第17話 空白
「美衣子、どうなったかな?」
瑠夏がニヤつきながらあたしの腕をつついた。あたしはその問いに対して、肩を竦めて首を傾げて見せた。
「さぁ、どうなったかなあ? いっそのことこのまま自殺しちゃえばって感じなんだけどー」
「あはは、それ思った! 死ねば良いのにね。保健室で首吊りとか、ウケるー!」
あたしたちはその様子を想像し、大きな笑い声を上げた。
「アイツならやりかねないって! 頭も精神も、めっちゃ弱いからあ」
「だよね。っていうかさぁ、死ぬんだったら自分の部屋とかにしてほしいかも」
「うんうん、そうだよね! 流石に学校で死なれちゃ大迷惑だもんねー」
「死ぬなら1人で死ねって感じ?」
「言えてるー!」
腹がよじれそうになるほど笑い声をあげながら、あたしは窓の外に目をやった。
「あ、美衣子だ」
あたしの声に気づいた瑠夏が、ええ? とわざとらしく大声を上げた。
「うっそー! どこ?」
「あそこ」
あたしが指差した先には、先生に肩を抱かれるようにして、フラフラと歩く美衣子の姿があった。先生が助手席の扉を開けると、美衣子は車に乗り込んだ。ちらりと見えたその瞳には、全くと言って良いほど生気が感じられなかった。車はエンジン音を響かせて学校から走り去っていく。それを見送ったあと、奈々がぽつりと呟いた。
「相当目が……イッちゃってましたね……」
それに反応したように瑠夏が、ぷっと噴き出して
「ショックの余り精神病にでもかかっちゃったんじゃないのー?」
と冗談っぽく言って、笑った。
***
美衣子はその日から学校を休んだ。もう1週間くらい経つだろうか。だけど、誰も心配なんてしていない。何度も言うようだけれど、あたしたちのクラスはクラスメイトに関心がないから。誰が休んでても、誰がいなくても、誰も気にしない。誰も気づかない。このクラスはそんな悲しいクラスだ。こんなクラスにいる自分以外の人間なんて別にいらないし、どうでも良い。誰も、自分以外の人間なんかに特に興味を持ったりしないんだ。あたしは椅子に腰掛けたまま、両手を突き上げて大声を上げた。
「あーあ! “オモチャ”がいないと暇ぁ!」
瑠夏、京子、奈々も、頬を膨らませて頷いた。
「落書きするスペースももう無いし……」
「外靴、上履き、体操服、ジャージは全部切り刻んでゴミ箱に入れたし……」
「教科書類は……みんな、燃やしちゃいましたし……」
あたしたちは顔を見合わせて、どんよりと溜息を吐いた。とにかく、本当に暇で暇で仕方が無い。
早く来ないかなぁ……ストレス発散のための道具。