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第9話 恋愛

 夕焼けが綺麗。空気がとても冷たい。私の口から、溜息と共に小さなくしゃみが飛び出た。


「はぁ……寒い……」


 呟いた私の口から出た白い息が、赤い空へ昇っていった。

 ……今日は、色々あったなぁ。何ていうか、皆の態度がおかしかった。特にるぅちゃんが一番変だった気がする。大好きな親友なのに、今日はなんだか怖かった。違う人になっちゃったみたいに……。


「るぅちゃん……」


 るぅちゃんの顔を思い出したら、何故か少しだけ悲しくなった。


「るぅちゃん」


 もう一度るぅちゃんの名前を呟いたその時、後ろから、誰かに声をかけられた。


「美衣子」


 誰? ……もしかして、るぅちゃん?

 振り返る。……そこに立っていたのはるぅちゃんではなかった。そこにいたのは私の彼氏、雪ちゃんこと雪山拓正ゆきやま たくまさ(私は、雪ちゃんって呼んでいる)。雪ちゃんは、私に向かっていつものように、優しく微笑んだ。 


「どうした? なんか、ぼーっとしてるけど」


 私は慌てて首を横に振り、満面の笑みを雪ちゃんに向けた。


「んーん、なんでもないよ!」

「そうか? それじゃ、帰ろうぜ」

「うん!」


 雪ちゃんが大きな手で私の手を握り締めてくる。私は雪ちゃんの手を握り返して、ぴったりとその隣にくっついて歩いた。


「なぁ、美衣子」


 突然顔を覗き込まれ、私の頬は一瞬にして真っ赤になる。私は雪ちゃんから目を逸らし、聞き返した。


「な、なぁに?」

「あのさ、さっき、誰かの名前呼んでなかったか?」

「え?」

「ほら、るぅちゃん? とか……」


 複雑そうな雪ちゃんの表情を見て、私はすぐに理解した。自分の頬を両手で包み込んで、えへへ、と小さく笑う。


「るぅちゃんは私の親友だよ。男の子じゃないから、安心してね」

「そっか。それなら、いいんだけど」

「私、浮気なんてしないよ? だって、雪ちゃんのこと大好きだもん」

「……うん。ありがとうな。……たまに、不安になるんだ。俺、美衣子につりあってるのかなって……」


 頬を赤く染めて、雪ちゃんはそう呟いた。なんだか嬉しいような照れちゃうようなその言葉に、私の頬も更に赤みを増した。


「……私だって。不安だよ? 雪ちゃんかっこいいし、モテるし」

「はは、モテねぇよ」

「ううん、モテてるよ! だって、るぅちゃんも……」


 言いかけて、私はハッと息をのんだ。

 そうだ……、自分自身が幸せすぎてすっかり忘れていた。るぅちゃんも、雪ちゃんのことが好きだったんだ……。雪ちゃんの事を奪ったみたいになっちゃって本当にごめんねって、謝らなくちゃいけないんだった。


「……」


 雪ちゃんに告白されてから、もう2週間くらい経つ。 毎日幸せそうに雪ちゃんを眺めて恋バナをする、幸せそうな笑顔のるぅちゃんを見てたらどうしても言い出せなくて、こんなにも月日が流れてしまっていた。

 正直、言い出すのが怖かった。 るぅちゃんがこのことを知ったら、もしかしたら私との付き合いをやめてしまうかもしれない。それだけは、絶対に嫌だった。 雪ちゃんも大切だけど、るぅちゃんも私の大切な親友。 絶対に絶対に、るぅちゃんとは離れたくなかった。

 だから今日も謝るタイミングを掴めなくて、謝罪の言葉は喉の奥に引っかかって出てこなかった。 メールを送ろうとしても、いつも途中で指が止まってしまう。 こういう大事な事は自分の口からるぅちゃんに直接伝えた方がいいと思うし、文章じゃ、自分の気持ちが上手く伝わらない事も多いから……。


(るぅちゃん、今日ちょっと変だったなぁ。明日はちゃんとお話できると良いな)


 私は雪ちゃんに気づかれぬよう、小さく小さく溜息をついた。 白い息が雪のように、ふわりと舞った。


「じゃあ美衣子、気をつけてな」

「うん……いつもありがとう、雪ちゃん」


 いつもの交差点で私たちは別れた。手を振って、雪ちゃんの背中を見つめる。

 ばいばい。また明日ね。


 私は自分の家に向かって駆け出した。明日は、明日こそはちゃんとるぅちゃんに謝ろう。……そう心に決めて。


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