいっぱいになり、私はいつの間にか涙を流していた。心の中があたたかい気持ちでいっぱいになる。私は片手をそっと雪ちゃんの頬に当てて、喉を震わせた。


「雪ちゃん、あり……が、とう……」


 その瞬間、雪ちゃんが目を大きく見開いて私を見た。雪ちゃんの瞳に移る私の目も、大きくなっていた。今の声は……、耳に届いた、酷く懐かしく感じた今の声は……紛れも無く、私自身のものだ。私は笑みを浮かべて雪ちゃんに抱きつき、嬉しさに悲鳴をあげながら叫んだ。


「雪ちゃん! 雪ちゃん、ありがとう! 声が、声が出たよ!」

「美衣子……っ良かったな!」

「うん、……うんっ……」


 抱き合って大声で泣く私たちに気を遣ってか、看護婦さんはにっこりと微笑んで、病室から出て行った。

 暫くして、落ち着いてから、雪ちゃんが急に真面目な顔つきになり、少し辛そうに私の両手を包み込んだ。


「そういえばさ、美衣子。お前の家、……のことなんだけど」

「……うん。どうしたの?」

「警察が調べたら、灯油の臭いがしたらしいんだけど」

「……えっ?」


 灯油? ……私の家は、ストーブを使ったことは一度も無い。それなのに、灯油の臭いがした。……それは、つまり。


「……あれ、放火だったって、こと、なの?」


 怒りと悲しみで、声が震えた。自分自身で自分の体を抱きすくめて、恐怖に身を縮ませる。


「どうやら、そうらしい」


 雪ちゃんは静かにそう言って頷いた。


「そんなの、……許せない、よ! だって、私、……大好きだったのに! 思い出がいっぱい詰まった、大好きな、家だったのに……」


 泣き崩れる私の肩を抱き、雪ちゃんは真剣なまなざしで私を見つめて、言った。


「美衣子。絶対、犯人捕まえてやるから。俺が、美衣子の笑顔を取り戻すから」

「え、でも、雪ちゃ……」

「だから泣くな。……な?」


 雪ちゃんは私の頭を撫でて優しく微笑み、小走りで病室から出て行った。私は激しい痛みを堪えながら体を起こし、必死に手を伸ばして、声を搾り出した。


「雪ちゃん、待って……」


 待って。今はただ、雪ちゃんに傍にいてほしいのに……。お願い、行かないで。なんだかわからないけど、すごく嫌な予感がする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ