第10話 狂気
目覚まし時計の音が部屋に響き渡る。 あたしは慌ててベッドから飛び起き、クローゼットに掛けてある制服を着ると、階段を駆け下りてリビングへ向かった。 階段を下りる音を聞きつけたのか、台所から顔を出したお母さんが、あたしに笑顔を向けてくる。
「おはよう、涙」
「おはよ、お母さん!」
あたしもお母さんに笑いかけてからテーブルについて、朝ごはんを口にかきこむ。そんなあたしの様子をじっと見ていたお母さんは、嬉しそうに微笑んで、こう呟いた。
「お母さん安心したわ。涙が元に戻ってくれて……」
あたしは一瞬、箸を止めてお母さんの顔を見た。 ……“元に戻った”というのはきっと、あたしが休んでいた3日間を思い出して言った言葉なのだろう。
「うん、もう大丈夫だよ。だって、」
だって……。その続きは言わず、あたしは椅子から立ち上がった。
「それじゃ、学校行ってくるね」
「ええ。気をつけてね」
「はーい!」
靴を履き、お母さんに手を振ってから元気良く玄関を飛び出す。駆け出すあたしの足取りは軽かった。マフラーの中を冷たい風が吹き抜けていったが、その冷たさすらも嬉しく感じた。
(お母さん、もう大丈夫だよ。だって、いいおもちゃを見つけたんだもん)
沢山、沢山遊んでやらなくちゃ。それはもう、壊れるほどに。いくらあいつを痛めつけたってあたしの傷は癒えないから、あいつの心にも大きな傷を刻んでやるんだ。