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第11話 エスカレート

「みんな、おっはよー!」


 元気良く教室に入ったあたしの元に、瑠夏が笑顔で駆け寄ってくる。


「るぅ、おはよーっ! 今日も、やるんだよね?」

「当たり前じゃん! とことんやるのよ、とことん!」


 胸を張るあたしを見て、瑠夏は嬉しそうに笑って大きく頷いた。


「あのね、るぅ! 奈々ちゃんが、るぅのために作戦考えてくれたんだって」


 瑠夏はそう言って、自分の後ろにいた女の子をあたしの前に押し出した。その子は無表情のままで、あたしに1枚の紙を差し出した。


「……奈々が書きました。良かったら参考にしてください」


 この子の名前は、前田奈々《まえた なな》。 何を考えているのかわからない不思議なタイプの女の子で、今まで1度も話した事は無い。けれど、どうやらこの子もあたしに協力してくれるらしい。


「ええと……これは?」

「……お役に立てるかどうかは……あまり自身が無いのですが、一応作戦らしきものを考えてきました」

「ふーん……どうもありがと。ね、読んでみてもいい?」

「はい……どうぞ」


 その返事を聞いて、折り畳まれた紙をゆっくりと開く。その紙には、沢山の文字が細かく書き込まれている。それらすべてがいじめの計画だということに気がついて、あたしは思わず目を丸くした。


「……うーん、下駄箱に虫入れたり机隠したり落書きしたりするのは、確かに王道だけどありきたりだよね」

「……やっぱり、そうですか……。とりあえず、漫画やドラマを参考にしたものが多いので……」


 すると瑠夏がその紙を覗き込んで、急にニヤニヤ笑いを浮かべた。


「いいじゃん、この際全部試してみようよ。結構こういう王道のほうがキツいかもしれないよ?」


 あたしはそれを聞いて、小さく笑い声を上げた。それから顔を上げて、頷く。


「……うん、そうしよっか。確かにそのほうがあたしたちも楽しいしね。奈々ちゃんも、手伝ってくれる?」


 奈々は少し驚いたような顔をした後、すぐに、少し恥ずかしそうに頷いた。


「はい、勿論です。……あ、奈々で結構ですよ」

「ありがとね、奈々。ええと、それじゃ、瑠夏。京子も呼んできてくれる?」

「わかったー」


 瑠夏が笑顔を浮かべて京子を呼びに走る。あたしは口の端を歪めて、黒く微笑んだ。


 京子、奈々、瑠夏の3人がそろったところで、あたしは3人を従えて下足場へと移動した。美衣子の靴箱に駆け寄り、外靴を片一方だけ取り出す。そして、中庭から取ってきた湿り気のある土を、たっぷりと靴の中に詰め込んでやった。


「こんなもんかな。……それじゃあ、京子」


 もう片方の靴は、京子に渡した。


「これ、よろしくね」


 京子は親指と人差し指でマルを作って、元気良く返事を返してくれた。


「うん、任しといて!」


 そしてそのまま、靴を握り締めて中庭に向かって駆け出していく。あの靴は、中庭にある小さな畑に埋めてもらう事にしたのだ。


「さて、じゃ、あたしたちは」

「しっかり書きますか」


 あたしと瑠夏はお互いに笑い合って、ポケットの中から油性ペンを取り出し、美衣子の靴箱に中傷の文字を書いた。


『ばーか。学校来てんじゃねーよ。死んじまえ』

『お前みたいなヤツ、生きてるだけで害なんだよ!』

『マジきもい。死んでくんない?』


 ……他にも色々書いたけど、言い出したらキリが無いから、思い出したくない。ただ、思いつく限りの中傷の言葉は、一つ残さず書いた。 そうこうしている内に、京子が満面の笑みを浮かべて戻ってきた。


「言われたとおりの場所に埋めてきたよ!」

「あ、京子ありがと! ところで、アレは取ってきた?」


 あたしが尋ねると、京子は満足げに頷いて見せた。


「うん、勿論。これでいいでしょ?」


 京子が差し出してきたのは菊の花。中庭の後ろの墓地にあったものを拝借したのだ。


「これこれ!」


 あたしたちは菊の花を美衣子の下駄箱に詰めた。ついでに、自販機の下で死んでいたトカゲの死体も入れておく。美衣子はこれを見てどんな顔をするだろうか。想像しただけで、笑いが止まらなくなる。


「あとは美衣子が来るのを待つだけ!」

「教室戻ろっかぁ」

「美衣子、どんな反応するかな?」

「楽しみですね……」


 あたしたちは教室に戻り、(悲劇の)ヒロインが来るのを待つことにした。

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