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第13話 陰湿

 

 長い授業時間が終わり、10分間の休憩時間が訪れた。机に書かれた落書きを消す為に美衣子が職員室へバケツと雑巾を借りに行ったのを見て、あたしたち4人は美衣子の机へと近寄った。言うまでもなく、更なる嫌がらせを仕掛ける為だ。まずカッターナイフの刃を思い切り出して、美衣子の机の奥の方へと忍ばせる。その後、筆箱の中のシャーペンは床に叩きつけて割り、定規も真っ二つに叩き折った。机に入っていたノートや教科書には落書きをしたり、ビリビリに破いてゴミ箱へ入れてやった。

 そこまでの作業を終えてもまだやり足りなかったあたしは、奈々に顔を向けた。


「ねぇ奈々、他に何か面白いいじめ方無いかなぁ」


 奈々は暫く考え込んだ後、あ、と呟いてポケットから接着剤を取り出した。


「……これ使ってやりましょう」

「え、どうやって?」


 そう尋ねると奈々は口の端を歪めて接着剤をチューブから出した。


「決まってるじゃないですか……。椅子と机をこうやって床に貼り付けて……」


 それを美衣子の椅子の足にたっぷりと塗り付けて、床とくっつける。あたしもようやく意味が理解できて、顔を輝かせて両手を叩いた。


「なるほど! 奈々、あたしにもちょっとちょうだい!」


 接着剤を指に出してもらい、美衣子の机の足に塗って床に貼り付ける。ついでに机にも塗りつけて、美衣子の筆箱や読書用の本もそこに固定してやった。


「玩具屋さんのディスプレイみたい!」

「これ、絶対ショックだよー。あたしなら泣いちゃうね!」


 あたし達はこれを見た美衣子の顔を想像して笑った。あいつ、どれくらい絶望的な顔をするだろう?

 接着剤の臭いが教室内に充満する。流石にそれには男子たちも参ったのか、みんなゾロゾロと教室から出て行った。そして、男子達が教室から消えたその直後。……教室の扉が開いた。


「!」

「来たよ」


 その弱々しい扉の開け方で、扉の方を見なくても美衣子が帰ってきた事が分かった。あたしはにやりと笑みを浮かべて、その場に居た女子全員に指示を出した。


「……みんな、静かに!」


 それを聞いたみんなはお互いに顔を見合わせて、一切のお喋りを止めた。

 水を打ったように静まり返る教室内を、美衣子がゆっくりと歩いてくる。自分の机に広がっている光景を目の当たりにした美衣子は、一瞬だけ、唇を噛み締めた。が、すぐに無表情になって、机の上に貼りついた筆箱や本を剥がしにかかった。その行動を見たあたしは笑いを堪えながら、そっと美衣子の方へと歩いていき、声をかけた。


「美衣子」


 あたしが名前を呼ぶと、美衣子はそっと此方を振り向いた。


「な、何? るぅちゃん……」


 嬉しさと不安が入り混じった表情。あたしは美衣子に向かって優しく微笑み―――……一瞬で、眉を吊り上げた。


「雑巾貸して欲しいんでしょ? 貸してやるわよっ!」

「え……っ! きゃあ!」


 あたしは隠し持っていた雑巾を美衣子に向かって投げつけた。泥水に浸しておいた、とびきり汚い真っ黒な雑巾が、美衣子の制服を黒く汚した。瑠夏が甲高い笑い声をあげて、美衣子のその格好を指差して嘲笑う。


「すっごい! めっちゃ似合ってる〜! もっと綺麗にしてあげるねっ」


 瑠夏は予め用意していた泥団子を美衣子の顔面目掛けて投げつけた。他の女子たちも、クスクス笑いながら、泥団子を美衣子に投げつける。


「痛っ! 痛いよぉ! みんな、やめてぇ!」


 美衣子の苦しむ顔を見て、あたしは腹の底から笑い声をあげた。今までに味わったことが無いくらい、本当に最高な気分だった。

 沢山の泥団子が美衣子の体にぶつかり、粉々に砕け散る。美衣子は、だんだん抵抗するのをやめてきた。両腕をだらりと下げて、瞳から涙を流しながら、飛んでくる泥団子を体で受け止め続けている。美衣子のそんな様子を見ても、あたし達の勢いは増すばかりだった。


「ちょっとぉ……」

「面白くないじゃん」

「もっと泣き叫びなよ!」


 あたしは泥団子を引っつかみ、爪に泥が入るのも構わず美衣子の顔目掛けて思い切り投げつけた。今までより一際大きな音が教室内に響いたその瞬間、美衣子の体がその場に崩れ落ちた。美衣子は鼻を押さえて呻き声を上げている。美衣子の鼻から、滴り落ちる血。泥団子が鼻を直撃したらしい。それを見たあたしは、思わずガッツポーズをとっていた。

 いじめ始めてから初めて美衣子に血を流させることが出来たから、物凄く嬉しかった。だけどこんなのまだまだ、あたしが流した血より少ない。あたしが流した血よりももっとずっと大量の血を流させないと、気が済まない。

 鼻を押さえて床に蹲っている美衣子と目が合った。美衣子の目に生気は無く、あたしを見る美衣子の瞳は、もう友達を見ているような瞳ではなかった。


「……」


 美衣子は何も言わずにゆっくり立ち上がり、ポケットからティッシュを取り出して、それを鼻に詰めて止血を始めた。暫くの間黙って美衣子のその姿を見つめていた瑠夏が、妙に明るい声を出して、両手を叩いた。


「あ。そういえばさ、次って体育だよね!」

「あ、そっかぁ。着替えなくちゃね」


あたしたち4人とその他の女子は、美衣子に背を向けて着替えの準備を始めた。


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