第26話 炎
私は、激しい息苦しさを感じて薄目を開けた。どうやら、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。目を擦りながら、はっと顔をあげる。
何か、物音が聞こえたのだ。
(なんだろう……)
振り返った私は、はっと息をのんだ。部屋の入り口付近にある本棚が、音を立てて燃えていたのだ。
(一体、どうなってるの?)
パニックに陥り、慌ててベッドから立ちあがる。良く見ると、燃えているのは本棚だけではなかった。大事にしていたぬいぐるみも、お気に入りのカーテンも、みんな燃えている。
(……何……これ? ……火事?)
やっと思考がはっきりしてきて、ようやく私は「ここから逃げなければ」、と思った。足に火傷を負いながら、窓に駆け寄って、網戸を開け放つ。悲鳴をあげて助けを呼ぼうとした瞬間、気付いた。
(そうだ―――声が出ないんだった)
自力で脱出するしかない。窓のそばに置いてあった花瓶に入っていた水を頭からかぶり、私は必死に扉をあけて、炎の道になっている階段を駆け下りた。
リビングは既に火の海だった。すぐに玄関に向かおうとした私の目に飛び込んできたのは、私の思い出が沢山詰まったアルバムだった。るぅちゃんたちと撮った思い出の写真、雪ちゃんと撮った幸せいっぱいのプリクラ―――……。そんな素敵な思い出がたくさん詰まったアルバムを、こんなことで失うわけにはいかない。手がもう熱くて熱くて仕方が無かったけれど、私は歯を食いしばりながらアルバムを手に取った。
表紙が燃えて、火がついている。それを自分の服のすそで押さえて消しながら、玄関に向かって全力疾走した。
煙と火傷で、頭がくらくらする。目が痛い、喉が痛い、腕が、足が、ぜんぶ痛い……。
鍵をあけて、扉を強く押す。チェーンががしゃりと音を立てて、私の邪魔をした。泣きそうになりながら、熱で少し溶けている熱いチェーンをつかんで外し、今度こそ外に出ることに成功した。
裸足で外に飛び出したけれど、足の裏の火傷の痛みで立っていられなくなり、私はその場に倒れこんだ。咳き込みながら、燃えて行く自分の家を見上げる。
今まで、生まれてからずっと私を支えて、見守ってくれた大好きな家が、炭に変わっていく。
煙に巻かれて、私の意識はゆるゆると途切れていった。次目が覚めたら、私はどうなっているんだろう。それを考える余裕も無く、完全に、何もかもわからなくなった……。




