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第20話 罪悪感

 それから、先輩は暫くの間学校に来ることができなくなった。後輩に猥褻な行為をした(ということになった)ため、学校側から1ヶ月の謹慎処分を受けたのだそうだ。聞いた話によると先輩は校長に、あたしたちが美衣子に嫌がらせをしていた、と必死に伝えようとしたらしい。しかし先生に話を聞かれた美衣子は何も言わず、蒼ざめて首を横に振るばかり。駅の電話にも全く証拠は残っていなかった(念のために指紋を拭き取っておいたからね)。

そしてまた、あたしたちの学校生活はまた平和なものになった。美衣子もいなければ、雪山先輩もいない。でも、あたしは実を言うとまだ満足していなかった。もっともっと、あいつらを苦しませなければ……。


「あーあ、また退屈になっちゃったね」

「え? 平和になったから、良かったじゃん」

「何言ってるのよ、瑠夏ってば。平和なんてつまんないだけじゃない」


 あたしはイライラしながら、力一杯美衣子の机を蹴り飛ばした。


「こいつが学校に来なきゃ、嫌がらせもできないしさぁ!」


 天井を睨みながら舌打ちをして、髪の毛を掴んで溜息を吐く。


「こうなったら、もう1回イタ電かけてやろうよ。来なきゃ殺すって言ってやろ」


 椅子から立ち上がり、財布を握り締めて、瑠夏たちの手を引く。


「ほら、行こ」

「……え? ま、まだやるの?」


 瑠夏が少し不安げな表情をしてあたしを見上げる。あたしは眉を吊り上げて、物凄い剣幕で怒鳴った。


「当たり前じゃん! もっともっともっと苦しませてやんなくちゃ、あたしの気は治まらないわ!」


 ……京子がゆっくりと立ち上がったのは、その時だった。京子は拳を硬く握り締めて俯いている。体が小刻みに震えているのが分かった。


「……ど、どしたの、京子?」


 瑠夏が話しかけても反応せず、京子は何かを我慢しているように唇を噛み締めている。


「何よ、京子。あたしの命令が聞けないの?」


 乱暴な口調でそう尋ねると、京子は震えながらあたしのほうに顔を向けた。その目には涙が溢れていた。顔が、何故か真っ赤に染まっている。


「きょ、京子?」


 瑠夏が心配そうに京子の手を握った。しかし、京子はその手を振り払い、小さく呟いた。


「るぅ……。もうやめようよ」

「……はぁ? 何言ってるのよ、今更」


 京子は震えながら、あたしの方に1歩踏み出してきた。その決意の固まった瞳に気圧され、あたしは1歩後ろに後ずさる。


「もう十分じゃない? これ以上何かしたら、ほんとに、……美衣子、死んじゃうかも……っ」

「……」

「声が出なくなったんでしょ、美衣子……。もう、やばいよ……絶対……こんなの……バレたらあたしたち、どうなるか……」


 友達思いの京子のことだからきっと、今までずっと美衣子をいじめている事に深い罪悪感を感じていたのだろう。でも、あたしはその涙ながらの説得に、全く耳を貸さなかった。


「ふーん、今更怖気づいたんだ? ……この臆病者!」


 あたしは京子の肩を強く押して怒鳴った。京子は悲鳴を上げて、床に尻餅をつく。床に座り込んだまま俯いている京子に向かって、あたしは冷たく吐き捨てた。


「メンバーから抜けるんだったら勝手に抜ければいいわ。でも、美衣子の次に苦しむことになるのは、あんただからね」


 スクールバッグを片手に、あたしはスタスタと教室の入り口に向かって歩き出した。瑠夏が京子の手を引いて立たせながら、慌ててあたしの方に顔を向ける。


「ど、どこ行くの? るぅ……」

「気分悪いから早退する」


 ぶっきらぼうにそう返して、乱暴に教室の引き戸を閉め、廊下を歩き出す。苛立ちで顔が真っ赤になっていくのがわかった。

 美衣子がこの世から消えちゃえば問題ないのに。そうすればみんな、あたしの仲間でいてくれるのに。今すぐ、美衣子の存在を消したい。それも、とびきり苦しませながら……。


「……よし」


 あいつらに裏切られるのも面白くないから、次の作戦はあたし1人で実行しよう。ずっとあたしの中で温めてた、この最高の作戦を……。


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